12.『虻蜂取らず』ってそんなもの捕まえてどうするんですかねぇ!?(逆ギレ)
主人公は群れない(られない)。
焼け出された俺に残ったのは、現在身につけた衣類と焼け残った本と一本の剣だった。
あの状況で焼け残る本って何だよと思ったら、いつぞや見かけた呪われし本だった。それを捨てるなんてとんでもない、と言わんばかりに完璧な保存状態だった。
そして剣。これも何だか見覚えがあった。というか俺が昔使ったと言われるやつだった。
俺は剣も魔法も捨てた身、このどちらが残ったところで意味もない。替えの服とかのほうが今は重要なわけよ。分かるかな? わかんねぇだろうな……。
俺もどうしていいのか分かんねぇ。何も言えねぇ。愕然というのはこういう時に使うための言葉なんだろうな。
焼けたのが俺の部屋だけだということに何かの悪意を感じずにはいられないが、それはひとまず横に置いておこう。
そんなことより、今気になるのは俺の隣にいる男児である。
「……」
力を失うとはまさにこの事を言うのだろう。膝から崩れ落ち、口はポカンと開かれたままだ。色白であろう肌が赫々と炎で照らされていたのが未だに目に焼き付いている。見目麗しく、将来を期待させる面立ち。
それも今となっては見る影もない。本来であればその相形を情動が彩るであろうも、今は色を失ってしまいただのマネキンのような、あるいは能面のようにしか見えなくなっていた。
恐らく彼が俺のルームメイト、ロクサ・トランパス君だろう。入学早々火事で焼き出されるなんて大変だったNE! 俺も焼き出されたうちの一人SA! とか挨拶出来たらどんなに良かっただろうか。そんなことを言っていられないような悲壮感が彼からありありと伝わってくる。
だけど落ち込んでるだけではどうしようもない。人はいずれ自身の足で立ち上がり、先へと進まなければならないのだ。だから俺は行動を起こすことを決意する。
「元気出そうZ! きっとこの先いいことあるZ!」
極上スマイル。この上ない笑顔を彼に向け、軽く肩を叩いた。それに反応した彼の双眸から一滴零れる水滴。
頬を思いっきり殴られた。
* * *
「ごめん」
トランパス改めロクサ君が頭を下げて謝罪してきた。
「いや、そっちも混乱してただろうし、仕方ないよ」
「ガハハ、二人とも無事だったのだから良いではないか」
俺の隣でそう笑って流したのはナガレ・イチノミヤ。火事を察知して部屋から飛び出してきたのだそうだ。隣の部屋から人が飛び出してきたと思ったら、今日シャンデリアの下敷きになったおっさんだったのには驚いた。なんとこのおっさん、偶然にも俺の部屋の隣人だったらしい。怪我を負っていたはずなのだが既に問題ないのか、飄々としている。武士は食わねど、と言うがそれか? というかこの世界にどれだけ武士がいるんだ。サムライラといいこのおっさんと言い、時代錯誤にも程があるだろ。
「手を上げるなど言語道断だ。誠に申し訳ない」
お辞儀の角度は九十度。ロクサは大変申し訳ない、といった苦悶にも似た表情である。ここまでして謝られると俺が悪役っぽいのでやめてほしい。
「顔上げてくれ。俺はそこまで怒ってないからさ」
「しかしそれではけじめが……」
「俺もロクサも火事の被害者な訳だからさ。気にするなよ」
まぁ、火事の原因は俺な気がするしな! 呪本が存在を示すために発火したという可能性も否めない。荷物に混ぜて送ってきたのは父様母様だから本当に悪いのは俺じゃないと思うことにしよう。
「それでは私の気が済まないのだ……!」
ロクサはどうにも頑固というか、律儀というか、そんな性格をしているらしい。面倒というか、難儀なもんだな。そんなんじゃ将来禿げますよ。まーた髪の話してるとかそういうツッコミは不要なんで。
じゃあここは適当に誤魔化すとしますか。
「じゃあ俺と友達になってくれよ」
「えっ」
驚いた表情のロクサ。流石に話を誤魔化すのが下手すぎたのかな?
「それは、ちょっと……」
「その仕打ちは酷すぎるのではないか?」
「ちょっとちょっとちょっとちょっと! いやいやいやいや、その反応可笑しいでしょ!! なんで俺と友達になるのが罰みたいな反応になってんだよ!」
「ア、ウン。ソウダネ。ワタシガワルイノダ。シカタガナイ」
「希望を捨てると言うのか!? まだ諦めるには早いではないか!」
「人の話聞けや!」
何故か分からないが話は物凄く逸れた。脱線とかそういうレベルではない。完全に事故レベルだ。それになんで俺がこんな仕打ちを受けないといけないのだ。
俺が悪いことをしたのだろうか? (いいやしていない)。
この世界に生まれてからLUC値が滅茶苦茶低いんだけどどうなってるんだよ! 『不幸だー』が口癖になれば俺ももっとモテモテウハウハ(死語)になれるのか? 科学はあんまり関係なさそうだけどなー。
「君からは、ねぇ?」
「うむ、不穏な気がする」
「ねぇって言われてもね!? 不穏じゃないよ! めっちゃ普通だよ! 高校生探偵とか第三の目持ってたりとかないよ!」
「こうこうせい?」
「何かの呪文か!?」
「ちげーよ!」
不穏ってなんだよ。俺は別に呪術を使おうとしたり悪魔を使役しようとしたりしないからね。俺が呪われてるだとか取り憑かれてるだとかは、『※あくまでイメージです』だから勘違いしないように!
そんなこと言われてもさぁ、もうこれ以上俺にもどうしようもないわけよ。好き好んでやってる訳じゃないし。どぅーゆーあんだーすたぁん?
「この坊主も反省してる。ワシの顔に免じて、どうにか許してやってくれぬか!?」
「私のためにそんな、私が我慢すれば良いのだ……!」
「その一線は、決して譲ってはならぬ……!」
なんか美談みたいなこと言い始めたよ。正直俺のこともう放置してるようにしか見えない。
「あっはい。そっすね。じゃーそうしましょ」
なんか面倒になってそう言うと二人の表情は喜色満面といったものに変化した。
もう泣いていいのかな。泣くぞ? 泣いちゃうよ? いい大人がワンワン声上げて泣いちゃいますよ?
「感謝する!」
「その器の深さ、感服致した!」
なんでこう深々とお辞儀されてるのだろうか。別にそんな英断したわけじゃないのに。いじめ、カッコ悪い。
「ロクサの荷物は何か残ってるのか?」
俺はとりあえず呪本と剣を拾い上げながら問いかけた。部屋をざっと調べたが、俺のこの荷物以外はすべて延焼していたように思う。
それよりこれからどうするべきか……。
「いや、何一つ残ってないな」
ロクサも肩を落とす。先程までは愕然としていたようだが、今は諦観の表情を浮かべていた。すべてを失ってしまい、逆に清々しい気持ちになっていると考えることもできる。俺も似たような気持ちだ。
残念なことに、今抱えた荷物も一緒に処分されていればどんなに気分が良かったことか。
「火事とあっては寝る場所も必要になるのう」
「そこは教員に事情を説明して、どうにか部屋を融通してもらうしかないな」
「あー、なるほど。その手があったか」
「ただ、こう急とあっては部屋を開けて貰えるかは分からないがな」
そこでナガレがハッと何かに気が付いたように反応した。何か良案でも浮かんだのだろうか。
「ワシの部屋が三人部屋で一人分余っているのだが、如何か?」
「申し訳ない、世話になる」
話は滅茶苦茶スムーズに進んだ。俺を差し置いて。二人は凄く申し訳なさそうに俺に頭を下げた。
「すまぬ」
「すまん」
だからなんでそんな表情するんだよ。俺は別に悪いことをしたわけでもないのに。これで異議を唱えたら完全に俺が悪者じゃん……。
二人は頭を上げてそそくさと部屋に向かって歩きだした。ヘコヘコと俺に頭を下げながら。
「ちょ、待てよ!」
俺の頭の中ではドナドナが流れていた。連れて行かれるのはロクサだが、売られていくのは俺なのでこれは間違っているが。
引き止める俺の言葉を気に留める様子もなく、二人は扉の向こうへと消えた。無情にも閉まる扉。それは完全に俺を拒絶しているように感じられた。
ため息を吐いて俺は一人で教員を探すことにする。本当にこの世界には碌なことがない。人脈も、運も、才能もない。……ウッ、なんか本当に泣きそうだ。
後日知ったのだが、その三人部屋も火事になりました☆ カワイソカワイソ!! ざまああああああぁぁぁぁぁ!!
人を呪わば……?




