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五十五のおっさんが、退職して在宅勤務しようと思ったら、勇者になっちゃうかもしれないストーリー  作者: 司馬 雅


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第百七十四話 広島道中記 ー 闇の支配 その四 ー

挿絵(By みてみん)


【お知らせ】

これからの更新は、毎週 水・日曜の夜21時半ごろ に投稿予定です。

おっさんたちのドタバタ冒険、ぜひお風呂上がりのお供にどうぞ!

 翌日。

 各々、職場に行った。龍也は、食堂へと、向かった。

 彼の新たな、役割である、フードコーディネーターとしての、仕事が、始まる。

 厨房に立ち、献立の、打ち合わせや、仕込みを行う。


 ゆうこは、朝から、「ゆうこ先生の相談窓口」へと、出勤だ。

 医者としての診察。そして人生相談。

 今日も多くの、人々が彼女の、助けを求めて、やってくるだろう。


 そして、残りの、じんた、かすみ、シンジ、レンの四人も、街の復興作業へと、向かった。

 まさか、富山の街で、こんなにも、忙しくなるとは、誰も思わなかった。


 じんたは、その手先の器用さを、買われ街の、「鍵救急」に、スカウトされた。

 鍵の修理や、開錠、扉の修理など、臨時で、雇われている。

「……じんたさん!助かったよ!」

「へへっ。……お任せ、だべ!」

 じんたは、得意げに、作業を、こなす。


 かすみは、魔法使いとしての、能力を活かし、建設業の、現場へ。

 付与魔法で、重い資材を、浮かせて、運んだり、氷魔法で、冷たいおしぼりを、作ったりと、その可愛らしい、魔法は、作業員たちから、大人気だ。

「かすみちゃん!今日も、可愛いねえ!」

「きゃあ!……ありがとうございますぅ~!」

 彼女は、建設業の、「マスコットキャラ兼従業員」として、臨時で雇われた。


 シンジとレンは、その、鍛え上げられた、肉体と、戦闘経験を、買われ、街の、「レスキュー隊」に、臨時で、配属された。

 瓦礫の撤去。遭難者の救助。魔物の襲撃に、備えての警備。

「……シンジさん!レンさん!頼みます!」

「……承知」「はい!」

 二人は、黙々と任務を、こなしていく。


 なぜか一行は、街に深く、溶け込み、人々から愛され、慕われていた。

 特に、ゆうこは、その、人並み外れた、コミュニケーション能力で、街の人々と、あっという間に、打ち解けていた。


 そうして、富山の街での、多忙な、日々が、二、三日、過ぎた昼下がり。

 街の中心部の広場で、事件は、再び起こった。


「感じる、来るぞ、レン!」、シンジが叫んだ。

 空が、ぐにゃりと、歪み始めた、その瞬間。

 レンは、言われたと同時に、自分も感じていた為、すでに走っていた。


 周りの異変に、気付いた龍也も、厨房から、飛び出し、ヤリを、構える。

 街の、あちこちに、点在していた、仲間たちが、一斉に、集結できた。


 龍也が、広場に、駆けつけた、頃には、すでに、シンジと、レンが、現れた、魔物に、切りかかっていた。

 かすみが、咄嗟に、「ルーセント!」を、放つ。

 その、光の波動が、皆を、包み込み、魔物の、幻覚や、精神攻撃から、守る。

 二人の、攻撃は、早く的確だった、彼らは、足を、切り落とし、傷を負わしてた。


 驚いたのは、エンブリオの方だった、現れたと同時に、斬られ、刻まれた、咄嗟に回避すべく、空間を、歪ませ、逃げようとするが、じんたが、その、隙を、見逃さなかった。

 彼は、影から、飛び出し、エンブリオの背中に、妖刀雪定を、深々と、突き刺す。


「……ゆうこ!今だべ!」

 じんたが、叫ぶと、その、瞬間。


「フルグル!!」

 ゆうこの、極大の、雷撃が、エンブリオに容赦なく、叩き込まれる。

 悲鳴を、上げたのと、同時に、空間に、吸い込まれていった。


 龍也は、その、あまりの、速さに、ただ、呆然と、眺めているしかなかった。

 被害は、最小限に、抑えられた。


 そして、残されたエンブリオの足が、ジタバタ、動いてるのを、レンが、斬龍剣を、突き立て、逃げられないように、していた。


「……動いている、ってことは、死んでねえってことだんべ」

 じんたが、呟く。

「……まあ、そうですね」


「……ちょっと、あゆみちゃん!サンプル、採っといてぇや!」

 ゆうこが、看護師に、声をかける。

 そして、「……もう、いいじゃろう」と、ゆうこが、合図を出すと、レンが、斬龍剣を、抜いた。


 その、瞬間、足が、空間に消えた。


「……あっ!おらの、雪定ゆきさだ、持ってかれだぁ!うぅ……おらの、愛刀がぁ……」

 じんたが、嘆いた。彼の、手の中には、妖刀雪定の、鞘だけが、残されていた。


 ようやく、落ち着いて、周りを見たら、そこには、大勢の街の人が、集まっていた。

 そして、彼らは、一斉に、「うわ〜!」と、大歓声を上げ、ゆうこたちを、称えた。


 もう、皆、富山の街の、英雄になっていた。龍也以外は。

 彼は、喧騒の中で、、そして、自分の、心の中の、安堵のため息を、聞いていた。


 数日後。

 富山の街は、平和を取り戻し、復興作業も、順調に、進んでいた。

 ゆうこたちは、広場で、街の長から、感謝状と共に、表彰された。

 街の人々は、彼らを、英雄と呼び、その活躍を、称えた。


 そして、皆は街の、「レンジャー部隊」の、マスコットキャラクター兼レンジャーへと、任命された。

 じんたが、なぜか、キャラクターデザインを、受け持ち、いつの間にか、彼のデザインした、グッズが、街で、売られていた。

 驚いたのは、いつ、嗅ぎ付けたのか、梅ホールディングスが、その、スポンサーに、なっていたことだ。


 龍也は、その、賑やかな、輪の外に、いたが、それで、よかった。

 目立ちたくはない。


(……あれで、終わったとは、思えない。……いつ、また、やってくるか、分からない。……精神支配。……恐るべし、魔法だ。……今回は、最小限で済んだが、今度こそ……)

 龍也は、心の中で、深く、息を、吐いた。


「ふ〜」「おわっ!

 突然、耳元に、息を、吹きかけられ、龍也は、飛び跳ねた。

 ゆうこだった。彼女は、龍也の、隣に、ぴったりと寄り添い、にやり、と、笑っている。


「……何、念仏、唱えとんじゃ」

「……いや。死んだら、ほっぺに、愛をくれ、いつか、死ぬ」


「……何、分からんこと、言いよんじゃ。……終わったぞい」

「ああ。……お疲れさん」


「……タツヤも、出れば、ええに。……一人だけは、寂しゅうないんか?」

「いや、気楽で、いい。……目立つのは、あまり、好きじゃないからな」


「ほう。……でも、もう、十分、目立ってるけどな」


 龍也が、周りを見た。大勢の人が、取り囲んでいた。

 今や、富山の英雄。しかも、街の長と、肩を並べて酒を、酌み交わすほどの、マブダチである、

 ゆうこに、腕を回され、幸せそうな、顔で話している、おっさん。


「……あの、おっさん、誰だ!?」

「……あの、ゆうこ先生の、隣にいる、男は……!?」


 たちまち、メディアが、龍也を、取り囲んだ。

 質問攻め。写真撮影。報道番組の取材。

 記者たちが、殺到し、フラッシュが、龍也の顔を、容赦なく、照らし出す。

 龍也は、その、あまりの、状況に、ただ、呆然と、立ち尽くすしかなかった。

 富山の、街の、平和の、代償は、彼の、平穏な、日常だった。


 翌日。

 富山の、ローカル紙の、一面には、龍也の、写真が、大きく、載っていた。

『謎の男、一夜にして、街の英雄、ゆうこ先生の、マブダチ!?』

 メディアも、龍也の、話題で、持ち切りだ。


 彼の店、には、客以外にも、マスコミが、殺到する。

 龍也は、困り果て、店に、独自の、ルールを、設けた。

「一人、三品頼めば、中に入れ。五品頼んだら、質問一つ。八品で、写真一枚」

 その、あまりにも、斬新な、ルールに、マスコミは、戸惑いながらも、それに、従った。

 その日の、売り上げは、通常の、五倍になった。

 しかし、龍也は、「これ以上、店に、迷惑は、掛けられない」と、その日で、フードコーディネーターの、仕事を、辞めた。


 翌日になっても、マスコミの、騒ぎは、収まらない。

 龍也は、皆と相談し、記者会見を、開くことにした。

 会場は、街の広場。

 龍也と、ゆうこが、並んで、立つ、その姿は、まるで、結婚記者会見のようだった。


「……本日、お越しくださいまして、ありがとうございます。……この会見が、終わりましたら、もう、我々に、構わないと、約束してください」

 龍也は、そう、切り出すと、周囲を、見回した。


「……隣にいます、ゆうこさんは、私にとって、命より、大事な人です。……なので、誰にも、譲りません」

 その、突然の告白に、会場がざわめく。ゆうこは、顔を、真っ赤にしている。


「……話は、変わるのですが。……皆さんが、今、この、のほほんとした、会見を、している間にも、魔物は、存在します。……私たちは、まだ、魔物を、倒した、わけではありません。……また、いつ、奴らが、襲って来るか、分かりません」

 龍也の、声が広場に、響き渡る。

「……私なんかに、構っているより、自分の身を、案じてください。……以上です」


 その、会見は街に、大きな、パニックを、引き起こした。

 後日、龍也は、街の、ヒーローから、一転、悪者になった。

 新聞の、一面には、龍也を、バッシングする、記事が、踊り、メディアも、酷かった。

「『ヒーロー、暴言』『住民を、パニックに陥れる』」


 しかし、その翌日。事態は、もっと、深刻になった。

 街の人々が、シンジを、罵り、攻め立てていたのだ。

「……あんたが、ちゃんと、魔物を、倒さないから、また、出てくるんだろうが!」

 その、あまりにも、理不尽な、言葉に、シンジは、黙って、その場に、立ち尽くしている。


 流石に、この、件は、黙ってられなかった、とうとう、ゆうこが、表に出た。

 ローカルメディアで、生放送して、訴えた。


「……あんたら、ようもうちの、大事な、仲間に、牙、むいてくれたね、そこまで、ひどい態度、取るんなら、もう、勝手に、しんさい。……うちらは、次の、旅に、出るけぇ……以上じゃ」


 彼女は、マイクを、手に、ローカルメディアの、生放送で、訴えていた。


 その、言葉に、街中が、狼狽えた。


 どの世界も、当事者以外は、無責任。いざ、自分の身に、降りかかって来てから、狼狽える。

 メディアは、一斉に、謝罪し始め、宿の周りも、彼らを、懇願する人で、溢れかえった。


「……アホらしいな、こん人らは。……踊らされ、自分、という物が、ないんかい」

 ゆうこが、そう、呟くと、龍也が、優しく、語りかけた。


「……そう言うな。……皆、不安なんだよ。……助けてくれる人は、正義。警告、忠告する人は、悪。……他力本願なんだよ」

「……あんたが、攻められてんじゃのに、呑気じゃな、ほんま」


「……嫌いになったか?」

「アホ。……なっとったら、メディアに、出るかい」と、笑った。


「……しかし、どう、収めるかな?」

 龍也が、困ったように、呟いた、その時。

「いっそ、魔法で、記憶、なくしましょうかぁ〜?」、かすみが、そう、言った。

「……かすみ。……そんただこと、できんだか?」


「……出来ないですぅ〜。……でも、何か、しますぅ〜?」

「いや、かすみ。……そうしちゃうと、な。……俺らが、ゼノスと、同じになっちゃうんだよな。……止めておこうかな」


「……困ったな」

 龍也が、そう、呟いた、その時だった。

 街の、広場で、レンジャー隊の隊長、鍵の救急、あゆみ、食堂のシェフが、街の長と、共に、会見を、開いていた。


「……彼らは、何も、悪くない。……皆さん、分かっているでしょう?」

「……彼らが、助けてくれなきゃ、今、こうして、いられたのですか?」

 彼らの、真摯な訴えは、人々の、心に届いた。

 会見の、おかげで、ようやく、街は、落ち着きを、取り戻した。


 龍也たちが、会場に、駆けつけ、彼らと、硬い握手をかわし、この騒動は、ようやく、終結した。

 英雄は、いつも影にいる。そして、その英雄を、支える、真の英雄が、いる。

 富山の、街は、改めて、そのことを、知ったのだった。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


物語をお楽しみいただけましたら、

ブックマークや★評価で応援いただけると大変嬉しく存じます。


これからも、龍也たちの奮闘を、どうぞごゆっくりご覧ください。


※次回の更新は、毎週【水・日曜 21:30ごろ】を予定しております。

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