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8.先生と言えば妖艶美女かロリの二択ですよね。

≪学園≫のエントランスは新入生らしき人物たちであふれていた。ぶっちゃけこのうちモブがかなりいるのだろうなと確信していた。そしてそのうち何人かのモブが可愛いとかどうとか話題になることくらいとうに御見通しである。


≪学園≫では一般常識や魔法、その他交流を学ぶ場として設けられていると言ってもいい。尤もそのうちすべてを学んできた俺にとって、いまさらと言っても過言ではない。

 伊達に二十年近くは生きてきていない。恐らくこの学園で教師を除けば俺が最年長だ。残念ながら見た目は最年少であることは間違いないだろうが。


「おっとすまぬ」


 髭面の男が俺にぶつかって謝罪をしてきた。小さい体の俺もそんなに弾き飛ばされなかったところを見ると、あまり強い勢いでぶつかったわけではない。それでもしっかりと謝罪をしてくるということは、いい教育を受けてきたんだろうな――って! こいつどう見てもおっさんじゃん! ≪学園≫に通ってくるような年じゃないじゃん! 俺年下じゃん!


「こう見えてワシは十九じゃからな?」

「ひょ?」


 なんか俺の視線で言いたかったことに気が付いたらしい。そんなに不躾な視線向けてたかな? ちょっと反省。つか一人称ワシかよ。


「≪学園≫の門戸は広い。早ければ三つ、上は二十になるまでの間ならば無条件に入学の権利が認められておる。ぬしらは……かなり早い部類じゃろうな」


 俺とファラの様子を見てその男はそう言った。まあ確かに下は三からだと、五歳というのはそこそこ早い方だろうな。とはいえ、正直不本意な入学でもあるので鼻が高いとかそういうのはない。人によっては天狗になったりするんだろうけど。

 そういえばこの学校の入学基準ってどうなってるんだろう。気が付いたら入学が決まってたけど、特に試験とかは不要なんだろうか? もしかしたら金さえ払えば入学できるとかそういう類のもの?


「ワシの名前は――」


 そう言いかけたところで周囲の人間が口を開けて上を見上げていた。俺もつられて上を見上げてみれば、そこにはなんとだんだん近づいてくるシャンデリアが!


 ――ガシャーン!


「おっさん!」


 咄嗟に俺はファラを抱きかかえて飛び退ったが、俺と会話していたおっさんがシャンデリアの下敷きになっちまった! シャンデリアは落ちた衝撃でガラスの破片があちこちに飛び散り、その飛沫が俺の頬をガッツリ引き裂いていた。結構な痛みが走っているが、今は目の前のおっさんを助けないと!


「ファラ! 早くシャンデリアを――」

「……だれが、おっさんじゃ……」


 シャンデリアの下から声が聞こえた。ファラに話しかけようと後ろを振り向いていた俺は瞬時にそちらへと目を向ける。床に叩きつけられたと思っていたシャンデリアは、わずかな隙間を残して浮かんでいた。

 よくよく見ると、おっさんは重そうなシャンデリアを背中で完全に受け止めていた。


「ぱないの!」

「……そんなことより、これをどけて欲しいのだが」


 おっさんは一歩も動けないのか、シャンデリアの下からか細い声でそう助けを求めてきた。いや、五歳児にそれはなかなか難しいと思うよ? 普通は人を呼ぶとかそういうところから始まると思うんだけど、流石にこの状況だと冷静に判断はつかないか。

 とにかく、おっさんが無事でよかった!


「ファラ、シャンデリアをどけてやってくれ」

「うん。いいよー」


 ひょい、と軽々しくファラはシャンデリアを持ち上げた。おっさんが受け止めておくのが精々だったそのシャンデリアを持ち上げたことで、周囲の奇異の視線がファラに向くのが分かった。

 そもそもシャンデリアが落ちてきたせいで視線が集まっていたんだ。そのせいで余計にファラに視線が向いちまった。それに俺たちはほぼ最年少。なにかしら面倒なことに巻き込まれそうだ。

 おっさんには悪いが、俺たちはここで――


「なんだ、お嬢ちゃんがいれば、問題なかったか。――ワシが受け止める必要もなかったのう」


 え、ちょっと待って。おっさん今いいこと言った。ちょーいいこと言った! 深いぃ!

 おっさんの背中にはジンワリと血が滲み出ていた。流石に無傷とはいかなかったらしい。俺たちがいたせいで無理に受け止めたんだよな。ん? 俺がいたからシャンデリアが落ちてきた、なんてことはないよな……? そんなまさか。HAHAHA!


「すみません、俺たちのせいで。早く救護室に――」

「渋メンの急患がいると聞いたぞ!」


 現場に白衣を着たメガネの見た目スマート系美人さんが現れた。ひゃっほーう! なんというグラマー。そして俺と目があった。


「(ガキじゃねえか)」


 小声で何か聞こえた気がしたけれど、なんて言ったんだろうか。なんとなく聞こえないままにしておいた方が幸せな気がしたので気にしない方針で。


「こんな傷唾でもつけときゃ治る」


 そう言って美人さんは人差し指を軽く舐めて俺の頬を撫でつけた。痛っ!

 次の瞬間には今まで頬を走っていた鈍痛が消えていることに気が付いた。――治ってる!?


「あ、ありがとうございます。でもけが人は、そちらに」


 そう言って俺がおっさんを指さすと、美人さんはそちらに目を向け、何故か今までは死んだ魚みたいな目をしていたのが急にキラキラし始めた。


「まあ! おぼっちゃんのお父様かしら!? 大丈夫! 今すぐわたくしが治療いたしますわ! ささ、どうぞこちらへ!」


 言うが早いか、美人さんはおっさんに肩を貸してスタコラと歩き始めた。なんだろう、舌なめずりをしてたのと目が爛々に輝いていたのだけは確認できたけど。あれは肉食獣の目だった。獣の眼だった。彼女の中の野性が目覚めた。

 ある意味羨ましい気もするが、きっと俺が彼女のお眼鏡に適うことはないのだろう。あと三十年はしないと無理そうだし。


「むー、ティエルノくんが不快なことを考えている気がするー」

「はは、気のせいさっ! 俺たちの教室はあっちみたいだYO!」


 あ、おっさんの名前聞いてねーや。


 * * *


 俺たちはまずは初等科のクラスに行くことになっていた。

 初等科と言っても何クラスかあるみたいで、そのうちの四クラス目が俺たちの教室だった。クラス分けっていうのも一大イベントなのだが、まだ知り合いも大しているわけじゃないし。そう思いながらドアをガラッと開けると――


「おお、貴君ら。同じクラスであったか!」

「あ、ライラちゃん!」


 あのサムライガールがいた。ライラっていう名前なんだ。サムライラ。覚えやすい。ファラと話もしていたみたいだし、意外と電波なのかもしれない。それにしてもいや、やはり美形だな。眼福眼福。


「ん?」

「ナンデモナイデス」


 今一瞬ファラの眼が光った。今のはやばかった。かなりきわどかった。生まれてから五年間の記憶が走ったのも恐らく錯覚じゃないだろう。ついでにその前の記憶も走馬灯のように見えていた。完全に魂抜けかけてたわ。

 もしかしてあれか、俺の青春は灰色確定!? いや、ファラがいるなら灰色とは言えないけど――ってこれは自慢か。ハハハ! 自慢じゃねーよ! 嫌だよ俺の五倍の怪力持った彼女とか! 怖いよ! しかも殴ってくるんだぜ!? 五倍で! ポイントじゃねーよ!?


「ねぇ」

「ナンデモネーデス」


 サムライガールはそんな俺たちのやりとりに呆れ顔だった。しかし思い出したかのように新しい話題を俺たちに振ってきた。


「そういえば知っているか、うちのクラスの担任はアイリーン先生と言うらしいぞ」


 アイリーン先生か。美しい名前だな。なんだかこの世界の女性の美人率は正直言って異常だと思う。出会う尽くの女性が美形であると、やはり期待しない訳にもいかない。

 こうした新入の学校でよくあるのは、異常性のある先生と言うのがテンプレである。やはり、男子全員が惚れてしまうレベルの美女か、見た目完全幼女とかだろう。そうしないとキャラが立たないからな。


「そろそろ来るみたいだぞ」


 何かを察知したみたいにライラがそう言った。気配を感知する能力でも持っているのかもしれない。

 ライラの言葉の少し後、ガラッとドアが大きな音を立てて開かれる。


「もっと熱くなれよ!!」

「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ○!!」


 入ってきたのはケツアゴ筋肉ダルマのオヤジだった。

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