3.魔法が使えるようになったのは良かったのですが。
執筆ペースがぱない。
次の日恐る恐る魔法を行使してみた。
「【火球!】」
《魔法概論1》に載っていた初級中の初級の魔法。けれど指先に灯るはずの火球はそれを形作ることもなく失敗に終わった。
「ティエルノ、もっと明確に魔法のイメージを持ちなさい」
父様がそう声を掛けてきた。
俺は今父様と母様の監視の元、魔法の行使にチャレンジしていた。なんでも昨日の騒ぎのせいで父様に魔法の勉強をしていたことがバレてしまったのだ。俺が魔力を見ることが出来るようになってしまった以上、中途半端に放っておくほうが危険と判断した父様が教師としてついてくれるようになったのだ。母様の話よりも全然わかりやすくてとてもやりやすいのは言うまでもないだろう。
ちなみに父様は地主というものをやっているらしく、しょっちゅう書類と睨めっこしている。時には土地の市民との面会や大地主に伺いを立てたりしているらしい。こんなに広い家を持っているから少なくとも貧乏とはいかないと考えていたが、軽く大金持ちの家系だったらしい。生まれついた時点で既に俺の勝ちは決定していた。あとは変な見合い結婚とかなければ完璧だな。そして母様は基本的に治癒魔法を専門としているらしく、怪我をした人の治療などを主に行っているらしい。ただし、治癒魔法では病気は治せないらしく、魔法とは別に薬草の調合などを行っていると聞いた。巷では《白衣の天使》と呼ばれていたとか。今でもファンは多数いるらしい。
そして肝心なことに、この二人は恋愛結婚だったらしい!本来の婚約者がいたのだが、父様が駆け落ち同然で母様と家を飛び出していった経緯があり、最終的に両親を納得させて結婚、そして家督を受け継いだのだという。今となっては子煩悩なヘタレにしか見えないが、少なくともそれほどの情熱は持ち合わせていたようだ。一歳にならない子供を置いてもう一人子供を仕込むくらい手も早いみたいだけどな!羨ましいぜチクショウ!
色々と思考があっちこっちに飛んでいたが、再び集中して魔法名を唱える。
「【火球!】」
それでもやはり魔法は発動してくれない。なぜだ。
「ティエルノ、魔力を一箇所に集めて、そこから火が発生するイメージを持つんだ」
「はい、父様」
まずその魔力を集めることが出来ないんだよ!ぐぎぎ……。
集める、集める……。どうすればいいんだ!?
「父様、わかりません……」
父様はフッと息を吐いた。何故か力が篭っていたのか、固くなっていた身体に柔軟性が戻ったようだった。
「始めはそんなものか。いずれ分かるようになるさ。日々の鍛錬を忘れなければすぐに出来るようになるさ」
父様は俺の頭をポンポンと叩く。イケメンとは性格のいいやつしかいないのだろうか。これが※の力だとでも言うのだろうか。っと、俺もその仲間入りをしたんだった。そうだな、僻む必要なんてないんだ。
俺を横で眺めていた母様はゆっくりとした歩調で歩き寄ってきた。その腕の中にいるエレノーラはジッと俺を見つめていた。なんだろう、何をしているのか興味があるのだろうか。
「焦らなくていいのよ。ティエルノはティエルノのペースでやればいいのよ。それに、少しペースが早すぎたのかもね」
母様が柔らかい笑みでそう言ってきた。
ちくせう、この女が既に人様のモンなんて世界はなんと残酷なことか、と昔の俺ならばそう思っただろう。しかし、肉親というせいだろうか、残念なことにそう言った対象として見ることは出来ない。ちなみに幼馴染についてはそう言った対象として見れることは確認したので、年齢のせいというわけではなかった。というか俺まだ一歳になって少しなんだよな……。この先十年も耐え切れるんだろうか。
「今日は美味しいスープを作りましょうね」
そう言って母様は屋敷へと戻っていく。庭には俺だけが取り残された。
日々の鍛錬を怠らなければ――それがどれくらいの時間がかかるのだろうか。
一週間?一ヶ月?半年?一年?それこそ十年?それとも本当は俺に魔法の才能なんてないんじゃないだろうか。そう考えると不安で仕方がない。
――『緋を見よ』
「うっ!」
頭の中にあの本の声が聞こえた。少し頭痛のような感覚が頭に痺れて残っている。
『緋を見よ』?緋ってあの赤色っぽい色のことか?何を意味しているのかわからないかと思ったが、ひとまずは周囲を伺う。赤いものなんて一切ないが何を示しているのか。う~ん、わからん。
見よっていう以上、目に見える何かなのかとは思う。
そもそも頭の中で声が聞こえるというのもかなり痛い状況なんではないでしょうか。これはいつしかこの声に俺の思考が占領されていずれは魔王として君臨してハーレムを築いてしまうのではないだろうかっ!?ん?ハーレム築けるなら結果は一緒か?ならいいか。
ふと視界を過ぎる魔力の奔流。そう言えばこれって透明っぽいけど透明じゃないんだよな。水みたいな感じとでも言うのか、実体はなんとなく見えるんだよな。とと、なんか少し色が違う場所があるけど、これのことか!?
よくよく見てみると少し青っぽい箇所と赤っぽい箇所があることに気が付いた。青っぽいところは少し冷たそうな感じで、逆に赤っぽいところは熱を持っているように感じた。緋ってことはこの赤い方のことだろうけど……
なんとなくその赤い方に意識を向けていると、その赤色は俺の視線に付き従って動いているようにも見えた。そこで魔力を集中するイメージを試してみた。う、ちょっと難しいかも。
腕を前に突き出して魔力を固めるように動かしてみる。お、いけそう。魔力が思ったように集中していくのが分かる。おお、すごいぞ俺!これが才能ってやつか!
調子に乗ってどんどんと魔力を集中させていく。てかこれどれくらい集めたらいいんだ?あと小さくする方法ってないの?なんかどんどん大きくなっていくんだけど、これ、大丈夫?かなりヤバそうな雰囲気してるんだけど問題ないよね?とりあえず使えば消えるとかそんな感じか?呪文、唱えるか?
「ふっ、【火球】ッ!」
一瞬世界が白んだ。顔を焼き尽くしそうな熱波が俺を襲う。目の前に灼熱が広がっていることが皮膚を通して分かる。耳鳴りがして周囲の音が聞こえない。何かが炸裂する音が聞こえたと思ったが、その反響が未だに残っているせいだ。視界も完全になくなって耳も聞こえなくなり、爆風によって吹き飛ばされた俺は自分が今どんな体制を取っているのかすら分からなかった。今しがた受けたショックをこらえるように身体を固くして待ち続けることしか出来なくなっていた。
その後、その爆音を聞きつけた父様と母様がすぐに駆け戻ってきて丁寧な治療を受けた。少し火傷を負っていたが、母様の治癒魔法で元通り玉の肌に戻った。そして父様が説教をしようとしたらしいのだが、それは適わなかった。なぜなら俺は、粗相してしまったからだ!
いや、一回同じ体験してみれば分かると思うよ!?目の前で爆発が起きるとか本気で死ぬかと思うよ!?
こうして俺は完全に魔法と火がトラウマになってしまった。
今日の教訓、火気厳禁。