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あおい夢~キラメキDaughters~  作者: 千賢光太郎
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現実(あの世)と漫画の世界(この世)と

おはようございます。今日もお読みいただき、ありがとうございます

雪は積り、少女らの姿が隠れぬ。


「俺は現実の世界から来た」

「現実って何?」


黒丸はふわふわ浮かび、


「おいおい、お前が『漫画』の世界にどうやってきたか、忘れたのか?」


奴の意図に気づき、英子は震えた。


「お前と同じ、俺は『現実』の国からやってきたのさ。現実は辛い。どれだけ俺が努力をしても、頑張っても才能とセンスの優れたやつにはかなわない。俺はもがいているのに、こいつらと来たらみーんな幸せな顔をして楽しんでいる。お前は思い当たることがないのか? どうして自分ばかり余計な苦労をするのかって。俺は苦しい。そしたら漫画から淡い光が発して、俺はこちらの世界にやってきた。すると俺には理由が分かった。漫画の世界にいる連中は現実の世界にいる人間の夢や希望を吸いつくし、形にしていると」


頭を押さえぬ。寒さで考える力も失せる。


「意味が分からないだろ。漫画は人の想いや願望をなるべく形にしたくて生まれる。人の夢や希望を形にするには、人から夢や希望を先に奪って形にしなければならない。じゃないと、読者はそこに希望を見出さないからな。漫画を読めば人は希望を吸いつくされて、こちらの世界にいる人間がますます楽しい人生を送る。漫画だけではない、アニメーションや小説、ドラマに演劇、創作と言えるものがすべてそうだ。現実から夢の世界に向かってエネルギーが流れている。物理でいうエネルギー保存則が成り立っているのだよ」


黒玉は少しずつ膨らみ、てっぺんが赤くはれる。


「だからお前はここで苦しんでもらおう。お前の苦しむ顔も、俺にとってはデザートの一つだ」


(寒い、苦しい、眠くなりそう。私は死ぬのか。武彦を救えないまま、私は死ぬのか)


笑う黒玉、雪はますます強くふり、頬にビタビタと叩きつけられると、


(体よ、動いて、動いて。私は、こんなところで凍えくたばっている暇じゃないの)


うちよりジワリと熱を感じ、重たいながらも一歩、また一歩と歩く。相手をにらみ、歯を食いしばり、拳を強く握り、おおまた、大股、雪の冷たさなど気にするものか、武彦を残したまま私は死なない、死んでたまるものか。


「歯向かうか」


音速で進む黒玉、英子の顔に当たり、再び吹っ飛んだ。じゅくじゅくと血がもれ、痛みが顔に集中し、頭がくらくらする。血は真っ白な一面を赤く染める。


「ああ汚い、だが醜い顔は面白い」


黒玉は先端がナイフのようにとがって、英子を突き刺そうと――


「う、動かない! なぜだ!! だ、誰だ、誰だ、そこにいるのは!」


気づけば黒玉が目の前にあり。後20センチで英子の首筋に刺さるところだった。


「何が、起きたか、わ、わからないけれど、赤く腫れあがったところを壊せば」


英子が黒玉のてっぺんにある、赤く腫れあがった部分を叩くと、


「嫌だ、現実に戻される!」


悲鳴を上げ、黒玉は砕けた。ゆるりと立ち上がり、すぐに少女のそばにある赤い球も壊せば、少しずつ雪が解けていく。


「大丈夫、今すぐドーターズが君を温めるから」


平らな胸の少女が、真っ青な体に染まった女の子を励ます。血を数滴もらし、英子は木陰に隠れた。A3用紙の紙が一枚、壁に貼り付けられていた。声に出して読んでみる。


「私たちがいる世界から創作の世にやってきた場合、私とこの世にいる人間は体と心がつながっている。私が具合悪くなると、この世でつながっている誰かが具合悪くなり、その反対も正しい。私とこの世でつながる誰かは必ず、この世で一番執着を持つ者だ。私は誰とつながっているのだろう。今の世界が地獄なら、私が天国にいたとしても、彼の世界が地獄だから、苦しみが続いているのだ。覚えておいて、英子。小野田英子より」


温かみを感じ、雪が一気に溶ける。血はまだぽたぽた漏れる。頭がふらつく。向こう側でまばゆい光が漏れ、ココアがアスナの手を握った。


「大丈夫ですよ。私たち、キラメキドーターズが温めましたから」

「後は大和君だけだね。私は」

「アスナ、あなたは楽しく明るい心を持っていてください。あなたが暗くなると、大和様も暗くなります。もう反省もしましたし、私たちは扉が開くのを待つだけですわ」


大和様――わずかに漏れる笑み。


「ひぃ」


後ろを向けば、2メートル先に武彦がいた。


「武彦」


英子は彼の手をつかみ、きっちり抱いた。息子の肩に血がべとりとつく。


「放して、化け物」

「化け物じゃない、あなたのお母さん、ママよ」

「やだ、離して、化け物。あ、あああ」


息子の顔がブルブル青ざめ、目は北極星、涙も止まり、英子が後ろを振りむ――!

次回は新しい話が……

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