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左遷

「しかし頭取も大変だな。こんなに綺麗な奥さんだっていうのに、ほったらかしにするなんて。俺が奪い取っちゃうよ」

「あの人は仕事ばかりで、家の事なんて構っていないから」

 吐き捨てる様に清弘の事を話す八重子だった。その後、黙り込んで山下とは目を合わさなかった。

遠くを見る様な眼をした八重子。その顔をじっと見ていた山下は、

「奥さんも、本当は旦那の事を愛しているんでしょ」

 小さな声で呟くと、急に布団を捲ってベッドから立ち上がった山下。壁に掛けていたワイシャツを取って勢いよく肩から羽織ると、不機嫌そうに部屋を出て階段を降りて行った。その姿を、何が起こったのかが解らずに驚いて見ていた八重子だったが、それを追い駆けようとベッドから降りた八重子も、ハンガーに掛けていたガウンを羽織って部屋から飛び出して行った。そして、リビングで立っていた山下の後ろから抱きつくと、

「もう、さっきも言ったでしょ。私には修ちゃんだけだって」

 その言葉に山下は、

「解りましたよ。私は会社に戻りますから、明日の夕食を楽しみに」

 皮肉に言い放つと、上着を纏って玄関の方に向かった。

 未だに山下の不機嫌の原因が解らないまま、八重子は山下を追った。そんな八重子の方に振り向いた山下は、

「次はホテルで」

 と、嘲笑うかの様な目付きで八重子を見ると、振り返って出て行ったのである。そんな山下に向かって何か言おうとした八重子だったが、言葉を掛ける事が出来ないまま口を尖らせて見ていた。

 会社に到着した山下が自分のデスクの前に立つと、

「山下係長。頭取からの書類を預かっています」

 事務の女性が、一枚の封筒を手に山下の所に歩み寄ってきた。

昨日まで一緒に居た清弘から何も聞いていなかったので、首を傾げながら貰った封筒を眺めていた。そして、机の引出しを開けてペーパーナイフを取り出すと、封を切って中身を確認していた。

中には一枚の紙が入っていた。その紙を開いて書かれていた内容を読んでいると、途中から眉間に皺を寄せはじめた。そして次第に怒りを露わにした山下は、読み終えた紙を机に叩きつけたのだ。

 封筒に入っていたのは、人事を記された用紙だった。その人事内容はと言うと、明日からの山下の移動命令だったのである。

 所謂、左遷だったのだ。山下は、四国に飛ばされる事になってしまった。

「ど、どう言う事だ。四国だなんて聞いてないぞ」

 急な移動命令で、山下は四国支店の支店長として配属になったのである。世間の出来事から言えば、係長から支店長になるのだから喜ばしい事なのだ。だが、その時の山下の心境は違っていた。

すぐさま受話器を取った山下だった。

「どうしたの? さっき出て行ったばかりなのに……」

 電話に出たのは八重子だった。清弘のとった移動命令に、清弘が八重子に何か言っていなかったのか。それを確認したかった山下だった。 

そんな山下の気持ちなど知る由も無かった八重子は、今朝の山下の行動に機嫌を損ねていたままでいた。それを思わせる様に不機嫌そうな口調でそう言っていた。

八重子のそんな行動も、動転していた山下には伝わる事も無く、

「こんな事って有かよ」

 掌で受話器を包み込む様にして、小声で怒りを露わに山下は怒鳴っていた。落ち着きのない眼で周りを気にしながらの電話だった。

そんな山下の状況に、又もや不思議がる八重子は、

「なにかあったの?」

 山下が仕事でへまをしたと思い、いい気味だと悪戯心を出した八重子は、ゆっくりとした口調でそう尋ねていた。

「移動だよ。移動! 突然の移動になった。それも四国だよ!」

 山下の異常な早口の言葉に、ただ事ではない状況を悟った八重子だった。そして、最後の言葉をはっきりと聞き取ると、

「四国って、どうしてなの? 急にそんな所に移動だなんて、何時からなの?」

 声を乱して問い掛ける八重子だった。

山下は、持っていた指示書を見ながら、

「あ、あ、明日には向うに行かないといけない」

 次第に小さくなっていく声だった。そして、急に電話を切ったのである。


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