交流会
非番だから本でも読もうと寮のロビーに行ったら、なんとも微笑ましい光景に出くわした。
棗と涙がソファで寄り添って眠っている。
他人に対する警戒心が強い棗と他人に遠慮する涙…。
記憶を取り戻す前はこんな姿が見られるとは思っても見なかった。
もちろん、涙は幼馴染である私や紅牙に対してならあまり遠慮がない。
発言にもそれは現れていて、私達は呼び捨てにして言いたいことをはっきりと言ってくれるけど、他の人にはなんとも古風な敬称だったり、しっかり敬語を使っている。
棗だって、本来人にベタベタするのは好まないから、ごく限られた人にしかくっつかない。
「それだけ心許せる人同士ってことか」
そのことに嬉しくなりつつ、毛布をかけてやる。
ロビーは外気も入ってくるから、風邪を引いては大変だ。
「夜には交流会だし、ゆっくり休んでね」
本は部屋で読むか。
…。
……。
………。
コンコン、と部屋のドアがノックされた。
「何?」
「燎ちゃん、そろそろ会場に行かないと遅刻ですよ」
「わ、もうこんな時間か…ありがと環」
どうやら、本に没頭しすぎて時間を忘れていたらしい。
環が来てくれてなかったら完璧遅刻だよ。
会場に入って、適当に会食とお喋りが始まった。
私は一応一つの班を任されているから、他の班長には挨拶をしたけれど。
「さて…どうしようかな」
全部終わったとなると暇だ。
「いたた…」
「愛海班長、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫…梓君、私に構わなくてもいいんだよ?」
…なるほど、梓の好感度が一番高いのか。
彼は昔から愛海が好きだったって設定だから、好感度もふとしたことで上がりやすいし下がりにくいけど、その分死亡フラグが多いからなぁ…。
何度見たことか。
最終的に一番面倒くさい奴って言われてたし。
私も思ってたし。
「梓のことでも気になんの?」
ぼんやりと愛海と梓を見ていた私の目の前に、むすっとした顔の紅牙。
お前、女の人と喋ってなかったかさっきまで。
「無駄だと思うけど?アイツ愛海一筋だし」
「いや、分かってるよ。っていうかそんなんじゃないから」
「どうだかね」
「……」
絶対酒飲んだな、こいつ。
この世界のこの国では、飲酒について取締りされることがない。
というか、車もないし、成長を妨げるのは本人の責任ってことで、大体15歳くらいから飲み始める人が多い。
私は抵抗があるから飲んだことないけど。
それより、目の前にいる、酒に強いくせにお酒を飲むとどういうわけか私に対しての態度が子供っぽくなる幼馴染をどうにかしなきゃいけない。
…頭が痛くなりそうだ。




