第九三話 宴の余韻、戦いの序曲
翌朝。
いつもの、日課である、太極拳を、休んだ。
部屋を見渡すと、イビキをして気持ちよさそうに寝ている、じんた
他の二人は、何事もなかったかのように起きて布団を畳んでいた。
(ん?なんか、だるいな。二日酔いとは違う、寒気がする)
「早いな、おはよう、何か、少し風邪ひいたみたいだ」
「……寝てろ」
その時、シンジが、静かに言った。彼は、すでに身支度を、整えている。
「……俺は、行ってくる」
そう言うと、彼は、新たな武器である「眠鋼の曲牙」を、帯び、一人、宿を出て行った。
新しい武器を、試すため、そして、己の身体を、鍛え上げるため、討伐へと、向かったのだ。
「……タツヤ。……大丈夫か?」
その時、かすれた、声がした。見ると、ゆうこも、顔色を、真っ青にして、咳き込んでいる。
どうやら、風邪を、引いてしまったらしい。
しかも、その横で、気持ち良さそうに、眠っている、かすみが、いた。
珍しいな、こんな時間までと、思ったが、昨夜、帰り際、レンに支えられ、宿に向かっていたっけな。
龍也は、ため息を、一つ、つくと、まず、風邪を引いた、自分と、ゆうこに、薬草を、煎じた、熱い、お茶を、飲ませた。
薬草の、効果は、テキメンで、二人の、身体は、少しずつ、回復していく。
しかし、酔っ払いには、薬は、効かない。
じんたとかすみは、酒が抜けぬうちは、どんな薬を飲ませても、全く効果がない為、起きてしばらくは、どうしようもない。------この仮装空間でも、酒は飲んでも、飲まれるな、であるようだ。
(……飯山に、今日、発とうかと、思ったんだがな……)
龍也は、ちらりと、窓の外を見た。青空が広がっている。
しかし、とても、旅に出られるような、状態ではなかった。
レンも、同じく、宿を出た。
彼の、手には、王から、授けられた、「破城剣」が、握られている。
彼は、昨夜、再会した、剣の恩師、三上元隊長が、開いているという、道場へ、稽古に、向かったのだ。
剣を、握り、恐怖を、乗り越えた、レンの、新たな、戦いが、今、始まった。
ゆうこと二人で、甘い時間でも……などと考てる場合ではない、思い出した。
野沢温泉の件だ。
「……ゆうこ。……昨夜のこと、覚えてるか?」
胸につけた、ネックレスを、鏡に映しながら、眺めて、幸せそうに、微笑みながら
「……なんじゃ……つづき、するか?」
「………そうじゃなくて、あの、レンの、隊長が、言ってた、話のことだ」
「なんじゃ、そんな、真面目な話かい……うーん、なんじゃ、あんま、覚えとらんな」
「いいか……これから向かう、飯山の少し行ったあたりに、野沢温泉という、有名な温泉郷が、あるんだ」
地図を、広げ指さす。
「……そこに今、魔物が、住み着いたという、話だ」
「ふーん……なんじゃそれ……なんか、聞いたこと、あるような……」
ぼんやりと、呟いた、その時。目が、カッと、見開かれた。
「……ん!?……なんじゃ、それ!……それって、水上のと、全く、同じ、話じゃろうが!」
「……そうなんだ。……設定が、全く、同じなんだよ」
龍也が、静かに、頷いた。
「作者が手ぇ抜いとるんじゃないん? ちゃんと考えとるんかねぇ?」
「それは、言わないで、やってくれ」と、耳元で囁いた。「……わかったけぇ……」、赤くなった。
水上温泉を、毒で、汚染し、その、源泉を、利用していた、ヤマタノギドラ。
そして、今、野沢温泉にも、同様の、魔物が、住み着いた、という噂。
部屋に戻ると、ようやく、起きてきたところだった。
「……頭、いてえべ……」
じんたが、頭を押さえながら、うめく。
そして、かすみも、顔色を、真っ青にして、弱々しく、訴えかけてきた。
「……気持ち悪いです〜……」
普段、酒を、ほとんど飲まない、かすみは、昨日、おそらく、レンとの時間が楽しくて、無理をしてしまったのだろう。
そして、修行に出ていた、二人が、帰ってきて、汗を流し、遅めの朝食をとった。
龍也は、先ほど、お願いしておいた、大量の雑炊を、運んでもらった。
それを、皆で、無言で、胃の中に、流し込んでいく。
温かい雑炊が、荒れた、五臓六腑に、じんわりと、染み渡っていく。
食べ終え、少しして、薬草を煎じたお茶を、飲ませると、ようやく、二人の体調が、整ったのは、もう午後の三時頃だった。
龍也は、皆の顔を、見渡した。
「……さて。……話すべきことが、たくさん、あるな」
長野の午後。
新たな、冒険の予感が、静かに確実に、忍び寄っていた。
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