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第一章 同じ朝が、また来た

 ロッカーの扉を開けるたびに、金属の軋む音がする。


 その音が嫌いだった。正確には、その音が「また今日も始まる」という合図になってしまったことが嫌いだった。安田拓海は作業着のジッパーを首元まで引き上げ、ヘルメットを手に取った。


 工場の床はいつも冷たい。夏でも冬でも、コンクリートというのはこうして人間を拒絶し続ける。半導体製造ラインに着くと、すでに機械は唸り始めていた。ウェハーを運ぶ搬送アームが、昨日と寸分違わぬ軌跡を描いて往復している。クリーンルーム特有の乾いた空気が、鼻の奥にひりひりと刺さった。


 また、これか。


 心の中でそう呟いた瞬間、拓海は軽く自分を責めた。この仕事を選んだのは自分だ。面接を受けたのも、採用通知を見て「よかった」と胸をなでおろしたのも、他でもない自分だった。だから文句を言う資格はない。そう、ずっとそう言い聞かせてきた。


 この工場に入って、もうすぐ一年になる。


 一年、という数字が、このところ頭の中でやけに大きく響いていた。一年で何かが変わると思っていたわけじゃない。ただ、こんなにも何も変わらないとも思っていなかった。毎朝同じ時間に起き、同じ道を歩き、同じロッカーを開け、同じラインに立つ。機械が同じ動作を繰り返すように、自分もまた同じ一日を繰り返している。


 ラインのアラームが短く鳴った。


 拓海は反射的に手を動かした。身体は正直だ。頭がどこを彷徨っていても、手だけはちゃんと仕事をする。それがまた、どこか悲しかった。


 私は今、何をしているのだろう。


 その問いが、毎日やってくる。答えは出ない。出ないまま、また手が動く。また一日が始まる。


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