予知能力も万能じゃない
「…はぁ…」
寮に戻ってきた棗の様子がおかしい。
そう涙に言われてロビーに行くと、確かに、無表情がデフォルトな彼女には珍しく、眉間にしわを寄せてため息をついていた。
「…何で、燎?」
「棗殿の体調が優れないようだったから…一応燎の班だからと、思って…」
誰か連れてくる、と言ったのだろう。
私や紅牙ならつきあいが長いから涙の思惑なんてすぐ分かるけど、体調の悪い棗にそれを汲み取れと言うのも酷だ。
「棗…寝てないんじゃない?」
「……」
沈黙は肯定かな。
「予知夢、始まったの?」
「…うん」
「時折予知能力が勝手に働いてしまう、という、そのことだろうか…?」
「…そう。でも、その夢の内容は滅多なことじゃ覆せない」
覆したら、棗は代償と言わんばかりに激しい頭痛に襲われる。
「…だから、見ないようにしてたら…眠れなくて」
「そっか…」
「だが…眠らないというのはかなり…ストレスになるのではないだろうか…。昔、玲夜殿に眠らせないという拷問があると聞いたことが…」
玲夜さん涙に何教えてんの?!
「……でも、寝たくない」
「仕方ないなぁ…涙、棗といてくれる?」
「ああ…燎は何を…」
「ちょっとね~」
寮に備え付けてある簡易キッチンで簡単にミルクティーとカフェオレとココアを作ってまたロビーに戻る。
「棗、ミルクティーでいい?」
「…うん。ありがとう、燎」
「はい、涙はココアね」
「ああ。ありがとう、燎」
3人で飲み物を飲む。
物静かな二人といるのもあって、落ち着くなぁ。
「そういえば棗、術を試そうとは思わなかったの?」
「…私、夢で干渉する術は出来ても、精神に干渉する術は苦手だから…考えたけど、無理だった…」
「闇の精霊術の系統だから、他の人にも言い出しにくかったんだね」
「…うん」
「ミルクティーでちょっと落ち着いたら術も効きやすくなるし、私がかけるよ」
「目覚めなくなったりしないのか…?」
「涙、しばくよ?ちゃんと加減くらいするっての」
「そうか。棗殿、しっかり眠れると良いな」
「…うん。ありがと、涙」
飲み物を全員が飲み終わって、ちょっと雑談してから、私は棗の部屋で、棗に睡眠用の術をかけた。
術で眠ると夢をいっさい見ない、熟睡状態になる。
でも、本当なら良い夢を見てほしいんだけど。
…そう言う術があれば使えるようになりたいよなぁ…。




