大三島
大三島は、しまなみ海道の途中にある比較的大きめの島であり、車で行ける。最早本土との違いは無さそうだ。しまなみ海道ができる前はどんな町並みだったのだろう。古は海の要路だったという。鷲ヶ頭山の麓には神社があり、二人はその近くに車を置いた。鷲ヶ頭山の高さは300メートルほど、駐車場から眺めても、ゴツゴツとした岩肌の急斜面を持つ山容だ。神社の境内には古木が祀られていた。
二人は飽きもせず馬鹿な話をしながら登って行く。
「きのこ」修三は杭を埋め尽くすほどびっしりと群生する黒いきのこを見つけた。「良いね良いねー♪」しゃがみこみ、アップもロングも写真を撮りまくる。
「はっは、変態め」陽介が修三の恥態を撮影する。
少し登ると巨岩の連なる急斜面に出た。太い、茶色の鎖が垂れ下がっている。
「おおー、これはなかなか」修三は歓声をあげた。高さは10メートルほど、60度ほどの傾斜。掴みどころも多く簡単そうだ。「いける?」振り向いて陽介に訊く。
「まあ大丈夫でしょ」
「でも太るのは悪だからなあ」
「なめるなよ、子供の頃からエースで4番!やる気と根性なら誰にも負けません!俺くらいの男なら初陣でザ○の一機や二機、落として見せるさ」
「おお、元気だね。何か良いことでもあったのかな?(ゴミいちゃん)」
「はっはっは、普通だよ、カスが」
お茶を二口飲むと「さあ行くか」修三から鎖をよじ登って行く。結構腕力を使う。上の段に立った。振り向くと海と島々が美しい。陽介も遅れて登ってきた。さあ次だ。
少し歩くと次の鎖に着いた。修三は一目見て難しさを感じた。高さは20メートルほど、角度は70度くらい、問題は掴みどころの少なさだ。手足の置き方、掴み方が重要だな。
「ちょっとこれは厳しいなあ、あら!」振り向いて修三は驚いた。いつの間にか陽介が汗だくになっていたのだ。「おいおいどうしたの?すごい汗だけど」
「ちょっと鎖がきつかったかな」
「そうか・・・やはり太るのは悪だな。いける?これ」
「まだまだ!」
「そうか、まあ、もう少し休憩してから行こうか」
二人はグミを食べ、海を眺める。風が涼しい。薄い雲が群れている。
「ふう、静かだな」陽介が言った。他に誰も来ない。
「人類は滅亡したんじゃないの」
「はっは、そうかもな」
修三はその鎖に取りついた。やはり厳しい。掴みどころが少なすぎる。どうしようもなくて宙を走る太い鎖の輪に足を乗せる場面もある。下を見る。落ちたら死ぬかも。しかし恐怖は薄い。鎖は頑丈で乾いており、滑る恐れは少ない。握力も充分残っている。ぶら下がったまま手足の位置をこまめに調整し、10数分後、ようやく鎖を登りきった。
「いいぞー!」修三は叫んだ。崖下で陽介が頷いて鎖を掴む。修三の傍らでも鎖が揺れた。
見ていると危なっかしい。動作に落ち着きがない。
「もっとゆっくりでいいよ!」
しかし鎖は激しく揺れ続ける。その揺れ方が既に危うい。そうして悪戦苦闘をしばらく続けた後、陽介が叫んだ。
「もうこれ無理!降りるぞー!」
「わかった!大丈夫か?」仕方ない。怪我するよりは良い。「降りる方が危ないから気をつけろよ!下りたら神社で待ってろ!」修三は叫び、陽介がその鎖を下りきるまで見守るやすぐに登坂を開始、安神山に登頂した。峰の向こうに鷲ヶ頭山が見えたが、ここで断念して下山する。舗装されたメインルートを使ったので30分ほどで神社上の公園に着いた。登山道を見張るに良い場所なのでそこで待つ。
20分ほど過ぎ、さすがに心配になって修三が様子を見に行こうかと思った頃、陽介が降りてきた。やっと来たかと、修三は立ち上がる。と、気が抜けたのか陽介がこけてしまった。
おいおい大丈夫かよ、と修三は手を振って歩いていく。
陽介がすぐに起き上がる。ズボンに穴があき膝をすりむいているが、大丈夫そうだ。公園で遊ぶ子供たちの視線を受けて恥ずかしそうな顔をしているので、修三は派手に前転でこける真似をしてからかった。
「てくてく、ぐはあっ!」ゴロゴロゴロゴロ。
「あっはっは!カス野郎」
「いたいよ♪」
「むきー!」
その後温泉にて。
「この湖の水は駄目なんだって!そんな身体で入ったら!あー!(ナウ○カ)」修三がからかうと、陽介は「ぐおおおおおおおお」と唸っていた。傷にしみるらしい。
「いたいよ♪」
「そうだな」
広島の友人宅には夕方着いた。さすがに疲れた。奥さんが鍋を作ってくれた。二人ともよく食べ当然完食。