前世と決意表明
突然だが、人間と一番契約しにくい闇の精霊と契約している者は特別扱いされる。
そんな人間の一人である私、燎は闇の精霊の一人に手を触れた途端、頭の中に何かが溢れ出すのを感じた。
―軽快な音楽が聞こえる。
小さな画面には『月光の恋』と表示され、"私"は意気揚々とボタンを押す。
進めていくうちに、別々な男性からの告白の言葉。
―お気に入りの音楽を聴きながら歩いていた"私"は、信号が赤だというのに迫るトラックに気付かず、横断歩道を歩こうとしていた。
それは目の前を飛び出すように走っていった小さな子供も一緒だったようで、微笑ましい、と見ていたのも原因の一つだったように思える。
鳴り響く、大きなクラクションに顔を上げると、トラックはすぐそこ。
小さな子供だけでも、と渾身の力で子供を歩道まで突き飛ばし、"私"自身は客観視するのも憚られるような、無惨な状態で道路に転がった。
即死、だった。
「…!」
そして、意識が戻った瞬間に気付いた。
今の"燎"という名前や、周囲にいる人々の名前、ここが精霊が存在する世界ということ。
私は乙女ゲームでもある『月光の恋』の世界に転生していたらしい。
そして、私の立場は主人公と攻略対象を取り合うライバルキャラだ。
でも、ちょっと待って欲しい。
私が現在恋愛なんてしていないのもそうだが、主人公がもし逆ハーエンドとやらの道のりを選んでしまったら、ゲームにはないその後はどうなるのだろうか。
一夫多妻の逆でもあるまいに、他のライバルキャラを泣き寝入りさせておきながら、たくさんの人に恋愛感情を向けられておきながら、いつかは一人を選ぶ必要性が出る。
…元々、逆ハーというものは好きじゃない。
全く知らない人やフィクションで見ている分には楽しいと思うが、現実で、しかも間近で起こるとなると…こう複雑なものがある。
友人達の恋心も知っているし…よし。決めた。
私、燎は『月光の恋』逆ハーエンドを阻止し、友人の恋愛と主人公の恋愛を真っ当なものとして両立させて見せます。
…私の恋愛?
だからそんなものしていないと言っただろうに。