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13.番長はシスコンと言うのが定説

次の日から授業が始まった。


ちなみに俺は先生と交渉することでどうにか新しい部屋を手に入れることに成功した。俺が側に行くと何故か目からハイライトを消し、『ソウイエバアイテルヘヤガアルヨ』と言って空き部屋を紹介してくれた。

天蓋付きのベッドとかあったし、トラのような生き物の毛皮がカーペットのように敷いてあった。これは本当に空き部屋だったのか疑問だ。


「それではこれで授業を終了とする!」


選択式の授業と必須の授業があり、今は必須の授業である魔法基礎概論Ⅰだった。

必須の時間割は既に割り当てられており、選択式の授業は初回の授業で出席すれば自動的に選択したものと扱われる。


午前の授業では必須科目がなく、既に学び終わっている授業ばかりだったので選択せず、午後一のこの授業が本日初めてのものとなった。


「ティエルノくんだいじょうぶだった〜?」


隣に座ったファラが暢気に話しかけてくる。


「午前は全く見掛けなかったから少し心配しておったのだ」

「昨日の待ち合わせの約束にも来なかったしね」


ライラとセイクリッドが話しかけてきた。


「やばっ、すっかり忘れてた!ごめん!」

「おぬし……」

「ティエルノくん……」

「わたしはわかってたよ〜」


二人の視線は冷たかったが、一人はなぜか俺の肩を持つような発言だった。やはり幼馴染というのはいいものだな。


「ファラ……」

「ティエルノくんのことだから、呪いとか呪術とか、ろくな目に合わないって、わかってたよ!」


俺の感動を返せ。


「そういえば昨日さくじつ男子寮で火事があったとか……」

「それ、ティエルノくんのしわざだよねー?」

「俺がやったわけじゃねえよ!」

「うむ、拙者が聞いた話によると火元不明で二部屋延焼であったとか」

「二部屋?」


一部屋は俺の部屋だからまあわかる。しかしもう一部屋とは?


「そうなんだ、続き二部屋が燃えたってね」


セイクリッドがなぜかサングラスを外し――後光が――


「どっこいしょ!」

「ソーラン!?」


ファラのデコピンが俺の輝ける額に会心の一撃だった。


「何すんだ問題児ーズ!!セイクリッドはサングラス外すな!ファラはもっと優しくやれ!」

「なんとなく気分で」

「優しくデコピンしたよー?」

「二人とも反省する気なし!?」

「僕もなかなか素を出せないからね。君になら――いいかなって」

「わたしも、ティエルノくんのこと――」

「えっ……」


なんだこれオイ!なんでこんな雰囲気になってるんですかね!?ちょっと俺のモテ期来たんじゃないですか!?ハーレム!?タイトル回収ktkrキタコレ!?


「(チョロい)」

「(チョロー)」

「(キモイ)」

「おいお前らああああ!?あと一人なんか言ってるの聞こえたからな!」

「ひゅーひゅー」


ライラは下手くそな口笛で誤魔化そうとしていた。この世界の人間口笛下手すぎかっ!?


「ライラってそんな性格……」

「おうここが竜の爪ドラゴンクロークラスか?」


俺の言葉を遮って教室のドアを開ながらそんな言葉を発したのはすごいリーゼントだった。すごく……長いです……。


「なっ、なんですかあなた達は!」


闖入者に対して批難する声を上げたのは大人しく座っていたはずの――誰だっけ?委員長?メガネ?


「よう嬢ちゃん。強気なのは俺好みだが相手には気をつけな。俺はこの学園の番長、カマ・セイヌだ」


番長は委員長の顎を右手でクイッと上げながらそう言い切った。睨め付けられた委員長は膝をガクガクと震わせながら涙目で番長を見上げる。

シリアスな場面なのに集中できないのは俺が悪いのか……?なんで誰も笑わないんだろう……?


「んんっ!?」


次の瞬間、番長は委員長に口付けた。

――ズキュウウウン!!


「リア充、DQN滅ぶべし!!」

「あぁん!?」


しまった!黙ってこのイベントを逃れるつもりが、衝撃的な場面を目撃したことでついっ!俺の嫉妬心が!


「さすがでござるティエルノ殿」

「やっちゃえティエルノくんー」

「ティエルノくん。期待、してるよっ!」


なんだろう、この強制感。世界が俺に無理強いしてくる感じ。イベント発生率高すぎませんかねぇ!?

リーゼントがこちらへ歩み寄ってくる。その後ろではメガネが力を失って椅子に崩折れ、心配した周囲の人間が集まっていた。


「てめぇ、ティエルノっつーのか?」

「あ、はい……」


俺マジコミュ障。


「番長たるこの俺に勝負を挑もうってのか?」

「いえ、そのようなことは……」

「新入生が入ったから番長たるこの俺が直々に各クラス回ってきてやったんだよ。そしてこのクラスが最後。この意味、分かるよな?」


とりあえずコクコクと頷いておいた。いつものパターンだと絶対にバトルになるのだから回避できるところは回避するっ。いや、してみせるっ。


「お前を血祭りにしてやるよ」


一行でフラグ回収とかマジ勘弁。


「そらよっ」


大した動作もなく繰り出される右手。挨拶のつもりか見るからに手加減された一撃。右足を半歩引いて回避。


「ひゅー、やるねぇ」


口笛下手か。


「そらそらっ」


右、左、右、左脚、右脚、右ストレート。

すべて見極めて躱す。合間を縫って右、左、右と見せかけた左。尽く受け止められる。実力は五分と五分か。しかし腕力体力を見て俺が若干不利と見るべきか。一発の重さも相手の方が有利。


「ガキのくせにやるじゃねえか」

「うるせえ」


番長もそれを悟ったのか、すでに表情に油断はない。長期戦に持ち込まれれば敗北は必須。だから俺は躊躇わずに懐へ飛び込んだ。


「フッ」

「くっ」


こいつ意外と守りが固いっ!確実な一撃が入らない。軽い牽制くらいなら貰ってくれるが急所への一発は確実に防がれる。少しでも大振りになろうものなら確実にカウンターを決めてこようとするのも厄介だった。

手数は確実にこちらが多いのだが戦況に変化はない。これは想定した最悪の形。


一瞬だけ間合いを取るがそれすら許さないとばかりに番長が詰め寄ってくる。息切れを起こしかけた俺は攻勢に移ることもできずに攻撃をひたすら捌くだけ。それもいつまで続くか……。

無呼吸状態が続く。何発かいいのも貰った。リーチの差も大きく響いていた。

下から上に振り上げるよりも、上から下に振り下ろしたほうが強い。そんなのは当然だ。徐々に、徐々にだが優勢が決まっていく。ジリ貧だ。それも明らかに俺が不利の。


どれほどの時間が経ったのか、2分か?10分か?もはやわからない。無呼吸を繰り返しては僅かな呼吸。酸素が、足りない。

ヘロヘロになりかけた俺の様子を見た番長の体が軽く沈み込む。地面の力を利用した一撃だ。これを食らってしまえば流石に俺も――


「ずぇあ!」

「――天地、返し」


ようやく訪れた番長の油断。もしかすると油断とも言えない油断だったのかもしれない。

天地返しとはファラとの遊びで開発した、相手の力を利用して攻勢を入れ替える技だ。腕力で劣る俺達がファラと渡り歩くために磨いた、どんな状況でも繰り出せる奥義。


「これでっ!終わり……」


番長の上に馬乗りになった俺。何が起きたのかも分かっていない番長。この機を逃せば確実に俺は負けるだろう。最後の一呼吸で拳を振り下ろそうとした瞬間、俺の顔面に何かがクリティカルヒットした。


「うぼぁ!」

「ば、番長にこれ以上手出しさせないんだから!」


横合いから手を出してきたのは、なんとメガネだった。どうしてこうなった?意味がわからない。


「お前……」

「番長……」


俺を放っておいてなにいい雰囲気出してんだお前ら。リア充とメガネ死すべし!

俺の視線に気が付いたのか、番長は絡み合った視線を反らして俺を見下す。


「さっきはよくもやってくれたな」

「くっ」


先程までの有利は何だったのか、全力を出し尽くして呼吸が乱れ切った俺にもはや逃れる術はなかった。ジリジリ迫ってくる番長。緊迫した空気。

しかしそんな中、一つの影が俺と番長の間に飛び込んできた。


「ファラ……!」

「番長さん、二対一だった」

「知らねえよ。こいつが勝手にやったことだ」


番長が後ろを背中越しに指差す。そのせいで後ろの異変には気付いていない。


「だったら、いいよね……?」

「は?」


番長の後ろで倒れ伏すメガネ。

そうだ、お前はそういうやつだ――


「私も……やっちゃうんだから」

「は?……クックック。お前が?」


番長の哄笑。

いつも俺をいの一番に考えている――


「覚悟、してね?」

「やってみろよ!!」


安い挑発行為。

最強最悪のストーカーバーサーカー――


「ティエルノくんをイジメていいのはっ!」


なんの工夫もない、ただのテレフォンパンチ。番長の顔は驚きから嘲笑へと変化した。こんな女児の一撃など――

ファラの踏み込みで地面が抉れ、気とも言える空気が周囲に伝播した。観客の数人が気絶し、恐怖が皆を縛る。番長の油断は、もはや取り返しがつかない。


「私だけなんだからー!」


剛と、あるいは豪と唸りを上げる拳。それを表すのであれば燕のごとくしなやかに、熊のごとく強靭に、番長の胸を撃ち抜いた。


「グボッ!」


一瞬の悲鳴がこぼれ、そして番長の意識が暗転。浮遊した体は地面へと叩きつけられる。


「フーッ」


残心から徐々に力を緩めていく。その姿はとても美しく――

い、いやっ、お前は格闘技のプロか何かか!?


「正義は、勝つ」


なんかちょっとダサいセリフを聞いた気がする。しかもとどめ刺す時のセリフ。正義と言うより明らかに悪――って読まれた!?


「ティエルノくん大丈夫だったー?」

「あ、はい……」


とりあえず敬語で返事をしておいた。そんなことは微塵も気にしない様子のファラから伸ばされた手を掴むと一気に引き起こされた。こうしてみるとやっぱり力は圧倒的にファラのほうが強いのがわかる。

なぜかファラはニコニコしていて、いつもであればそれを不気味と思うのだが今日はなぜかそのような印象はなかった。


番長が倒れたことで周囲の空気が軽くなったのか、一斉にガヤが賑やかし始める。止まった時間が一気に流れ始めたかのようだった。「……番長に勝った……?」「誰なんだ!?」「し、死んでる……!」「メディィィィック!!」「人工呼吸を!」「私が……!」「いや俺が!」


やはり俺たちにはシリアスは似合わない。


「ありがとう」

「どーいたしまして」


俺は自然と笑いだし、続けるようにファラも笑いだした。ライラ、セイクリッドも釣られて笑い出す。


――青春とは、素晴らしいものだ。




「あれは人工呼吸じゃない……!」「ディープチッス……!」「ちくわ大明神」「誰だ今の」「私だ」「お前だったのか」




こうして学園の番長の座はファラに渡った。俺たちの学園生活たたかいはこれからだ!!――完(ウソ)

「わたしもティエルノくんに熱いヴェーゼを!」

「やめろ!」

「いいでしょー!」

「天地返し!」

「天地返し返し!」

「!?!?」

「熱いチッスを!」

「アッー!!」

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