恋愛ものの書き出しを練習した。2
女性は閲覧注意、てか見ない方がいいとおもう。
「課長、あとの戸締りは僕たちでやりますよ」
決まった文句はないにしても、お互いなんとなくで伝わることがある。
「そうか、悪いな」
課長の奥さんは怖いことで有名だ、社内でそれを知らない人間はいない。
特に仕事帰りに寄り道なんかした日には、大変なことになるらしい。
だから僕らがそう言えば、課長は絶対に帰らざるを得ない、絶対にだ。
僕がそう言えば責任者は姿を消し、佐藤さんは出張で明日まで帰らない。
仕事に打ち込む好青年のふりをして、いや、仕事はしていた。
最初はただの出来心だった。
翌日の分の仕事をすこしだけ進めようと、定時の後に作業をしていた。
彼女は自分より優秀だったが、手間取っていたということでは同じだ。
新人研修の時からツーマンセルでやってきた仲だ、お互い気は知れてる。
だから二人きりで、場所を共有する事には問題が起こらないはずだった。
きっかけがあったとすれば、節電の為に照明を半分落としたことだろう。
昼間には多くの先輩たちがせわしなく働くこの職場が、窓から差し込む、
向かいのビルの明かりに誘われて、色気づいてしまったのかもしれない。
彼女は純粋に「相談がある」と言って、デスクに掛けながら自分を呼ぶ。
資料に目を通してみたらいくつか矛盾点があったことを覚えている、
だけどそれ以上に、軽く乱れた髪、白のワイシャツにうっすらと汗が、
首筋からは柑橘系の香水の匂いが漂い、段々と歯止めが利かなくなった。
意見を求められていたから、どうにか理性を保って彼女から逃げる様に、
離れて持っていたボールペンでいくつか箇条書きをして、渡した。
「ありがとう」
はにかむような笑顔で言葉を発した彼女の、甘く潤った唇に耐えきれず、
その華奢な体を後ろから覆うように抱きしめ、耳元で吐息を漏らした。
彼女は驚いたように一瞬びくっと体を震わせたが、次第に鼓動は同期し、
お互いの体温が燃えるように熱くなった頃、瞳を合わせてきた。
それが了承の合図だと通じ合って、彼女の腰に手を回してゆっくりと、
そのほんのりと赤く上気した肌に触れながら、はだけている髪を払う。
背後に輝く町の明かりに祝福されるように、唇と唇を丁寧に密着させた。
閉じられていた温かい空間に、舌を這わせるように滑り込ませて、
甘い蜜のような唾液を交換しながら、息遣いまでも二人で共有する。
彼女は息が苦しくなってきたのか、目を細ませて自分に訴えかけてきた。
もっとその体温を感じていたかったが、仕方なく塞いでいた唇を離すと、
はあっ、という声が口から漏れて、吐き出した空気の塊が首筋にかかり、
数秒も経たない内にもう一度彼女の唇をふさぐことになっていた。