第百七十七話 広島道中記 ー 二人の姫と加賀のスパイス ー
若き二人の、育む気持ちを、羨んで、一行は、金沢に、着いた。
到着したのは、夕暮れ時、日本庭園を、眺めた。
その、手入れの行き届いた、美しさに、言葉が、出ない。
言葉が出ないので、言葉にはしない。
宿に、荷物を、置くと、荷解きを済ませ、一行は、早速、お決まりの、温泉へと、向かった。
「兼七温泉」。泉質名:ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。
pH8.1の弱アルカリ性で、肌が、すべすべになる、浴感が、特徴だという。
体の芯から、温め、保湿効果が、高いとされる。神経痛や、筋肉痛、関節痛などにも、効果がある。
皮膚病、やけど、胃腸病などにも効くが、外傷、貧血症、呼吸器病、心臓病、切り傷などには、禁忌症があるらしい。
露天風呂に、ゆっくりと、浸かる。
「……はあ……。極楽、極楽じゃのう〜」
ゆうこが、そう、呟くと、かすみも、
「はい、本当に、気持ちいいです……」と、目を、閉じた。
極楽娘が、幸せに、ひたっている。
湯上り美人を、それぞれ、男たちが、見とれている。
(神秘だな、女神なんだがな、怒ると、頭に槍刺す人だからな~)
(可憐だな~、天使って、居るんだよな~)
湯から上がり、食堂へと、向かった。
食堂の、席に着くと、ゆうこが、店主の、おばちゃんに、豪快に、頼んだ。
「……おばちゃん、おまかせで、六人前、ちょうだい!」
龍也も、その、流れに乗る。
「……そうだな。……たまには、飲むか!……ビールも!」
「「「「「イヤッホー!」」」」」
皆の、歓声が、食堂に、響き渡る。
やって来たのは、金沢の、旬の味覚を、ふんだんに、使った、料理の数々。
一品目:前菜「加賀野菜の小鉢三つ」
「はい、まずはね〜、加賀の野菜をちょこちょこ盛ってあるよ。れんこんの白煮に、金時草のおひたし、あと源助だいこんに柚子味噌のせてあるん。どれも地元の畑で採れたもんでね、素朴だけど味は間違いないよ〜。」
「わあ!彩りが、綺麗ですぅ~!」、かすみが、目を輝かせる。
「れんこんが、シャキシャキして、美味いべ!」、じんたが、箸を進める。
「金時草、初めて、食べたけぇ、独特の風味じゃな」、ゆうこが、興味津々だ。
二品目:椀物「能登ふぐとれんこんのすまし」
「お次はお汁ね。能登のふぐ、今がちょうど脂のってて美味しいんよ。加賀れんこんも入れて、ちょっと“はす蒸し”みたいにしてあるよ。出汁は薄めだけど、旨味しっかり出とるけぇ、あったまっていき〜。」
「ふぐか!贅沢だな!」、龍也が、そう言うと、レンも、静かに、頷く。
「身体に、染み渡る、優しい味じゃのう」、ゆうこが、感動する。
三品目:焼き物「のどぐろの塩焼き」
「これね〜、金沢じゃちょっとしたごちそう。のどぐろ!能登の藻塩でシンプルに焼いてあるだけなんやけど、これが一番うまいんよ。皮がパリッと、中はふわっと。すだちをキュッとしぼって食べてみて〜。」
「皮が、パリパリで、美味いべ!」、じんたが、皮まで、綺麗に、食べる。
「身が、とろけるようですぅ~!」、かすみが、感動の声を上げる。
「これは、酒が、進むな」、シンジが、ぽつりと、呟く。
四品目:食事「れんこんご飯と味噌汁」
「〆はね、加賀れんこんを入れた炊き込みご飯。シャキシャキしてうまいよ。味噌汁は金沢の味噌使ってるから、ちょっと甘めかもしれんね。能登ねぎも入れて、香りよくしてあるんよ。はい、これで金沢の秋、まるごと召し上がって〜!」
「れんこんの、食感が、最高ですぅ~!」、かすみが、笑顔になる。
「甘めの、味噌汁も、ええのう」、ゆうこが、満足げだ。
最後におばちゃんのひとこと
「うちは おしゃれな店じゃないけど、ぜ〜んぶ、地元のもんで作っとるけぇ、金沢の味そのまんまやよ。お腹も心も、ぽかぽかになってってね〜。」
その、おばちゃんの、温かい言葉に、皆、心から、感謝した。
皆、歓喜しながら、料理を絶賛し、感想を、述べ合う。
「おばちゃん!ビール、追加だべ!」
じんたの、その一言で、宴は、本格的に、始まってしまった。
「富山の、勝利と、かすみの、勝利に……」
龍也の、音頭で、グラスが、掲げられる。
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
龍也の隣で、料理を運んでいた、おばちゃんに、ゆうこが、声をかけた。
「……おばちゃんも、一緒に、飲まんかいのう!」
「あら、いいのかい!」
おばちゃんは、にこやかに、そう言うと、自分の、グラスに、ビールを注いだ。
「じゃあ、おらが、手品、見せてやるべ!」
じんたが、得意の、コインマジックを、披露し始めた。
指先から、コインが、消えたり、現れたりするたびに、おばちゃんや、周りの客から、歓声が上がる。
かすみも、それに合わせて、光のイリュージョンを、演出。幻想的な光が、店内に、広がる。
その、あまりの、美しさに、客たちは、魅了されている。
しかし、酒が進むにつれて、宴は、徐々にカオスな、様相を、呈し始めた。
じんたの、手品は、いつしか、お客の財布を、いつの間にか、抜き取るという、シーフの真髄を、見せる、変化していた。もちろん、すぐに元に、戻してやるのだが。
「きゃー!お兄ちゃん、すごい!」
「……お前、それは、やめとけ!」
龍也が、慌てて、制止する。
ゆうこは、他のテーブルを、渡り歩き、酒を酌み交わし、飲みまくっていた。
「ほれ、あんたも、飲まんかい!……まだ、若いんじゃから、もっと、飲んで身体を、鍛えんかい!」
その豪快な、勧め方に、客たちは、たじたじだ。
シンジは、黙々と酒を、飲んでいたが、いつの間にか、店の、力自慢の客と、腕相撲を、始めていた。
「うおぉぉぉ!強い!強いぞ、あんた!」
シンジの、あまりの、力強さに、客たちは、驚愕の声を、上げる。
レンは、シンジの、姿を見て、静かに、しかし、熱く瞳を、輝かせている。
おばちゃんも、酒が進むにつれて、ヒートアップ。
「それじゃあ、うちも、歌っちゃうかい!」
そう言うと、彼女は、カラオケマイクを掴み、地元の民謡を、熱唱し始めた。
その力強い、歌声に、客たちは、手拍子を叩く。
かすみは、そんな、カオスな状況を、楽しそうに眺めながら、周りの、子供たちに、氷の花を、魔法で作り出して、見せている。
龍也は、そんな彼らを、見ながら、心の中で、そう思った。
(……本当に、賑やかな、仲間たちだな……)
夜は、更けていく。
金沢の、夜空には、満月が、輝いている。
酒と、料理と、音楽と、そして、人々の笑い声が、混じり合う、カオスな宴は、夜遅くまで、続いていくのだった。
買い出しに、やってきた。
皆も、それぞれの、目的の店へと、向かう。
食料は、十分買った。今回は、装備の、見直しだ。
皆を連れて、防具屋へと、足を向けた。
流石、金沢の商店街。中々、良さげな、品が、並んでいる。
まず、かすみ用の、ローブを、探していた。
ショーケースの中に、淡い、桜霞色の、ローブが、目に留まる。
「……これ、かすみに、似合いそうだな」
そう呟くと、店主が、その、ローブの、特徴を、説明し始めた。
それは、「《セレスティアル・ローブ》(Celestial Robe)」
上級魔法使い用装束で、元素魔法特化型だという。
淡い桜霞色を、基調に、裾や袖口には、銀糸で、星屑のような、刺繍が、施されている。
光に当たると、柔らかな、虹彩の薄膜が、浮かび上がる。
生地は、絹よりも、軽い、「風精繊」、風の精霊が、織り上げたという、幻の布。
軽く、ひらめくだけで、空気の流れを、変えるほどの、“魔導感応性”を持つ。
首元には、蒼白金製の留め具が、一つ。
そこには、精霊の紋章が、刻まれ、着る者の、魔力循環を、常に、最適化してくれるという。
「全体の印象は、まるで夜明けの空をまとうような“淡く、可憐で、気高い”装い、じゃよ」
性能は、元素(火・氷・雷・風・水・土)ダメージを、大幅軽減。
魔力循環効率+三十%、詠唱速度+十五%に、機動性も、軽量設計による、回避・移動速度上昇。
耐久性も、高温・凍結・帯電・腐食耐性を、同時に、保持する。
そして、特殊効果は、【元素同調】
受けた元素攻撃を、一時的に、吸収し、次の魔法威力に、転換(最大+四十%)する、というものだ。
呼吸が深くなり、集中力が増し、周囲の自然魔力の“流れ”が、可視化されるようになる、という、着用者への、副次効果まである。
魔力過負荷による精神疲労も、軽減する。
「古代の賢者『リュミエール』が、天上の光と風の精霊に願いを込めて織り上げたと伝わる。その伝承の通り、戦場でも舞踏のように軽やかに魔法を放つ姿から、いつしか“空の巫女の装束”とも呼ばれるようになった、逸品じゃよ」
「……かすみ、試着してみないか」
龍也が、そう、言うと、かすみは、「はい!」と、元気よく、返事をした。
彼女が、そのローブを、身につけると、その可憐な、雰囲気が、より一層、引き立てられる。
「わあ……!すごく、綺麗ですぅ~!」
かすみが、その姿を、鏡で見て、目を輝かせている。
「似合ってるべ、かすみ!」
じんたが、感嘆の声を上げる。それを、購入した。
次に、ゆうこに、合う、ローブを探す。
彼の目に、留まったのは、深い漆黒紫の、ローブだった。
「……ふむ……いいな」
龍也が、そう呟くと、店主が、そのローブの特徴を、説明し始めた。
それは、「《ノクティア・ローブ》(Noctia Robe)」
上級賢者専用ローブで、元素魔法防護・精神強化型だという。
深い、漆黒紫を、基調に、胸元には、月光を、模した、銀糸の、刺繍が一輪。
それは、花にも、紋章にも、見える、抽象模様で、見る者によって、意味が、変わるという。
生地は、「月織布」、夜にしか、紡げない繊維で、触れると、ひんやりとしながらも、着た者の、体温に合わせて、自然に、馴染む。
袖は、やや長めで、手首を、隠す形。
立ち姿は、落ち着きと、威厳を、漂わせ、歩くたびに、裾が静かに揺れ、まるで、夜の水面が、揺らめくように光を反射する。
性能は、元素ダメージ軽減(特に雷・炎・氷系に強い)
魔力漏出を抑制、暴発率マイナス九十パーセントに、集中・詠唱・記憶操作系の、成功率上昇。
軽量で、動きを、制限しない。
そして、特殊効果は、【元素律動】周囲の自然魔力を、整流化し、詠唱中の、魔力干渉を、受けない、
【魅惑香】着用者の、体温上昇時、微弱な、精神誘導ホルモンを放つ。
効果対象は“着用者が、心惹かれた相手”に限り、他者には、全く感知不能、というものだ。
「なんだべ、この効果は、たつや以外、全く関係なかっぺよ」
じんたの言う通りである。
魔力の流れが極めて滑らかになり、長時間の詠唱でも疲れにくい。
感情と魔力の同調が強化され、詩的な呪文や精神共鳴系の魔法が強化。
着ると自然に背筋が伸び、思考が研ぎ澄まされる感覚を覚える。
「古代の“月の書院”に仕えていた女賢者、ノクティア・ルミナが愛用した装束。彼女は戦場で剣を振るうよりも、ただ静かに言葉を放ち、敵軍の心を鎮めたという。その力の秘密は、『智慧と静寂、そしてほんの少しの艶』を織り込んだこのローブにあったと伝わる。夜が明けても、その美しさと魔力は褪せぬ。それが“ノクティア”の名の由来じゃよ」
「……ゆうこ、試着してみないか」
龍也が、そう、言うと、ゆうこは、
「なんじゃ、わしに、こんな、気取ったもんが、似合うとでも、思っとるんか」
と、言いながらも、その、ローブを、手に取った。
彼女が、そのローブを、身につけると、その、豪快な、雰囲気の中に、どこか、神秘的な、威厳が、加わった。
「……お、おお……!……なんか、ゆうこが、賢者みたいだべ!」
じんたが、感嘆の声を、上げる。
ゆうこも、鏡に映る、自分の姿を、じっと、見つめていた。
その顔は、少しだけ、照れくさそうだが、その瞳には、確かな光が、宿っていた。
龍也は、それらを、購入した。
こうして、一行は、新たな、装備を、手に入れ、意気揚々と、店を、後にした。
金沢での、補給は、順調に進んでいた。
部屋に帰り、明日の準備も終わり、一行は、再び、温泉へと、向かった。
名湯「兼七温泉」で、ゆったり、のんびり、湯につかる。
そして、夕食は、街の、食堂へ。
金沢カレーが、名物だという、店を見つけ、入ることにした。
テーブルに、運ばれてきた、金沢カレーは、まさに、その、名に、ふさわしい、一品だった。
ステンレス製の、舟皿に、盛り付けられた、ご飯は、濃厚で、ドロッとした、カレールーで、覆い尽くされている。その、上には、分厚い、トンカツが、鎮座し、ソースが、かかっている。
付け合わせには、千切りキャベツが、添えられていた。
食べるのは、先割れスプーンか、フォーク。
「……これが、金沢カレーか!」レンは、目を、輝かせ、スプーンを、手に取る。
「……んめえ!……濃厚だべ!……この、カツと、カレーが、最高に、合うべ!」
じんたは、夢中で、カレーを、かきこむ。
かすみも、一口、食べてみた。
「……美味しいです!……濃厚なのに、しつこくなくて、ご飯が、進みます!」
彼女も、その、美味しさに、魅了されたのか、スプーンを、止めることなく、食べ続けている。
シンジは、黙々と、カレーを、平らげている。
彼の顔は、カレーの辛さで、少し赤くなっているが、その、表情は、満足げだ。
(……この、トンカツの、サクサクとした、食感と、カレーの、濃厚さが、絶妙だな)
龍也も、その、金沢カレーを、堪能していた。
(……1955年頃の、『レストランニューハナワ』が、源流の一つ、という説が、あったな……)
遠い、記憶が、蘇る。
皆、金沢カレーの、美味しさに、大満足。
金沢での、最後の夜。
彼らの、旅は、着実に、広島へと、近づいている。
金沢の、夜は、温かい、カレーの、香りの中に、静かに、更けていくのだった。
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
物語をお楽しみいただけましたら、
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これからも、龍也たちの奮闘を、どうぞごゆっくりご覧ください。
※次回の更新は、毎週【水・日曜 21:30ごろ】を予定しております。




