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第二章 持ち札

 昼休憩になると、拓海は一人で食堂の端の席に座った。


 弁当を広げながら、窓の外を見る。工場の屋根の端から切り取られた、小さな四角い空が見えた。今日は青い。雲一つない、申し分のない青だった。それがなんとなく腹立たしかった。空だけが、いつも自由そうにしている。


 この仕事を選んだのは自分だ。


 そう自分に言い聞かせるたびに、どこかで引っかかるものがあった。「選んだ」という言葉が、どうしてもしっくりこない。


 職業選択の自由、という言葉がある。日本国憲法にも明記されている。人は誰でも、好きな職業を選ぶことができる。学校でもそう教わった。先生たちは「夢を持て」と言い、「努力すれば何でもなれる」と言った。


 しかし本当にそうだろうか。


 高校の頃、拓海には特別得意なことが何もなかった。勉強は中の中。運動も中の中。何かひとつでも飛び抜けたものがあれば、と何度思ったかわからない。勉強が得意なら大学に行けた。身体能力があれば別の道があった。しかし、そのどちらも自分には与えられなかった。


 大学には行けなかった。行く金もなかったし、そもそも行けるような成績でもなかった。母親は工場のパートで、父親は拓海が中学のときにいなくなった。奨学金という選択肢もあったが、その返済を考えると足がすくんだ。


 だからこの工場に来た。


 「選んだ」というより、「残った」という方が正しい気がする。選択の自由とは、そもそも選べるだけの土台がある人間に与えられた言葉ではないか。土台のない場所からでは、どの方向にも一歩踏み出せない。


 自分の生まれ持ったものでどう生きるかが重要だ、という言葉がある。


 拓海もそれは知っていた。頭ではわかっていた。与えられた手札でどう戦うか、それが人生というものだと。嘆いても意味がない、と。誰かに言われたわけではない。いつの間にかそういう言葉を自分に言い聞かせるようになっていた。


 しかし。


 頭でわかっていることと、腹の底で納得することは、まったく別の話だ。


 自分はこの手札で生きるしかない。それはわかっている。でも、この手札でこの人生を納得することが、今の自分にはできない。その二つが、ずっと胸の中でぶつかり続けていた。受け入れることと、諦めることの区別が、もうつかなくなっていた。


 拓海は今の人生に、納得していなかった。


 それだけははっきりしていた。

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