幼馴染は攻略対象
「お疲れ、燎」
「!紅牙、それに涙も」
私は、幼馴染に声をかけられて振り返った。
「今日は大活躍だったんだって?」
笑う度に、紅牙の朱色をした癖毛が揺れる。
「茶化さない。普通にモンスターを退治していただけなのに」
「その退治の時の強さが生半可ではない、と皆話していたが…」
そう言った涙がなんとも言えない表情で首を傾げると紫色の髪も一緒に揺れた。
「紅牙は諦めたけど、涙までそういうこと言うようになったの?」
失礼だなぁ、と続けると、二人はおかしそうに笑う。
…この二人、実は攻略対象なんだよね…。
相手が嫌な子じゃないって分かってるから複雑だなぁ…。
「それに、二人だって月光班で活躍してるって聞いたよ。
若いのに大したものだって」
「活躍してるって言ってもね…モンスターを最終的に一番駆除してるのは、うちの班長…愛海だから」
「ああ。班長は女性ではあるが、強い」
「他の人たちだって強いでしょ?
少数精鋭だから当然といえば当然だけど」
というか、攻略対象を固めた班だからね。
ちなみに私の所属する十六夜班はライバルキャラを固めた班だ。
「ま、そうなんだけどね」
紅牙が肩をすくめる。
今日の仕事はとりあえずは終わりだから、寮に戻って休むだけだ。
ゲームでは日常パート、戦闘パートを一日で繰り返して、寮に戻って休めばそれで終わりだったけど、現実では休んでいる間に召集が来ることも稀ではない。
「じゃ、おやすみ」
「ゆっくり休めると良いな。おやすみ」
「だね。おやすみー」
月光班と十六夜班の寮の建物は同じ。
ただ、ロビーを通じて男女で別れているだけだ。
ちなみに、体力回復を犠牲にロビーで絆を深めることも出来る。
ただし、終盤にそれをやると、ライバルキャラたちと戦闘になった時、敵わなくなってくる。
回復スキル持ちがサポートキャラと攻略対象一人って、ある意味鬼畜ゲーだと思う。
…ライバルキャラに当たる私達十六夜班は全員が、治癒どころか、戦闘不能時の蘇生すら使えるんだから。
今は私になっているけれど、“燎”なんて強さがハンパじゃなく、『チート』だとか『真のラスボス』とか言われていた。
RPGじゃないから、強くてニューゲームもないしね。
というのも、女の子には優しい紅牙は、好感度が上がりやすい。だから、ゲームバランスを整えて難易度をあげるためらしい。
上げすぎだと思うけど。
逆に、好感度の上がりにくい人はライバルがいなかったり、ライバルの強さがきちんと鍛えておけば勝てるように設定されていたと思う。
…というか、散々強いって言われたって、班を任される私は多少強くないといけないんだけどね。