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五十五のおっさんが、退職して在宅勤務しようと思ったら、勇者になっちゃうかもしれないストーリー  作者: 司馬 雅


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第三十八話 日々の疲れと面会の真実

挿絵(By みてみん)


【お知らせ】

これからの更新は、毎週 水・日曜の夜21時半ごろ に投稿予定です。

おっさんたちのドタバタ冒険、ぜひお風呂上がりのお供にどうぞ!

 朝が、来た。

 結局、一睡もできなかった。昨夜の、やり取りの余韻が、全く心から冷めないのだ。

 したたかに飲んだ酒も、まだ、身体に残っている。

 だが、居酒屋時代の、無茶な飲み方に比べれば、大したことはなかった。


 リビングを覗くと、じんたが、まだ、気持ちよさそうに眠っている。

 そっと、家の外へ出ると、日課の太極拳を始めた。

 そして、そのまま気晴らしに、早朝の街を、散歩することにした。

 しかし、歩いても、歩いても、あの時の、手の感触と、ゆうこの顔が、なかなか、頭から、振り払えない。


(……これから、どんな顔して、会えばいいんだ)

 まるで、中学生のような、悩みを抱え、龍也は、頭をかいた。


 その、雑念を、取り払うように、市場へ足を向けた。

 威勢のいい声が飛び交い、活気に満ちた朝の市場。

 その風景の中にいると、いつしか、余計なことを考えずにいられた。

 店先で、鮮度のいい豚の塊肉を買うと、家へと戻った。


 家の庭では、シンジが、準備体操をしていた。これから、ランニングに行くと。

 ゆうこは、まだ、寝ているのか。リビングにはいなかった。

 買ってきた肉を、小分けにしようと、台所に立ったその時だった。

 背後からじんたの声がした。


「……ゆんべは、すまんかったでな」

「ああ、大丈夫か?」

「頭、いてぇど……」

 そう言って、頭を押さえながら、隣に、近寄ってきた。そして、ニヤリと、意味ありげな顔で言った。


「……ゆんべは……すごかったのう」

 その一言に、龍也の心臓が跳ね上がった。


(ま、まさか……聞いてたのか!?)

 龍也が、言葉を失っていると、じんたは、こくりと頷いた。


 しまった!龍也が、何か、弁解をしようとした、まさにその瞬間だった。


「……大丈夫だ、タツヤ」

 静かに言った。


「あれは、大人の会話だった。人の好さが、にじみ出た、ええ会話だった。おらも、皆のこと、好きだ。だから、気にすんな」

 その、あまりにも、意外な、そして、大人なじんたの解釈。

 龍也は、なんだか、一気に、肩の力が抜けていくのを感じた。


「ありがとう、じんた」

 龍也は、何か、吹っ切れたように、笑った。

 そして、軽快な手つきで、豚肉を小分けにし始めた。


 朝食の支度が、そろそろ出来上がる頃、ランニングに行っていたシンジが帰ってきた。

 彼が、汗を流しに、風呂場へと向かい、そして、出てくる、ちょうどそのタイミングで、ゆうこが起きてきた。


「おはようさん」

 その顔は、いつもの、ケロッとした顔だった。

 昨夜の、しんみりとした雰囲気など、まるで、何もなかったかのように。

 じんたが、「おはよう!」と、元気よく、挨拶をする。

 龍也も、「お、おはよう……」と、挨拶を返しながら、恐る恐る、彼女の顔を、見つめた。


「なんじゃ、タツヤ。わしの顔に、なんぞ、ついとるか?」

 不思議そうに、首を傾げるゆうこ。


(……女心とは、本当に、いつまで経っても、分からんもんだ)

 心の中で、そう、呟いた。


 その、横で、じんたが、一瞬だけ、にやけたが、すぐに、真顔に戻った。

 ひやひやしたが、おかげで、なんとか、平常心を取り戻すことができた。


 朝食を食べながら、今日の予定を話した。

 まずは、梅さんに電話だ。


 龍也は、一人役所へと向かった。


「梅さん、俺です。役員報酬がすごいんで借金、返します。で、いくら払えばいいんでしょうか?」

 電話の向こうで、梅さんは、少しだけ、計算するような間を置くと、あっさりと、言った。


『ああ、そうじゃのう。手数料とか、なんやかんや、込みで……八十二万、っちゅうところかのう』


「……はちじゅうに、まん?」

 龍也は、三度、聞き返した。


「あの、内訳を、教えていただけますか」

『内訳は……まあ、なんとなく、じゃな』

 もはや、何も、言う気力も、なかった。

 龍也は、言われるがまま、銀行で、八十二万を、梅さんの口座へと払い込んだ。


 家に帰った。ショックで、そのまま、布団に突っ伏して、寝込んでしまった。

 心配する、仲間たちに、静かに支払いのことを伝えると、皆一様に驚いたが。

 ゆうこが、カラリと、笑った。


「まあ、ええがな!借金返して、それでもまだ手元に金が残っとるんじゃから!よかった、よかった!」

 シンジも、「また、討伐に出て、稼げばいい」と、静かに、頷く。

 じんたも、「おらも、魔物から、宝盗んで、それ売って、稼ぐべな!」と、言ってくれた。


 この、数日間の、あまりの激動。それが、一気に身体に、応えたのだろう。

 そして、何より、寝不足だった。龍也は、夕方近くまで爆睡してしまった。


 時計を見て、飛び起きる。リビングにいたシンジに、今日の討伐に、行けなかったことを詫びた。


「気にするな」

 部屋にいた、二人も、出てきて、そう言ってくれた。


 そして夜。

 いよいよ、例の、魔法使い候補との面会だ。

 一行は、総出で、ギルドへと向かった。

 先に、じんたが、店に行き、開店準備。そして、開店時間ちょうどに、龍也たちが、店へと入った。

 奥のテーブル席に座り、その人物が現れるのを待つ。

 まだ客も少ない。ちょくちょくじんたが、手品を披露しに、テーブルへとやってくる。


「……どんな人が、来るんだべかなあ」

 じんたが、トランプを、意味もなく、シャッフルしながら呟いた。

 その言葉に、ゆうこが、待ってましたとばかりに食いついた。


「そりゃあ、決まっとるじゃろ!わしとしては、シュッとした、イケメンの、クールな魔法使いが、ええのう!」

 ゆうこは、うっとりとした表情で、頬に手を当てる。


「いざとなったら、『僕のことは、気にしないでください』とか、言いながら、強力な魔法で、敵を、一掃してくれるんじゃ!きゃー!ぶち、かっこええ!」


「ええーっ!おらは、逆だべ!もっと、こう、ドジで、泣き虫な、女の子がいいど!」

 じんたも、負けじと、自分の理想を、語り始めた。


「いっつも、『ひぃん、ごめんなさいぃ』とか、謝ってばっかりなんだけど、いざ、仲間がピンチになったら、『皆のことは、私が、守る!』とか、言いながら、すんげえ、魔法を、ぶっ放すんだ!たまんねえべな!」


「はあ?何、言うとんじゃ、このロリコンシーフが!パーティのバランスを、考えんかい!」

「ゆうここそ、ただの、面食いだべ!」


 二人の、まだ見ぬ、新たな仲間への妄想は、どこまでもヒートアップしていく。

 その、あまりにも子供じみた、しかし、どこか微笑ましい言い争い。

 龍也は、それを、やれやれといった表情で聞きながらも、自分自身も少しだけ、胸が高鳴っている。


 約束の時間、三分前。


 ギルドの、入り口のドアが、ゆっくりと開いた。

 そこに立っていたのは、深いフードを目深に被り、長い杖を持った、いかにも、といった恰好の人物だった。

 フードがおろされ、その顔が見える。

 そこにいたのは、腰の曲がった、穏やかそうな老人の男性だった。


 龍也は、老人を、自分たちのテーブルへと、促した。

 じんたに、酒を注文し、いざ、挨拶が始まった。

 酒を持ってきた、じんたも、そのまま席に着く。


 老人は、まず、こう切り出した。


「……まずは、お互いに、いくつか、質問を、させてもらっても、よろしいかな。どちらからでも、構わんよ」

「分かりました。では、こちらから」

 龍也が、口火を切った。


「我々の、これからの、長い旅に、同行していただくことは、可能でしょうか?」

「失礼ですが、お歳は?体力は、大丈夫ですか?」

「どんな、魔法が、お使いになれるのですか?」

「討伐の経験は、どれくらい、おありで?」


 矢継ぎ早に繰り出される質問に、老人は、一つ一つ、丁寧に、そして、自信ありげに答えていく。


「全て、可能じゃ」「問題ない」「あらゆる魔法を、使いこなせる」「経験は、誰よりも、豊富じゃよ」

 その、あまりにも、完璧な答えに、一行は、逆に不信感を抱いた。


(……この爺さん、本当に、やる気があるのか?なんだか、怪しいな……)

 皆の顔を、見渡す。全員が、同じ気持ちであることを、龍也は確信した。


 今度は、老人の、質問の番だった。


「……君たちの、旅の目的は、何かな?」「なぜ、魔法使いを、必要としておるのかな?」「魔法について、どのくらい、知っておる?」「もし、わしが、敵に攻撃されそうになった時、どう、守ってくれるのかな?」「これから、具体的に、何を、するつもりなのか?」


 その質問の一つ一つに、今度は、龍也たちが、真摯に答えていく。

 長い、問答が終わった。

 龍也が、こちらの結論を、言い出そうとした、まさにその時、老人が、先に、口を開いた。


「……ふむ。あんたたちは、いい仲間じゃな。いい人たちじゃ。……すまんかった。わしは、あんたたちを、試しておった」

 老人は、深々と、頭を下げた。


「実はな、わしは、あんたたちの、仲間になりに来たのではない。あんたたちが、どんな人間か、見に来たんじゃよ」

 老人の、衝撃的な告白に、一行は、呆気に取られた。


「……もし、あんたたちが、信頼できる、良い人たちであったなら、わしが、紹介したい、若者が、おるんじゃ」

 老人は、自分の正体を、明かした。

 彼は、この浦和にある、『魔法使い養成所』の、講師なのだという。

 そして、自分の、優秀な生徒を、見てもらいたくて、こうしてやってきたのだ、と。


「昨今、魔法使いになろうとする、若い者は、少なくてのう。それでいて討伐パーティは、どこも、魔法使いを、欲しがっておる。じゃが、誰、彼、構わず、パーティに入っても、ぞんざいに扱われたり、ただの、道具のように、使われたり……。ひどい現状なんじゃよ」

 だからこそ、彼は、自分の目で、龍也たちが、本当に、仲間を大切にする、パーティなのかどうかを、確かめに来たのだ。


「……明日の昼間、一度、養成所へ、来てはくれんかな。そこで、わしの、自慢の生徒たちに、会ってみては、もらえんかのう」


 その、真摯な眼差しに、龍也は、迷わず頷いた。

 こうして、一行は明日、魔法使い養成所へと、向かう約束を交わしたのだった。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


物語をお楽しみいただけましたら、

ブックマークや★評価で応援いただけると大変嬉しく存じます。


これからも、龍也たちの奮闘を、どうぞごゆっくりご覧ください。


※次回の更新は、毎週【水・日曜 21:30ごろ】を予定しております。

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