第百八十話 広島道中記 ー 呪縛の国 その参 ー
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おっさんたちのドタバタ冒険、ぜひお風呂上がりのお供にどうぞ!
翌朝。
まだ、夜明け前の、暗い時間から、潜入は、開始された。
じんたは、漆黒の、影縫いのマントを、身にまとい、妖刀雪定を、腰に、帯び、成膳寺を、出発した。
彼の、動きは、街の、人々の、目には、全く、見られないほど、素早かった。
屋根を、伝い、壁を、駆け上がり、影から、影へと、音もなく、移動していく。
泥棒の、極意として、記憶は、何よりも、大事なことだ。
街の、構造。建物の、位置。部屋の、場所。警備の、衛兵たちの、行動パターン。
それらを、逐一、頭の中に、記録していく。
そして、街の中心部にある、加賀城へと、忍び込む。
城内では、衛兵たちが、厳重な、警備を、敷いている。
じんたは、その、衛兵たちの、数。会話の、内容。一人一人の、顔の、特徴。仕草。
知り得る、情報は、全て、記憶し、記録した。
まずは、滞在、二時間。
それ以上は、危険だ。
じんたは、一度、城を、抜け出し、成膳寺へと、戻った。
長居は、禁物。
あとで、夕刻過ぎに、もう一度、潜入し、情報を、まとめる。
じんたが、加賀城へと、潜入している間、成膳寺の、中では、ささやかな、交流会が、行われていた。
しかし、それは、ささやかな、どころでは、なかった。
ゆうこの、人並み外れた、コミュニケーション能力は、寺の、修行僧たちを、瞬く間に、魅了した。
「……ゆうこ先生!……うちの、腰痛、どうにかなりませんか!」
「……なんじゃ、そんなもん、気合じゃ!ほれ、わしに、続けんかい!」
いつの間にか、寺の、健康診断が、始まり、レンが、真面目な顔で、書記係を、務めている。
体力の、劣っている、修行僧には、シンジが、講師となり、自衛隊式の、厳しい、トレーニングを、指導し始めた。
「……腕立て伏せ、あと、百回!」
「……は、はい!」
いつの間にか、寺は、健康セミナーと、化していた。
龍也は、厨房で、僧侶と共に、精進料理を、学んでいた。
「……なるほど。……この、野菜の、旨味を、最大限に、引き出すには、こう、するのか……」
龍也の、料理人としての、探求心は、尽きることがない。
彼は、精進料理に、自身の、アレンジを、加え、次々と、絶品の、精進料理を、共同開発していく。
その、あまりの、美味しさに、住職も、「これは、仏の、恵みじゃ!」と、目を、輝かせている。
そうして、じんたが、潜入から、戻ってきた、その時。
寺の中は、活気と、熱気に、満ち溢れていた。
もし、酒でも、あったなら、宴が、始まっていたかもしれない、というほどの、盛り上がりだ。
住職も、その、中心で、ノリノリで、シンジの、トレーニングに、参加している。
さすがに、じんたが、帰ってきてからは、皆、まじめモードに、なったが、じんたは、その、あまりの、盛り上がりに、少しだけ、羨ましかった。
(……おらが、いない間に、こんな、楽しそうなこと、しとったんだべな……)
じんたは、そう、思いながら、龍也に、成果を、報告した。
加賀城の、内情。そして、当主の、異変。
その、情報が、彼らの、新たな、戦いを、導く、鍵となるだろう。
夕刻。
じんたは、再び、加賀城へと、潜入した。
今度は、当主、前田氏の、私室へと、忍び込む。
家臣の者に対している時は、気難しい感じではあるが、言っていることは、普通に思えた。
しかし、一人になった時、とうとう、その、正体が、見えた。
鏡に映った、その姿は、あの、かすみに化けていた、魔物、ミメイラの、色違いの、姿だった。
(……おそらく、知能や、能力も、上の、幹部クラスの、魔物だべ……)
じんたは、確信した。
あとは、配下の者が、洗脳されているのか、騙されているのかを、見極める必要がある。
じんたは、隠れていた、かすみに、合図を送った。
「……かすみ!頼む」
「はい」
かすみが、杖を構え、探知魔法、「アナライズ・サークル」を、発動する。
街全体を、検索する、その、魔法の、波動が、加賀の街を、包み込む。
「……見えました……街の、あちこちに、魔物が、家臣に、化けて、先導している、感じです……他の、家臣の方々は、皆、騙されているだけです」
じんたは、その情報を、持ち帰り、寺に、報告した。
龍也は、すぐに、作戦を、立てた。
「……よし……城に、攻め入る前に、家臣に、化けている、魔物を、倒しながら、本丸に、行くぞ」
「……まずは、かすみの、探知で、魔物を、絞り込む。……そして、シンジとレンで、静かに、倒していく」
「……周りの、街の人には、かすみの、魔法で、眠ってもらおう」
その夜。
一行は、加賀の街へと、潜入した。
かすみが、杖を高く、掲げる。
「沈め、夜の囁き、光よ、夢の扉を照らせ『ソムニア・ルーメ』!」
淡い、銀青の、光粒が、舞い上がり、街全体を、包み込む。
人々は、その光に、触れた瞬間、深い眠りへと、落ちていった。
静まり返った、街の中。
シンジとレンが、動き出す。
かすみの、探知で、特定された、魔物たちを、次々と、音もなく、仕留めていく。
「……ぐっ……!」
魔物たちは、断末魔の、悲鳴を、上げる間もなく、消滅していく。
龍也たちは、静かに、そして、確実に、城へと、進んでいた。
かすみの、「アナライズ・サークル」で、特定された、家臣に、化けた、魔物たちを、シンジとレンが、音もなく、仕留めていく。
やがて、城の、「二の門」まで、たどり着いた。
しかし、流石に、この辺りから、魔物の数が、圧倒的に、多くなってきていた。
「……龍也さん。……この辺りは、家臣の方々が、少なくなっています。……魔物の方が、多いです」
かすみが、そう、耳打ちする。
「……よし。……かすみ、ソムニア・ルーメで、家臣たちを、眠らせろ。……じんた、シンジ、レン。……眠らせた、家臣たちを、外に、移動させろ。……残りの、魔物を、対処するぞ!」
龍也の、指示が、飛ぶ。
「ソムニア・ルーメ:サークル!」
かすみが、詠唱すると、半径十五メートルの、範囲内に、淡い、光粉が、舞い、周囲の、家臣たちを、眠りへと、誘う。
じんた、シンジ、レンの三人が、眠り込んだ、家臣たちを、手早く、安全な場所へと、移動させていく。
「……侵入者だ!……侵入者が、いるぞ!」
魔物たちの、叫び声が、城内に、響き渡る。
「……くそっ!……バレたか!」
龍也が、歯ぎしりする。
もはや、隠密行動など、不可能だ。
城の、奥から、次々と、魔物が、押し寄せてくる。
龍也たちの、連携は、完璧だった。
シンジの、「幻影双牙」が、敵を、幻惑させ、レンの、「龍剣旋舞」が、その、身体を、切り裂く。
ゆうこの、「ヴォルト」と、「アルドゥル」が、魔物を、焼き払い、龍也の、ヤリが、その、死角を、突く。
「……皆!……総力戦だ!……本丸まで、突破するぞ!」
龍也の、号令が、飛ぶ。
加賀城の、夜は、彼らの、最後の、戦いと共に、深く、更けていくのだった。
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これからも、龍也たちの奮闘を、
どうぞごゆっくりご覧くださいませ。
※次回の更新は、毎週【水・金・日曜 21:30ごろ】を予定しております。




