イベント阻止
「もう、嵐君っ、こんなところで何サボってるの?!」
「いいじゃねぇか愛海。少しくらい」
主人公、つまり月光班班長の愛海が同じく月光班の一員である嵐の前に仁王立ちしている。
彼は梓の兄であり、愛海の幼馴染。
そしてサボり癖があるから、今日もそれを咎めているのだろう。
「……はぁ」
私についてきて仕事を手伝ってくれていた陽が溜め息を吐いた。
彼女は愛海の双子の姉で、嵐には昔から片想いをしているが、いつも欲しいものを愛海に譲ってきたことから、踏み出せずにいる。
嵐ルートでの愛海への、黙っているしかない嫉妬心は共感を覚える人も多く、二次創作やノーマルエンディング後を描いたスピンオフでは、陽と嵐が実は元々両想いという設定で
描かれることが多かった。
その甘酸っぱさは青春ものかと床を転がったほどだ。
「そんなに悩むんなら、声かければいいのに」
「な、悩んでなんかないよ!燎は変なこと言うなぁ~…」
「バレバレだけど?」
「…うぅ~」
真っ赤になって、抗議するように私の制服の袖を掴む陽。
彼女の恋が破れた原因は行動をしなかったことなんだから、嵐の心が愛海に向かうまでに行動させればいい。
というか、まぁ、泣くことになる陽を見たくないだけなんだけど。
「陽。好きなら遠慮なんてしちゃダメだと思うよ。幼馴染って点なら、陽だってそうなんだから」
「…でも…」
「普段は超前向きなのに、こういうことになると恥ずかしがるんだから」
「ふぐぅ…」
小動物のようで可愛いな、と思って頭を撫でようとすると。
「おーい陽!」
「!え、な、何、嵐?!」
「何焦ってんだよ。これから見回り行くんだけど、何か欲しい土産とかねぇか?」
「買い物に行くんじゃないんだよ!」
また、咎める愛海の声。
「いいじゃねぇか。ただ見て回るだけじゃ街の人から話も聞けねぇし」
「そうなんだけど…」
「なら、陽」
「何?」
「お仕事です。月光班の嵐と一緒に見回りをして、街で情報収集をしてきなさい」
「…了解。情報は…例の件で?」
「そう。頼みます。愛海さん、嵐さんを少々陽の仕事にお借りしますね。コースは月光班の巡回コースに従うようにしますので」
「…分かりました」
仕事の顔になると、私や愛海は敬語を使うようにしている。
そのほうがメリハリも出るし、若い班長ということで甘く見られたくはないからだ。
本当なら、嵐の陽へのセリフは同じであるものの、愛海と嵐が見回りに行くイベントだった。
少しずつ、イベントにズレを生じさせれば逆ハーになることなく、恋愛対象が一人になってくれると思うんだけど…。




