第四六話 新たなる家族の歓迎会
新章 〜新たなる旅立ち・・・五人の絆〜
その夜、これまでで最も盛大で、そして歓声と笑い声、喜びに満ちた光に包まれていた。
かすみの歓迎会。それはもはや、ただの宴会ではなく、新しい家族の誕生を、高らかに宣言する、神聖で、そして、最高に賑やかな、祝祭だった。
龍也は、この日のために、持てる技術と愛情の全てを、料理に注ぎ込んだ。
テーブルの上には、もはや、高級レストランのフルコースか、あるいは、竜宮城の宴かと見紛うほどの、豪華絢爛な料理が、これでもかと、ひしめき合っている。
まず、目に飛び込んでくるのは、市場で仕入れた、新鮮な魚介類が、咲き乱れるように、盛り付けられた、前菜のプレートだ。軽く炙られ、食欲を刺激する香ばしい香りを放つ、カツオのたたきは、たっぷりの薬味と共に。そして、大ぶりのアサリとムール貝を、白ワインとニンニクで、ふっくらと蒸し上げた、イタリアン風の一品は、そのスープ一滴すら、残すのが惜しいほどの、絶品だった。
肉料理の存在感も、負けてはいない。じっくりと、丸一日かけて煮込まれ、箸を入れただけで、ほろりと繊維がほどけるほど柔らかい、奇跡の豚の角煮。若鶏のもも肉を、ローズマリーとタイムの香りと共に、オーブンでこんがりとジューシーに焼き上げた、フレンチの定番。そして、シンジのために特別に用意した、赤身肉の分厚いビーフステーキは、完璧なミディアムレアに仕上げられ、その断面から、肉汁が、キラキラと輝きながら、溢れ出している。
野菜も、決して、脇役ではなかった。まるで宝石箱のように、彩り豊かな新鮮野菜を、アンチョビとニンニクの熱々のソースでいただく、バーニャカウダ。魚介の旨味を、米の一粒一粒が、余すことなく吸い込んだ、スペイン風のシーフードパエリアは、サフランの芳醇な香りが、部屋中に、幸せな香りを振りまいている。
その、心のこもった、もてなしの数々が、今夜の特別な宴を、どこまでも華やかに、そして、どこまでも、美味しく彩っていた。
「ほいじゃあ、改めて!わしらの、新しい、そして、最高に可愛い、かすみちゃんに!そして、わしらの、輝かしい、未来に!乾杯じゃあ!」
ゆうこの、威勢のいい音頭で、宴は華々しくその幕を開けた。
最初は、その、あまりの歓迎ぶりに、少しだけ戸惑い、緊張で背筋を伸ばしていた、かすみだったが、この、あまりにも個性的で、そしてどこまでも温かい、仲間たちの、怒涛の歓迎の波に、すぐにその心を解きほぐしていった。
「かすみちゃん、これ、美味いど!タツヤの、得意料理なんだ!ほれ、遠慮しないで、いっぱい、食ってくれ!」
じんたがまるで、世話好きで、少しお節介な兄?叔父のように、彼女の皿に、次から次へと、料理を取り分けてやる。
その、少しだけぎこちない、しかし、優しさに満ちた手つき。その眼差しはどこまでも温かかった。
彼の心の中には、看護師のまいこの存在が、大きく宿っている。
だからこそ、この、新しくパーティに加わった、可憐で、守ってあげたくなるような、魔法使いの少女を、彼は、恋愛対象としてではなく、何があっても、自分が守り抜かなければならない、大切な「妹」として、その心に深く受け入れていたのだ。
「かすみちゃん、遠慮せんで、ぎょうさん、食べんさいよ。あんたは、魔法使いなんじゃから、もっと肉つけんと、いざという時に、MPが続かんようになるで。ほれ、このステーキも、食べんさい!シンジ!あんた、それ、全部、一人で食う気か!」
ゆうこも、まるで、世話好きで、口うるさい母親のように、かすみの世話を焼く。
最初は、自分より若くて、明らかに自分よりも女性らしい、可愛い女の子の登場に、少しだけやきもきしていた彼女だったが、かすみの、その素直で、どこまでも真面目で、その純粋さに触れるうちに、彼女の心は、完全に母性愛で満されていった。この子は、わしが立派な一人前の女に、そして、最強の魔法使いに育てちゃる。
そして、シンジ。彼は、ただ黙ってその賑やかで幸せな光景を、本当に楽しそうに微笑みながら眺めていた。
しかし、その穏やかな表情の奥で、彼は固い、鋼のような誓いを立てていた。
(……もう、二度と、俺の目の前で、大切な人を、失うわけにはいかない)
亡き恋人への、消えることのない想い。そして、なつみへの、芽生えた新たな想い。
この新たなる「妹」を、自分の命に代えても守り抜くという、兄としての強く、そして絶対的な決意へと昇華させていた。
彼は、このパーティの、揺るぎない盾となり矛になることを、心に誓ったのだ。
そんな、仲間たちの、温かく、そして力強い想いに包まれて。
かすみは、嬉しさに、少しだけ涙ぐみながら、最高のそして、一点の曇りもない笑顔で言った。
「……皆さん、本当に、本当に、ありがとうございます。……私、このパーティに入れて、心の底から、幸せです!」
その、純粋で、ストレートな言葉に、龍也は、不意に目頭が熱くなるのを感じていた。
ああ、なんて、いい夜だろうか。
こんなにも満ち足りた幸せな瞬間が、自分の人生に訪れるとは夢にも思わなかった。
宴は、さらに、ヒートアップしていく。
酒が回り、上機嫌になったゆうこが、部屋の真ん中で、なぜか、民謡を、大声で歌い始めた。
それに合わせて、じんたが、けん玉の技を、次々と繰り出す。
「もしかめ」を、高速で、延々と続けている。
シンジは、そんな二人を、呆れながらも、手拍子を打っている。
龍也は、その、あまりにも、カオスで、そして、最高に、幸せな光景を、ただ笑って見ていた。
その夜、浦和の一軒家で、一つの、最強の、そして最高の「家族」が誕生した。
彼らの本当の冒険は、まだ始まったばかりだ。
しかし、もう、何も、怖いものはない。
この五人が一緒なら、どんな困難も、どんな強敵も、必ず乗り越えていける。
龍也は、その確かな手応えを胸に、幸せそうに笑う、仲間たちの顔を、一人一人、慈しむように、その目に、深く焼き付けるのだった。