須田愛良を煽ってみた
おはようございます。
どんどん本来、考えていたものからずれていっています。
月曜日は重たい日なり、1週間の仕事始めはもちろん、好きな人や嫌な人にも出会う日なり。雨が降り、粒が髪の毛や制服にしみこみ、
「おはよう、愛良」
「英子、おはよう」
席に座れば、明日谷大和に須田愛良、風間広がにこやかな共同体を作りぬ。
「ぽえぽえ7のライブだっけ」
「すっごかったんだよ、すっごかったんだよ」
愛良の話に笑顔で相槌をうちつつ、隣の男子を見れば、
「大和、昨日のライブは良かったな。まさかガマリッシャー(ぽえぽえ7で一番人気のある曲)で、みんながスタジアムを突き破るとは思わなかった」
「本当だよ、あのとき、僕たちも飛んだ気分になったよね」
(大和の気分が良い。こいつもぽえぽえ7ライブに向かったのか)
「や、大和君」
愛良が少し震えた声を出せば、
「や、大和君もい、行ったの」
強くうなずく大和。
「あ、愛良ちゃん、愛良ちゃん、一人でいったの」
(一人でいったの、じゃないでしょ。馬鹿じゃないの、こいつ。弱々しい男の手助けをしてあげないとは)
張井は言った。
・あのかっこいい人と行ったのでしょ
・大和は愛良と××したいんだって
決断――
「あのかっこいい人と行ったのでしょ、愛良」
男が恋心を自覚するときは「嫉妬」がカギなり。大和がにらむ。
(ああ、大和は私を嫌っている。それでいい。私もお前が好きじゃないし)
「大二郎は私のいとこだよ、大和君。野球部で次期キャプテンなんだ。それに彼女もいるし」
大二郎は彼女がいない。ただ、たくさんの女の子が惚れている。小野田英子もその一人だろう。
「へえ、愛良こそお似合いだと思ったのに」
ますます煽れば、
「英子、だ、だからい、いとこだよ。大二郎君はがさつすぎて、私には合わないよ」
「合わないって、じゃあ誰が合うの、愛良の好きな人は誰」
大和の目が輝き、心臓の音が2メートル先から離れても聞こえる。
「大和じゃないの」
広も煽りに加わった。愛良の顔が真っ赤に染まり、鼻から血を流す。
「うそ、大丈夫」
「大和、倒れるな」
愛良を保健室に連れ、鼻血が収まれば、
「ごめん、ありがとう、英子」
「あんた、大和みたいな男がタイプなわけ」
目はあちこち動き、手を縦横に降り、慌てるロボット愛良。
「あんな、はっきりしない、なよなよした男のどこがいいの、男のくせに髪の毛を女っぽく縛っちゃってさ」
「や、大和君はかっこいいよ」
しどろもどろに吐いた息を飲みこみ、睨む友達。
(気持ちを吐き出せば楽なのに。さあ、私はどうしようか)
・ 愛良に謝る
・ 愛良を煽る
決断――。
「どういうところがいいの。私はああいう男、一番大っ嫌い。愛良が好きなのだろうけれど、愛良の前で何も言えないのだもん。あいつ、男じゃないよ。広君がいなければ、今頃ぶっ倒れて保健室に直行よ」
煽ってみた。小野田英子は嫌な女とみなしているだろう。ごめんね、英子。張井英子として、恋ごときにもだえる女を見ていると、ついつい煽ってしまいたくなる。
「そ、そこまでき、嫌いになることはないんじゃ」
くらりと体を引いた愛良をみれば、さらに一歩前足を出し、
「嫌いなものは嫌い。愛良、好きなら早く好きっていった方がいい。ま、私は言えない愛良を見て、ニヤニヤするけれど」
「い、言いたいけれど、こ、声が」
いやあ、煽るの楽しいわあ。思うと電話が鳴る。ロロナからだ。ナツリではない。
「英子、英子」
明るい子供の声にふっと笑みを漏らしつつ、
「どうしたの、ロロナ」
「あのね、ナツリがね、いなくなったの」
「周りにいないの」
アンアン。低い声を初めて聴く。
「ナツリはいつもロロナと一緒にいるのに、いなくなったの」
「ナツリについて心配はしていないけれど、学校が終わったら私も探す。戻ってきたらすぐ電話よ、ロロナ」
空を見れば怪しき黒雲が広がりぬ。愛良を煽りすぎて、空にいる神様もお怒りだ。