まさかの真実
ある日、犯人割り出しのため、作戦を練ってくれたという浅葱さん、玲夜さん、満さんから説明をしてもらおうと、再度ミーティングをしている最中、愛海が倒れた。
「僕の見立てでは身体的な原因としては風邪でしょうが…燎の見解ではどうです?」
「私も同じです。ただ、倒れた原因はストレスもあると思います」
闇の精霊術を使えば精神を視ることが出来る。
私が愛海の身体状態と精神状態を同時に診たことに玲夜さんは気付いたんだろう。
だから、私にも意見を聞いてきた。
それに、今世での私は医者の娘だから、この世界における医学書を絵本代わりに読んでいた。
それを何かの役に立たないかとある程度の年齢になってもう一度読んだりして基本的なことくらいは覚えている。
「…どちらにしろ作戦の説明は出来ないな」
「そうだね~…でも、予知をしておいてもらう必要はあるってことだけは話しておくよ」
新しい作戦は途中まで私が考えることのできたものと似ているらしい。
だから、棗の予知能力は不可欠とのことだった。
「…分かりました」
「あとのことは愛海ちゃんの体調が回復してからきちんと説明するから、また後日改めて集まろうか」
誰も、満さんの言葉に反論するはずもなく、その日のミーティングは中止となった。
ミーティングルームを出て、自室に戻った私はなんとなく、ベッドに横になった。
平静を装っていたけど、愛海が倒れて誰よりも動揺したのは多分、私。
というのも、本来のどのルートとも流れが違うのだ。
ミーティングの時に体調を崩すのは、愛海が攻略しているキャラで好感度の高いキャラか、もしくはノーマル、逆ハールートでの私。
逆の立場になっているのだ。
…ノーマルルートじゃないのかな、とも思うけど、御前試合のカードを見る限りでは逆ハールートだ。
でも愛海はあんまり逆ハーのためのイベントをこなしていなかった。
むしろ必要なイベントは私たちが何気に消化してしまっていた。
あとこなしてそうと言えば、今キッチンでお粥を作っている梓のところだけど…でも、その時も梓が体調を崩さなかったかな。
もしかして、御前試合の時点でもうゲームシナリオからは外れたのか。
だとしたら…私、みんなに失礼なことしてるよね。
口には出してないけど、ゲームのことばっかり考えてて。
現実だっていう実感はちゃんとあるから誰のこともキャラクターだとは思ってないし、思えない。
キャラクターとして見ていた時と違って、みんなの人間性に触れているからだと思うけど。
もう、ゲームのことは考えない方がいいのかな…。
うとうととして、私はそのまま眠気に身を任せた。
―…ん、ここは…どこ?
見覚えのある光景。
…学校だ。
「あたしバッドエンドも見てみたいと思ってやってたんだけどさー」
“私”に話を切り出したのは、同じように『月光の恋』が好きな友人だ。
「やったの?!」
「モチロン!でもねー、バッドエンドを中々見れない理由もやったらヒロインに感情移入しにくくなった、とかトラウマエンドとか言われてる理由も分かったわー」
「え、何かヤバいの?」
「ヤバいっていうか。大まかな共通イベント覚えてる?あの中の逆ハールートで御前試合が団体戦になるじゃん?」
「あー、あの鬼畜プレイ?」
「そ。あれで普通に他のキャラが生き残ってるうちに倒されるとゲームオーバーなんだけど、その時に、最後まで残りつつ他の十六夜班のキャラを倒してから、班長の燎と一対一になるの」
「ふんふん」
「それで勝てば普通の逆ハールートなんだけど、負けるとバッドエンドのフラグが立つみたい。そのままシナリオが進んでったから」
「え、そうなの?!」
「犯人探しの作戦会議の時にキャラか燎が倒れるでしょ?」
「うん、確かキャラの場合はただの風邪だけど、燎の場合は御前試合の時に絡まれたのと御前試合で負けたからっていう自己嫌悪のストレス…だよね。何か変わるの?」
「そのルートだと、風邪とストレスで倒れるのが自分に変わっちゃって。一番好感度の高いキャラがお見舞いに来てくれるのはいいんだけどね…」
顔を曇らせる友人。何かあるのだったろうか…。
「御前試合の後に絡まれるイベントは、一番好感度の低い対象キャラに対応するライバルキャラの誰かが庇うことになるんだけど、勝った十六夜班も馬鹿にされちゃうわけ。そのことに対する罪悪感がまず一つね」
「あ、それで絡まれたことと負けたことも気にして、余計悩んじゃうってこと?」
「そ。ずっと勇敢だったり強かな選択肢ばっかり出てたでしょ?そこからすっごくネガティブな選択肢ばっかりになっちゃって、3つの内2つが好感度下がる選択肢になるくらい」
「え、もう絶望的じゃないの?」
「まぁ、最後のイベントでの犯人は逆ハールートの時と同じなんだけどさ。それを突き止めた後、月光班単独か十六夜班との二班で行くことになるんだけど…ラストバトルの強さが段違いなんだよね」
「えー…」
「あたし最初十六夜班に協力してもらうことにしてて。何で十六夜班最初から参加してくれないわけ?!って叫んだし。で…トラウマになるのはここからなんだよねー…」
「何、それ…」
もう恐いもの見たさとかそういう感情で、先を急かした。
「好感度に関係なく、戦闘不能になったキャラから順番に…操られてって攻撃してくるの。しかも犯人なんて全体即死攻撃持ちになってるしさ」
「え…即死に耐性付いてるの自分とボスキャラくらいじゃなかった?」
「うん」
「…やばくない?」
「バッドエンドだもん。十六夜班がついてきていればそこでやっと戦闘に参加してくれるんだよね。蘇生の使えるキャラもいるから仲間を戻すことも出来るし。で、そこでヒロインが殺されるか最後までボスを倒すかでエンドも分岐します」
「……」
「ノーマルエンドよりちょっとだけ暗い未熟さ痛感エンドになるか、十六夜班がそのままイベント内で戦って気づいた時には事件解決してましたエンドになるんだよ」
「ふぅん?案外軽いね」
そんなにトラウマにならないんじゃないのかな、それなら。
「…で、試しに月光班単独のパターンもやったんだけど…」
「うん?でも合同だから止めるキャラとかいそうだけど」
「単独で先行するの。で、助けてくれる十六夜班がいないから、全員が操られてからはどうあがいても殺されるしかないわけよ。攻略対象プラス1人って、勝てる気する?」
「しない…」
「で、操られたまま十六夜班に攻撃を仕掛けて、操られてから時間が経ちすぎて闇の支配を断ち切れない、ということで月光班全員殺戮エンド」
「…絶対見たくないね、そんなバッドエンド…」
―…。
「はぁ…っはぁ…っ」
飛び起きた時には、かなりの量の冷や汗をかいていた。
そうだ、思い出した。
今の流れは、私が友達に聞いていただけのバッドエンドに進んでるんだ…。




