作戦とは。
棗の能力で、もう一度、犯行が起こる場所が分かった。
愛海の復帰後、満さんたちが説明してくれたのは、モンスターの意識を乗っ取るよりは簡単な、マーカーをコピーして、解析するという作戦。
マーカー、というのは、敵と味方を区別するために術でつけるもの。
私たちの場合は制服などの支給品についているから、かける必要はない。
話は逸れたけれど、マーカーの解析を行うことで、バックに大きな組織があるのか、単独犯なのか。
どこの誰であろうと探知することが出来る。
そうすれば、犯人を特定して追い詰めることが出来る。
それは、いいとして。
「どうして私は作戦から除外なんですか?!」
そう。
棗だけでなく、私も待機組確定だったとのことで、自分で動こうと思っていた私には不満しかない。
「自分を犠牲にする作戦を立てていた君を連れて行くわけには行かないでしょう」
「……」
「それに、前回お手柄だったんです。今回は月光班に譲ってください」
「…はい」
話によると、マーカーに関する操作は浅葱さん、玲夜さん、満さんのように一度は指揮を任されたことのある人間なら騎士団にある書物で学ぶことが出来る。
私や愛海は班長ではあるけれど、未熟な新米だから知らされていなかったらしい。
「月光班でも、紅牙は確実に待機組です」
「ま、仕方ねぇか。って、オレがダメならアンタもじゃねぇの?」
「僕は作戦を立てた張本人で、何年も精霊騎士をやっています。君はまだ新米の域を出ていません」
「何かムカつくんだけど…はぁ。ま、燎の側にいれるんならいいかな。あとの居残りメンバーは?」
「そこはまだ、ですね。指揮役として愛海さん、そして作戦決行役の僕たち3人と、拘束する術を持つ咲さんは確定なのですが…」
「なら、私は連れて行って…ください」
「アタシも。ツタで縛ることはできるっすよ!」
雷の術と土の術は、確かに相手の動きを止める術が多い。
歩や薊は適任だ。
「私からも、歩と薊が作戦に参加することを推薦します」
班長の顔に切り替えて、みんなに…というか愛海に進言する。
「はい。作戦決行時、十六夜班の班員を二名、お借りします」
これで、一応公的なやりとりは終了。
ちゃんと口頭でもやりとりをしなければ、無断で班員を連れて行ってしまったことになってしまう。
事後報告でも処分対象になってしまうんだよね。
そこが面倒くさい。
「……」
ミーティングを終えて、ロビーのソファに座る。
「あんまり根詰めすぎても、よくないんじゃない?」
「紅牙…」
「オレは正直、お前が待機組でよかったよ。これ以上苦しそうな燎は見たくないから」
「苦し、そう…?」
「ああ。何がそこまでお前を追いつめてるかは分からない。でも、それで一人で苦しみを抱え込んでることは分かる。幼馴染で燎という人間を何年も見てきたオレが言うんだから、間違ってないと思うけど」
「…すごいね、紅牙は」
紅牙は、観察力やら洞察力やらそういうものが人並み外れて優れている。
人を見る目がありすぎて、本当に信用できる人間とできない人間を小さな頃から区別して接していた。
というのも、自分と契約が出来ない精霊でもその声を聴くことが出来る一族の一人として、神官家の一人として生まれて、周りには大人だらけだったのだ。
年齢の割に大人びている彼にはよく“子供の癖に”という言葉がぶつけられていた。
それはかえって紅牙を背伸びさせた。
大人に甘えるどころか、対等の立場になれるようにうまく立ち回る。
そんな子供だったから同年代のレベルには合わせられなくなって、独りになっていった。
小さい頃から親同士が親しくて、彼の生まれた寺院を遊び場にしていた私以外の誰も、彼と友達にはなれなかった。
そんな時に、涙が精霊術の修行のため、彼の父親を尋ねてきた。
やっと、紅牙の世界にもう一人の友達が増えた。
だから、今でも紅牙は自分側の人間とそれ以外を区別しつつ、うまく人間関係を作っている。
そこまで紅牙のことを考えて、ふと気づいた。
愛海に対する紅牙の好感度が低い理由。
―彼女を自分側の人間だと思ってはいなかったから。
私が、紅牙の側にいすぎたから。




