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7.ツンデレラは草履を履いていました。

 六歳になった俺は≪学園≫に入学することになった。≪学園≫とは日本で言えば義務教育のようなもので、小中学校に当たる。ここでは十五歳の成人を迎えるまで教育を受けることになる。

≪学園≫には寮が備え付けられており、通学と寮生活を選択できる。そして俺は――


「元気でな」

「ティエルノ、手紙は出して頂戴ね」


 猿轡をされて縄で縛られ、ファラに担ぎ上げられていた。


「ははへー! ほふぇほはひほふひほ!(離せー! 俺を解放しろ!)」

「母上、お元気でいてください、ですって」

「うむ、良くできた息子だ」

「ひふぁふはー!(違うわー!)」

「いざ行かん、そうね、引き留めるのも悪いわね」

「ああ、達者でな」

「お兄様!」

「ふぁふぇー!(待てー!)」

「分かった! 行くねー!」


 最後にファラが盛大な勘違いをかまし、俺は六年間住み慣れた我が家を後にした。


「お兄様ああああああ!」


 エレノーラの叫びが、何時までも尾を引いて伸びていった。



 ――三時間後。



「ティエルノくん、ここどこかな?」

「うぉえええええ」

「半日ずっと走れば着くって聞いてたのに」

「ぜー……はー……こひゅー……」

「ほんと不思議!」

「うっぷ……」

「今日はお外でお泊まりだね!」

「ひゅー……ひゅー……」

「聞いてるー?」

「……無理」


 暴走特急に揺られて死にかけです。人間列車で殺人事件です。殺人は車上で起きた。


 あれからファラは休むこともなく走り続けた。揺れに揺れるファラの上(決してエロい意味ではない)で三半規管は揺すられ、まるで天変地異を体験しているかのような居心地であった。


「ねーティエルノくーん」

「ちょ、おま、揺するなおえええええええぇぇぇ!」

「うわ」


 ……口の中が酸っぱい。本当に胃が気持ち悪い。なんか刺さってるみたいな感じがするんだけど大丈夫かこれ? あとファラ、お前のせいだから引くな!


「大丈夫!ティエルノくんがゲロゲロでも大好きだよ!」

「……心を読むな。あとゲロゲロって言うな……」

「はーい!」


 本当に分かってんのか、こいつ?


「分かってるよー!」

「だから心を読むなって言ってんだろ!」


 もはや地の文だけでなんとかなりそうな気がするんだが。「」書きとかいらないかもな。はは。

 さすがにそれは無理だと思うよー。

 ……おい! 止めろすぐにその地の文をやめろ!

 なんでー?

 なんでもだ! それくらい分かれ!


「うーん、わかんない」

「もうイヤ」

「私が付いてるから大丈夫!」

「それが不安なんだよ!」

「なんでー?」

「……もう帰りたい」

「や、貴君ら、お尋ねしたいことがござる」


 ファラと下らないやり取りをしていると、唐突に話しかけられた。

 下らなくないよー。

 ……それもういいからやめて?

 う~ん、わかった!


 視線を向けるとなんということでしょう、そこには勘違いした外国人ばりのお侍さんの風貌をした美少女が! 金髪を結い上げているせいか(うなじ)から妙な色気が漂って――


「ごぶっ!!」


 脇腹に突き刺さる拳。その速度、まさに紫電の如く。的確に筋肉を避けてダメージの軽減のしようすらない一撃必殺の技。そんなものをまともに受けた俺は当然の如く吐血。そしてその場に崩れ落ちる。


「己は(けだもの)為るや?」


 口調が、おかしくなってるぞ……ファラ。


「む、貴君らは夫婦であったか」

「え、やだー。ファラ、まだ結婚してないよー?」


 まだというかするつもりは一才ない!

 そんな思いを込めて倒れ伏したままファラのことを睨み付けてやるが、「やだもう」とか言って頬を赤く染めた。何がだよ! 俺の方が嫌だよ!

 そもそも何処を見たら俺らが夫婦に見えるんだ!?


「いや、新手の夫婦漫才かと思うてな」

「……心読むの、やめろ……」


 何なんだ。俺はいわゆるサトラレと言うやつなのだろうか。人権はいずこに。これじゃあ青少年の健全な育成に重大な齟齬が発生しかねないぞ!!


 そんなことを考えていると、鼻先を掠める銀色の何かが通り過ぎた。恐る恐る顔を上げると俺たちに話し掛けてきた美少女が満面の笑みで刀を握っていた。


「何か邪なものを感じてな」


 そうだ、良い子のみんな。エロいことは十八歳になってから。じゃないと命の危機に晒されちゃうぞー☆。お兄さんとのや・く・そ・く。分かったかなー?


 でも俺、もう精神的には二十歳超えてるんだよな? だったらもう許されてもいいんじゃないのかな?


「ぴゃ」

「蚊がいた」


 今度はファラの拳が俺の鼻先を掠めた。



 おれは エロいもうそうを あきらめた!



「漫才はとにかく良いのだが、一つお聞かせ願いたい」


 うわー、全部漫才なのかよー。もういいよそれでー。色々とそうね、突っ込みたいとこはあるんだけどいちいち細かくやっとれんわ!


「≪学園≫とやらがいずこにあるのかご存じでござろうか」

「えー、わかんなーい」


 お前のそれ、絶対煽り文句にしか聞こえないからやめようなっ!


「……俺たちも実は迷っていてな」

「……(使えん奴共め)」


 うん? なんか聞こえたけどキニシナーイ。


「貴君らも見たところ御同輩かと見受けられる。これから入学でござるか?」

「そうだよー」

「そうだ。こいつが碌に道も知らないまんま走り始めるから迷っちまって……」

「ひどいー。ティエルノくん、私の上に乗ってるだけであんなものまで出したくせにー」


 ピクッとサムライガールの肩が震えた。


「ちちちち違ぇから! ゲロっすから! 俺は肩に乗せられてただけだから! 酔っただけだから!」

「人前でゲロとか言わない方がいいよー?」

「……この腐れ外道めが……」


 著しく俺の株価が大暴落した。なんか酒の勢いでーとか朝チュンとか変な単語が聞こえたけど全部勘違いだからな! いいか? 紳士と言うものはだな、YesロリコンNoタッチの精神でいるものなんだ。誰がこの真っ平らボデーに興奮……


「ホギャー!」

「不穏な気配を感じて」


 暴力……反対……ガクッ。



 ――それから更に三時間後。



 俺たちはどうにかして≪学園≫に辿り着くことが出来た。

 気付くとそこに連れられていた。なんでも道中、「どんどん仕舞っちゃ……」とかいうおじさんに捕まったが、返り討ちにしたとかどうとか、それで道を聞き出したとかどうとか。なにそれこわい。


「拙者、貴君のことを勘違いしていたようだ。道中ファラに貴君の話を聞いた」


 いつの間にかファラは名前で呼ばれるくらいにサムライガールと仲が良くなっていた。そしてついでに俺の株価は戻ったという。……それがファラの話だという事に激しく不安を感じる。


「いつか死合たいものでござるな」


 サムライガールそう言うとニッコリと俺に微笑んだ。

 なんだ、笑えば可愛いじゃないか。満面の笑みは華が綻んだようで暖かな気持ちに浸れる。美少女の笑みってだけで心が洗われていくようだ――

 そんな思いが通じたのか通じなかったのか、彼女は顔を真っ赤にして俺にビシリと指を突きつけた。


「べっ、別にあんたの事なんて切り殺そうと思ってないからね!」


 うわっツンデレ!!……はぁ。

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