表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/123

第十六話 それぞれの約束、そして旅立ち

   出発の準備は、着々と進んでいた。新宿で揃えられる装備を買い込み、薬や食料も十分に蓄えた。

 あとは、シンジの心の準備が整うのを待つだけだった。

 旅立ちを二日後に控えた、ある日の昼下がり。シンジは、なつみを喫茶店に呼び出していた。


「出発する前に、ちゃんとなつみさんと、話をしておきたいんだ」

 シンジの真剣な眼差しに、なつみは不安そうな顔で、ただ黙って頷いた。


 シンジは、自分の正直な気持ちを、一つ一つ、丁寧に言葉にした。

 まだ、亡き恋人である結子のことを、完全に吹っ切れたわけではないこと。

 しかし、間違いなく、なつみに対して、新たな気持ちが芽生え始めていること。


「だけど、すぐには、何も答えは出せない。これから始まる旅は、何年かかるか、分からないから……」シンジは、なつみの目をまっすぐに見つめた。


「だから、待たなくてもいい。でも……もし、待っていてくれるなら、俺は、必ず、この場所に帰ってくる」

 その言葉を聞いた、なつみの顔に、ぱあっと喜びの光が差した。


「……待ちます。私、いつまでも、シンジさんのことを、待ってますから」

「……ありがとう」これで、心の準備はできた。

 シンジは、仲間たちが待つ場所へと、迷いのない足取りで向かった。そして、旅立ちの朝。


 新宿の巨大な門の前には、龍也、じんた、ヨウコ、シンジの四人が、全ての準備を整え、並び立っていた。

 その後ろには、彼らを見送るために、多くの仲間たちが集まってくれていた。

 ローズ、リリィ、バイオレットをはじめとするオネエ様たちは、皆、化粧が崩れるのも構わずに、号泣している。


「死なないで帰ってくるのよぉ!」

 ミミィは、愛弟子であるヨウコに向かって、


「あんたが足を引っ張るんじゃないわよ!」

 と、いつもの調子で、しかし、その目には確かな愛情を浮かべて、声援を送っていた。


 そして、ママは、シンジの肩を強く抱きしめた。

「あんたなら、大丈夫。行ってらっしゃい」


「「「「行ってきます!!」」」」


 四人の声が、新宿の空に響き渡る。

 仲間たちの声援を背に受け、一行は、まだ見ぬ次のステージへと、力強く歩き出した。


 その姿が、遠く、小さくなっていくのを、ママは、いつまでも見送っていた。

 そして、一行の姿が完全に見えなくなった頃、彼女は、隣で静かに涙ぐんでいたなつみに、ふと尋ねた。


「で、あなた。これから、どうするの?」

「……待ちます。彼が、帰ってくるのを」

「そう。あなた、何か仕事はしてるの?」

「いえ、今は無職です。シンジさんのお嫁さんになるつもりで、会社、辞めちゃいました」

 その、あまりにも大胆な答えに、ママは一瞬、呆気に取られた。


 しかし、次の瞬間、彼女は、からからと笑い出した。


「あなた、なかなか強引で、面白い子ね!気に入ったわ!」

 ママは、なつみの肩を、バンと叩いた。


「よかったら、うちで働かない?料理、できる?」

「はい、得意です!」

「じゃあ、決まりね。未来の旦那様のために、嫁入り修行がてら、うちの厨房で腕を振るいなさいな!」


 こうして、新たなるパーティが旅立った後のバー『HEAVEN』には、未来の花嫁という、新たな看板娘が、誕生することになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ