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不倫

 手紙…… それは、危険な出来事を覆す事がある。



二○一三年 一月。

社会的には不景気という言葉が未だに囁かれてはいるが、巷では細やかながら新年会が盛んに行われている。今年こそは良い年であります様にとの思いが、あちらこちらから聞こえてくるようだ。

そんな年初めに、

「もしもし、どうしたの? 今、東京に居るんでしょ。急に電話なんかくれて」

そこは、塵一つ落ちていない清楚なリビング。その入り口に置かれた木製の棚の上に、陶器で出来た白いモダン的な電話がある。そこで一人の貴婦人が、受話器を片手に話をしている。

数頭の動物の剥製が白一色の壁に掲げられ、その下には日本の家には珍しい暖炉が施されている。天井から吊り下げられた鹿の角を加工したシャンデリアからは、気持ちを落ち着かせる艶やかな光が放たれていた。巨大なスクリーンの薄型テレビが据え付けられた場所は、革製のソファーが相まって高級感を醸し出している。

部屋の作りを見ても、今流行の広々としたダイニングの中央に設置された、大理石から作られたキッチン。しかも、その上には大きめのダクトが設置されている。そして、二階まで吹き抜けになった高い天井には、一際大きなシャンデリアが煌びやかに輝いていた。

そんな高級屋敷の中で、白いドレスに包まれ軽く受話器を耳に当てて立っている様相は、まさに上流家庭のマダムだ。

名前は『戸坂八重子』。年齢は三十半ばだが、様相や肌の艶からは、二十代後半と言っても可笑しくない程の綺麗な女性だ。

品のある落ち着いた清楚な口調の八重子。電話口の相手は、旦那である『戸坂清弘』だった。職業は、銀行の頭取をやっている。

その日は、東京の取引先に出向いていた清弘からの突然の電話で、八重子は驚いていた。

「ええっ! 明日の夕食に、ですか!」

気を取り乱す八重子だったが、急に冷静さを取り戻すと、

「い、いいえ。何も変わった事はないです。ええ、そうします。楽しみにお待ちしていますわ」

そう言って、電話を切った八重子だった。

会話が終わり、受話器からは電話が切られた事を示す電子音が鳴っていた。にも拘らず、暫く握られた受話器を見つめていた八重子。 

憂鬱な眼で一点を見つめる仕草は、何か不安に駆られていた様子だった。暫くして、フッと我に返って振り返ったかと思うと、受話器を戻してリビングを出ていった。

二階を見上げながら、ロビーからの大きな螺旋状の階段を駆け登って行くと、二階にある寝室の扉を開けた。すると、

「電話だった様だけど、誰からだったの?」

部屋の中にあるベッドの方から、男性の低い声が聞こえてきた。

薄暗い部屋にぼんやりと灯されたベッドの灯り。そこに布かれた暖かそうな羽毛の布のだ。

「旦那よ。明日の夕食を御馳走するから東京に来いって。何を考えているんだか」

八重子は、吐き捨てる様な口振りで答えた。その時の眼は、何故か怪しげな笑みを浮かべていた。それはまるで、如何にも旦那を軽蔑しているかの様に、それでいて、目の前の男しか見ていない様な、そんな魔性を秘めた眼だった。

部屋の扉がゆっくりと閉ざされると、両手で背中のファスナーを下ろす。ドレスが肌蹴そうになると、片手で肩口から滑らせながらドレスを下ろすと、下着を纏っていない白い柔肌が露わになった。

男の眼を、逸らす事無くじっと見つめる八重子の瞳からは、男の気持ちを焦らす様な、怪しげで且つ淫らな閃光を浴びせていた。

スマートな裸体を目の当たりにした男は、野生の獣が獲物を目の前にした時の様に、生唾を呑む喉が音を発てていた。

裸になった八重子は、片手で胸を包み、もう片方の手で布団の角を捲ると、潜り込む様に中に入っていった。それを待っていた男が、ゆっくりと八重子の身体に腕を回すと、

「いいのか。こんな所で、こんな事をやっていて」

 見下す様な嫌らしい薄笑いを浮かべてそう言った。

「いいのよ。私のナイト様は修ちゃんだけだから」

 微かな息から洩れる甘えた声でそう答えた八重子は、男に身体を寄せて自ら男の首筋に唇を這わせていた。

 八重子を抱きしめているのは、清弘の勤めている銀行で係長を務めている『山下修二』という男だった。

 この二人が関係を持つ様になったのは、今から一年前のこの家からだった。


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