やりすぎた。反省はしている。
これを狙っていたんですね、と玲夜さんが苦笑しながら場外に下がる。
あと残りは紅牙と愛海だけで形勢逆転、と思いきや。
「…ごめん、燎」
「あ~もう腹立つよ~!」
「ごめんなさい…」
紅牙が思いのほか頑張ったらしく、火の精霊術で陽炎を作り出して、そこに紛れて3人を戦闘不能にしたらしい。
というか、最初に上げた温度を下げなかった私のミスでもあるのか。
自分の甘さを痛感した。
でも、まだ負けたわけじゃない。
「紅牙とやりあうの、いつぶりだっけ…」
「って、そんなに経ってないだろ?」
苦笑する紅牙はくるくると自分の武器である短刀を回している。
「そうだけど…負けないよ」
「はは。お手柔らかに」
お互いに武器を構える。
リーチの長い武器を扱う私は確かに有利だけど、それでも油断して勝てる相手じゃない。
しばらく切り結んだ後、私は一か八かの行動に出た。
私が滅多に使わない、突きを放ったんだ。
というか、下手だから使わなかったんだけど。
「っ?!危ね…」
「危ないっていうか…紅牙、切れたよ」
「うわ…」
布を引っ張り、確認する紅牙。
「突きを出してくるなんてね…」
ちょっと悔しそうに、場外に出て行く。
次は愛海か。
剣を構える彼女に、さすがに隙は見られない。
詠唱の省略が出来るわけじゃないから、術は私が距離を詰めてしまえば使えない。
ちょっと卑怯だけど、仕方ないか。
私から仕掛けて、ワザと隙を作る。
「やぁ!!」
私の片鎌槍が飛ぶ。誰もが、愛海の勝ちを確信しただろう。
でも、さすが私の幼馴染と兄貴分と言ったところか、紅牙は「あーあ…」と哀れみのこもった視線を愛海に送り、涙も「燎は負けず嫌いだからな…」と私に半ば呆れたような視線を向け、玲夜さんは「内臓を傷つけなければなんとか…なるかな、あの子の場合…」と珍しく焦りを表情に出していた。
「これで……えっ」
私の首に剣を向けようとした愛海が驚いて声を上げる。
武器をはね飛ばされたはずの私が、床を蹴って距離を詰めたからだ。
「騙すようでごめんね?」
一応謝って、渾身の力を込めた正拳突きを愛海の鳩尾に叩き込む。
そのまま吹き飛んで壁に激突した愛海は、小さく呻いたあと、そのまま気を失った。
つまり。
「月光班全員撃破、十六夜班一名生存…!よって、十六夜班の勝利とします!!」
やりすぎた。




