進の友達、石井徹君
お読みいただきありがとうございます。
道を歩けば大宮の忍池、猪熊もよけられぬ直角を曲がりて小宮の表札が見え、モザイクがかった雲間から垣間見える金色の光、可憐な花が咲くころに、二人の少年が来た。
「はじめまして。俺は石井徹です」
ゴリラなみの体、おいしいたらこ唇、太い眉に威厳ある瞳、針地獄の髪の毛、岩石を砕き接着剤でくっつけた肩、腕、脚。
「進と違って体格が良いね」
「柔道をやっているんで」
「なるほど。あ、君もまっさらな小説を持っているんだよね」
徹は見せる。少しだけ文字があり、次の展開は真っ白に染まりぬ。
「ありがとう。徹君、これをどこで手に入れたの」
「コーチャンじゃなくてサイレントホースだけど」
きょろりと揺れる瞳、後ろより勢い良きスポーツ車が通る。
「徹君は怖い存在に出会ったの」
「ぼんやりした紫色に光る物体がいた。宇宙人かな、幽霊とはいいがたい」
「私も出会ったよ。あの人のお子さんが無事だといいんだけど」
青い空が雲に隠れ、けしきは白と灰に染まる。
「たぶん大丈夫。英子さんが無事ですもん」
徹は英子の目をまっすぐ見つめる。
「進の姉ちゃんに渡しておきたいものがある」
長方形で緑色の携帯電話を渡される。
「姉ちゃんが変な世界に連れていかれそうになるとき、電話が鳴る。父ちゃんが持っておけって言った。英子、くれぐれも、この世界の幸せに心を持っていかれるなよ」
獲物を威嚇する瞳で見られると、
「徹、怖いわ」
「ああ、父ちゃんがきっちり言っておけって言ったから。じゃあ進、遊ぼう」
パラパラと風が小説をめくり、次のページを開けば文章あり。
「英子は携帯電話を拾った。緑色で機種は古い。ぴりりと音が鳴る。雨が英子の額に当たる。
持ち主かしらとつぶやくと、主は小野田英子だった。
思わず受話器ボタンを押し、もしもしと声を出せば、
私の体を返して。あなたのせいで私はおばさんだ。
今、私のそばに一人の男の子がいる。
彼は言った、お母さんは悪魔にとりつかれていると。
張井は言った。あなたは何を言っているの。そこに武彦がいるの。
小野田は言った、いる、だから早く迎えに来て。この子をあなたの元に届けない限り、肉体は永久に戻らないとおじさんが言った。だから早くこちらの世界に来て。
張井は言った。どうやって行けばいいの。今すぐ行って武彦を連れ戻したいけれど、私はわからない。
小野田は言った。入口は私の家にあるテレビ、月に虹がかかったら、テレビは扉になる。
張井は」
ぴりりりりり。雨が降り始めた。
次はいよいよ「アルムの世界」に入る予定です。
誰もが入れる場所でないところに強引に入ると……
<用語説明>
道を歩けば大宮の~可憐な花が咲くころに:
漫画「きんいろモザイク(原悠衣、芳文社)」に登場する主格たちの名前から、
「つなげてみると面白そうだなあ」思って、やってみた。