ある意味お約束
思ったよりも準決勝に時間がかかったので、決勝は午後に回された。
そんな、昼休みの廊下。
「月光班の班長さんよぉ、俺たちゃアンタたちが準優勝する方に賭けてたんだぜぇ?」
「それを、何だよ。十六夜班なんぞに負けやがって」
「そんな…私たちのせいじゃ…!」
「アンタが、班長のくせに弱いから悪いんだろォ?」
「どう落とし前つけてくれるんだァ?」
…神聖、とされる御前試合で賭博してたのか、この男ども。
続けられる罵倒を、俯いて唇を噛みながら耐える愛海。
もしかしたら、ゲームでは“十六夜班の班長である燎”がその立場になっていたのかもしれない。
そういえば…チーム戦になるルートで、決勝前に紅牙が機嫌悪くしていたという描写があった。
今のような状況を見てしまっていたんだろう。
「ちょっとよろしいですか?」
「あぁ?!今忙し…?!」
「ずいぶんと勝手なことを言っていますが、それは禁止されている賭博をしていた貴方達が悪いんでしょう?なのに、全力で戦っていた月光班の班長を貶めるような言動…お門違いにもほどがありますし、許されたものではありませんね?」
「う、うるせぇ!闇と契約した化け物のくせに!」
「大体、お前らなんかが勝つのが悪いんだよ!!」
「…お前らなんか、でも、化け物でも…私は構いませんが…私の仲間たちのことをも貶すのなら、私も容赦しませんよ」
「?!」
「この件は精霊騎士団長を通じて総騎士団長に報告させていただきますので、あしからず」
「なんだとォ…?」
「おい!やっちまえ!!」
「この女を黙らせりゃ報告なんぞされねぇんだからよ!」
ぞろぞろと出てきた、一般兵士。
そういえばゴロツキ上がりもいるって聞いたな…。
あれだけの戦闘を繰り広げてはいたけれど、私は元々タフな方だ。
それに、闇の精霊術で動きを止めるなんてのは序の口だ。
「ほら、お望みの化け物の力…闇の精霊術だ。こんな小娘相手に、こうして集団でかかるしか脳がないのか?暴力で訴えるなど、お前達には兵士としてのプライドすらもないのか?なら…兵士としての恥以前に…まず人としての恥を知ってこい!!!」
私の大声が廊下に響く。
異常事態だと思った人がいたのか、近づいてきたのは一般騎士団長と精霊騎士団長。
だから、彼らの目の前で、団長たちに正確な報告をさせていただいた。
「御前試合が終わったら、賭博に乗っていた者たちには処罰を与える。見つけ出すためにも、御前試合は続けることになる。それでもいいか、燎班長」
「…はい。ただ、生意気なことを言わせていただくなら…団長たちが相手であろうと、虫の居所が悪いので術のコントロールが不能になることもありますので…そこは不敬とせずにご容赦ください」
「分かっている。というよりも一班長に簡単に負けるようでは団長などやっていられんさ。油断すれば、ということもあるだろうが…今のことで油断せずに戦うことにするよ」
では、良い試合をしよう。
そう言ってから、団長は去っていった。
愛海はショックが強かったようだが、観客席にいるね、と言って立ち去った。
まぁ、精霊騎士団側の観客席にいれば、賭けをしている人はいなくなるからいいか。
…問題は。
「はぁ…出てきていいよ、紅牙」
「……」
殺気だった表情を隠しもせずに、物陰から紅牙が出てくる。
「ほら、眉間に皺なんて寄せてたらそんな顔になっちゃうよ」
少し高い位置にある彼の眉間に手を伸ばしてぐりぐりとほぐす。
「燎は…化け物なんかじゃない」
怒りと哀しみと悔しさの全部を滲ませた紅牙がそれだけを呻くように呟く。
「私はあんな風に言われても大丈夫だよ。ちゃんと否定してくれる人がいるんだから」
「けどさ…」
「なら…精霊たちに、祈ってて。私が団長達に勝てますようにって。あと、賭博してた奴らみんな一網打尽に出来ますようにって」
「…ああ。いくらでも、喜んで祈るよ」
紅牙はそう言うと、私が控え室に行くように言われるまで、まるで自分の運でさえも全部くれようとするかのように、私を強く抱きしめながら祈ってくれていた。
うん、効きそうだよ、紅牙。




