VS月光班 開始
「これより、月光班と十六夜班の試合を始めます。両班班長は試合前の握手を」
審判の兵の声で私と愛海が歩み寄る。
「よろしくお願いします」
「えと…お願いします!」
「では、両チーム配置へ」
あらかじめ決めてある最初の位置にみんなが移動する。
応援の声が飛んでくるのは主に月光班にだ。
当たり前だ。
ただでさえ月光班の男性陣は女性騎士に人気があるし、私たちは女性ばかりでしかも闇の精霊との契約者。
だけど、私たち十六夜班を応援してくれる声もある。
聞いたことのある声もあるし、応援してくれてるのは鍛錬場で仲良くなった騎士さんたちかな。
街の一般人生まれだったり、上流階級生まれだったりするけど、人のいい連中だし。
「頑張れよ燎班長ー!」
「馬鹿力見せてやれー!」
嬉しいけど複雑だ。
「では、試合開始!!」
足元の空気が冷たくなってくる。
やっぱり足止めするつもりだったらしい。
なら。
「無詠唱には無詠唱をぶつけるまでだよ」
私達の周りの空気を調節して温度を上げる。
「いくらお前たちであろうと、手加減はしないぞ!」
「されなくても結構よ!!」
浅葱さんと歩が剣をぶつけ合う。
あの二人ならしばらくは膠着状態だろうな。
お互いの剣の癖も、太刀筋も何もかも知り尽くしてるんだから。
放っておいてもいいとして…だ。
「余所見するってのは、俺程度じゃ相手にならねぇってことか、燎」
嵐が私に攻撃を仕掛けている。
まぁ、私さえ潰せば指揮する人間はいなくなるけど…でも、剣は強くても術が苦手な嵐が距離をつめて無事でいられると班長である愛海は思ったんだろうか。
戦略を立てることに長けている嵐の独断とは思えないし。
しかも、一番簡単で、一番危険な火の精霊術を無詠唱で唱えることが得意な私相手に。
「まさか。でも、離れてもらおうかな」
「なっ…?!」
小さな爆発で嵐の身体を弾き飛ばす。
それと同時に私は後方に跳んだから、距離は十分開いた。
「げほっげほっ…ぐっ…」
「嵐君、君は一度下がって立て直した方がいいですよ」
玲夜さんが、薊の相手をしながら嵐に声をかける。
自分に集中されないのを知っているから、薊も頭に血を上らせない。
むしろ、これ幸いとばかりに土の術を用意してる気がする。
「…燎、手合わせを頼めるだろうか?」
「涙が来るとはね…こりゃ、手なんて抜けなさそうだ」
それに、彼の精霊術は水。
私と相性のいい火の精霊術は効きにくい。
でも、本気でやりあうのは小さい時以来かも。
そんなことを考えながら、涙と打ち合う。
男としては小柄で華奢な見た目の涙だけど、その実は怪力の持ち主だ。
一撃一撃が重い。
「さすがに燎の一撃は…っ重いな」
「それこっちのセリフなんだけど?!」
涙に一撃が重いなんて言われると、私が馬鹿力だって言われてるようにしか感じないんだよ!!




