どうしてこうなった!?私乙女ゲームのヒロインでしたよね!?
リーアは所謂乙女ゲームのヒロインであることを自認している。
なぜならば前世の記憶があり、そのヒロインの外見的特徴や過去を持っているからだ。
なので、貴族学園に通う十五歳になるのを今か今かと待っていたのだが、入学後にその期待は予想外の着地点に到達することになる。
悪役令嬢との出会いが第一になってしまったため、すべてが歪んだのである。
本来、リーアは入学式の始まる直前に道に迷い、そこを王子や令息たちに助けてもらうことで知り合うきっかけを得る。
しかし悪役令嬢――フローレンス・ミアキスがリーアを発見したのだ。
たまたま入学式前に手洗いに行っていた彼女がリーアを見つけ、親切心から会場へと連行した。
いや王子様たちとの出会いイベントがあるんですけど!なんて言おうにも言えず、取り巻きのご令嬢たちに淑やかに持てなされながら会場入りしちまったのだ。
しかも会場には先に王子一行が居たので、フローレンスに助けてもらえていなかったら入学式にはまず間に合っていない。
それからというもの、ゲームを網羅していても実際の間取りを知らないリーアは迷子にしょっちゅうなった。
その度、フローレンスが偶々通りかかって助けてくれるのだ。
分かりにくいわよね、わたくしどもは似た間取りの中等部から通っているからわかりますけれど、などと微笑みながら言うので、親切心は間違いない。
ちなみにリーアが高等部に匹敵する十五歳からの入学になったのは、ひとえに身分が低いからだ。
男爵、子爵家は数が多いけれどその分貧しい。
そして学園の寮は無料なれど数に限りがある。
なので、男爵・子爵家は十五歳までは家で面倒を見て、十五歳から十八歳までの間は、男爵・子爵家のみの学級で学ぶように定められている。
伯爵家以上となると財力に違いがあるので、自然と十二歳からの中等部通いで住まいもタウンハウスとなる。
なので、公爵令嬢のフローレンスは、迷子を導くことを自然に行っていたというわけである。
そんな関係が半年も続いたろうか。
ようやっと迷子から脱したリーアだが、迷子状態から助けてもらうまでの間にフローレンスに気に入られてしまい、ランチや放課後のカフェテリアでの茶会に招かれる関係性になっていた。
「わたくしの可愛い子リスを紹介しますわ。
すぐ迷子になってしまうの。皆様も、もし困っているところを見かけたら助けてあげてね」
などと、邪心の欠片もない慈愛のほほえみを浮かべて紹介するものだから、リーアは特別気に入られたラッキーな令嬢として上流階層の令嬢に認識されてしまった。
そして、フローレンスは王子の婚約者なので、自然と遭遇することになったのだが。
「そなたがフローレンスのお気に入りか。
茶会の度に可愛い子リスがいるのだと自慢されてな、妬いていたところだが。
見てみれば令嬢か。悋気を起こす対象ではなくて安心している」
などと。
恋愛対象どころか、嫉妬すべき相手として見られていたことが発覚してしまい、リーアはそこで挫けてしまった。
なぜなら、フローレンスだけが子リス扱いしてくるわけではなかったので。
取り巻きの令嬢たちは全て身分が高いのだが、そのいずれもとリーアは関係値を築いてしまった。
故に、茶会やランチの席で同席するのだが。
「子リスちゃん、このお菓子は珍しいものよ。
おひとつどうぞ。この国で言えばマカロンに近い食感で、味は少し苦みの混じった甘いものよ」
「あら、遠慮しないでいいのよ。今日のランチはわたくしの奢り。
魚は鰆のポアレなんて如何?
肉料理はバイソンのミニステーキにすれば午後の授業も眠くならずに済むのじゃないかしら」
「爪のケアも大事よ。わたくしのマニキュアセットを一つあげるから、眠る前に塗って、朝に処理しなさい。
そうすれば艶々になるわ。あなた、素材はいいのだからもっと意識しないと」
と、散々可愛がられてしまい。
しまいには、婚約者がいない、卒業までに嫁入り先が見つからなければ平民ルートと知られたことで。
フローレンスは自らの家の分家である子爵家の嫁になるのはどうかという話までもってきたのである。
「ミアキス家の北部を管理する家なのだけれど、雪は積もらないわ。
けれど夏は涼しいし、過ごしやすくてジャガイモが特産品の家なの。
次の当主になる令息は来年入学なのだけれど、優しくていい子よ。
いい子過ぎて誰をお嫁さんにしたらいいか家が迷っていたのだけど、子リスちゃんなら安心できるわ」
善意のオンパレードである。
そうしてあれよあれよという間に休日にお見合いがセッティングされ、話してみれば気が合ってしまい、気付いたら婚約していたのだ。
いや、身分としては安泰になったし、現実的に見れば全然ハッピーなのだが。
極上のお嬢様たるフローレンスの気に入るままに道が進んでいるようで、複雑な思いである。
というかゲームでのフローレンスはもっと高飛車で傲慢で人を傷付けることをなんとも思っていなかった。
なのに今は親切心の権化で、弱いものに優しく、王妃に相応しい慈愛を身に着けている。
その違いにクラクラすることはないではないが、結局のところリーアは自分が幸せなので。
それならそれでもういいや、と。
全てを諦めて身を委ねることにしたのであった。
わたくしには前世の記憶というものの片鱗が、幼い頃から存在した。
その前世のわたくしというのが性格が最悪で、人を陥れては悦に入り、金にものを言わせて人を従わせ、家族でさえ虐げるような劣悪な人間だったので。
そうは絶対ならないぞという固い決意をもって、反面教師として人生を歩んできた。
そのおかげで人に親切にすれば親切が返ってくるし、広い心でいればお互い気分よく過ごせるし、柔らかい対応をしながらでも冷酷な決断を下すことは可能だとも知ったのだ。
王妃となる以上、優しいだけではいられない。
けれど、大部分としては優しく。引き締めるところは引き締めるという加減を覚えてしまいさえすれば、何も問題がなかったので。
生き方を無理に変えたりする必要がなくて安心したのを覚えている。
リーア・プリスという子爵令嬢などは、親切心で構っている内に随分気に入ってしまって面倒を見ている代表だ。
使用人の中でも、目立たないけれど才覚を感じて職位を引き上げ成功させた者が何人かいるけれど。
彼女もなんとはなしに賢そうな目をしていたので。
気分良く引き取らせてもらえるように、お友達と頑張ってこちら側に引き込んで、なんとか分家の嫁になってもらった。
あの家の跡継ぎは優しいし社交も上手だけれど、数字が苦手だったから。
きっとあの子リスちゃんが頑張ってくれるに違いないわ。
さて、今度のお茶会では何を食べさせようかしら?
カフェテリアの新作のチョコレートケーキもいいわね。
わたくしはチョコはほどほどに好き程度だけど、子リスちゃんは大好物みたいだし。
飲み物は合わせるとしてカフェラテかしらね。
話題は、そうね、ライラック嬢の家で生まれた子猫の話なんていいかもしれない。
可愛い動物、しかも赤ちゃんの話なんて女の子は皆大好きだもの。
卒業するまでも、卒業してからも。
子リスちゃんや、今のお友達の皆さんとも、長く親しく付き合っていければいいわね。
王妃は孤独な立場だけれど。
親しい人がいればきっと乗り越えていけるに決まっているもの。




