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第十三話 新たな旅立ち

 最終試験を乗り越え、龍也とじんたは、名実共についに本格的な討伐者としての第一歩を踏み出した。次なる目標は、再びあの夢の都『新宿』へ戻り、そこを拠点として、さらに先のエリアを目指すことだ。


 だが、その長い旅立ちの前に、龍也には一つだけ、気がかりがあった。

 それは、現実世界の家庭の様子を、もう一度だけ見ておきたかった。


 休憩所の隅にある、あの古びた電話ボックスのような転送装置に三十円を投入する。

 視界が白く染まり、次の瞬間、彼は見慣れた自室のパソコンの前に座っていた。


 リビングへ向かうと、妻がソファに寝転がり、スマホをいじりながらワイドショーを眺めている。

 テレビの中では、どうでもいい芸能人のゴシップや、グルメ特集ばかりが垂れ流されていた。

 本当に国民が知るべき政治の重要な決定事項や、少しでも未来に希望が持てるようなニュースは、一切流れてこない。


「この国は、国民を安心させたり、国を良くしたりする気はねえのかね……」

 龍也は、誰に言うでもなく、そう小さく嘆いた。


 家の様子は、何も変わっていなかた。妻は、龍也が部屋から出てきても、ちらりと一瞥するだけ。 

 最近は、中間空間からの給料が安定して振り込まれているためか、以前のように金の無心をされることもなくなった。

 ただ、そこにいるだけの空気のような存在。変わらない日常、変わらない無関心。

 だが、その「変わらなさ」が、今の龍也にとっては、不思議な安心感を与えてくれた。

 ここには、もう自分の居場所はない。だが、壊れてもいない。ならば、それでいい。


 彼は誰に声をかけるでもなく、再び自室に戻ると、迷いなく、クリックした。


 休憩所に戻った龍也は、出発の挨拶をするために、梅ばあさんの元を訪れた。

 すると、ばあさんは何やら怪しげな色の液体が入ったフラスコを振りながら、上機嫌で龍也を迎えた。


「おお、龍さんかい。いいところに来たねえ。あんたたちが、あの洞窟で見つけてきた薬草、とんでもない代物だったよ」

 ばあさんの話によると、あの不思議な模様の薬草は、強力な「しびれ薬」の原料になることが分かったという。

 しかも、敵を痺れさせる「発動」タイプと、その痺れを治す「治癒」タイプの、二種類の薬を精製できるらしい。


「今、これを培養して、安定して栽培できるように研究してるところさね。これができれば、うちの薬局も、また一つ看板商品が増えるわい」

 フラスコを振りながら、かかかと笑う梅ばあさん。


(……このばあさん、一体何者なんだ?)

 ただの物知りな老婆だと思っていたが、その知識と探究心は、明らかに常人のそれではない。

 ふと、そんな疑問が頭をよぎったが、すぐに首を振った。

 まあいいか。深く考えても、どうせろくなことにはならないだろう。


 彼は、世話になった老婆に深々と頭を下げると、新たな旅への決意を胸に、じんたが待つ休憩所へと戻るのだった。


 いよいよって時に漠然と疑問が沸き起こった。

(そういえば、この先、討伐した情報はどうしたらいいんだ?、収入の申告は?家にはここまで来ないとダメなのか?)

 ここに帰って来ない事を考えた。


 聞いてみようと社員を探す。辺りを見てもそれらしいのはやはり居なかった。

 新人でも入らないと基本はいないのか?

 始まりの小屋に行ってみた、また、電話で確認するしかないみたいだ。


(はい、NSU転送課です、どうしました?)

「あの〜真田と申しますが、社員の方ってこちらにはあまり来ないのですか?」


(はい、新人さんにご案内する以外は基本そちらには常駐していません、緊急の場合は即座に救急隊が向かいますが、その場合は内線九番でお願いいたします)


「あ、そうなんですね、それでは、ちょっと聞きたいんですけど」

(はい)


「今後、よその街に行った場合、情報はどのように会社に報告したらいですか?」

(はい、本社に報告の件ですね、お使いのタブレットに今まではNマークのアプリで送って頂いてたのですが、当社のマークのアプリがありまして、日の丸にSとなってる…はい、それです、そちら立ち上げて頂き、街の名前を入力して頂くとそのエリアの電波塔から送信頂けます)


「なるほど〜、なんで初めに教えてくれないんですか?気付いたから良かったけど」

(はい、最初から説明しても、かなりの方がすぐ辞めてしまう為、働き方改革で、社員の負担軽減の為に省いております)

『こんなとこまで、働き方改革って』


「あ、それと、収入に対しての税制申請してるのですがそれって、どうしたら良いのでしょうか?」

(それはちょっと、当社では分からないですけど)


「ですよ、ね〜…、分かりました、ありがとうございます」

 電話を切って、息を吐いた

「ふ〜、経費の事は関係なかったか」


 何処に聞けばいいんだろう?


 いよいよ、新宿への旅立ちの日が来た。

 龍也とじんたは、旅支度を整え、世話になった所沢の仲間たち一人一人に、挨拶をして回った。


 ゴードンは、「フン、死ぬなよ。貴様らの筋肉が、より成長して戻ってくるのを、俺の筋肉が待っているぞ」と、彼なりの最大限のエールを送ってくれた。

 エミリは、「どうせまた、すぐに怪我をして泣きついてくんだろうけど、ベッドだけは空けてやるから、せいぜい無様に戦ってきな」と、最後まで辛辣だった。


 梅ばあさんは、餞別として、万能薬といつものあの不味い健康茶を、たんまりと持たせてくれた。


 そして、師匠である哲は


「いつか、実家に帰ったら親父さんによろしく言っておくれ」

 じんたの肩を一度だけ、力強く叩いた。

 じんたは、涙ぐみながら、何度も何度も頭を下げた。


「哲さん、ちょっと聞きたいんですけど、税の申請ってほかの街でも出来たりするのですか?」

「ああ、出来る、この世界は管轄なんてのは無いから、どこの街にも月末三日間、職員が来おる、着いた先に門番にでも聞いてみろ」

「なるほど〜、ありがとうございます、いろいろ本当にありがとうございました!」

「達者でな!」

 多くの仲間たちに見送られ、二人は所沢の門を後にした。

 再び始まる、二日間の旅路。しかし、以前とは全く違っていた。

 二人の連携は完璧で、道中の魔物など、もはや敵ではなかった。


 だが、奇妙な感じがした。明らかに、魔物の数が少ないのだ。

 以前は、ひっきりなしに襲いかかってきたゴブリンやコウモリの姿もまばらで、あの強敵だった魔物に至っては、一度も姿を見せなかった。


「なんだか、拍子抜けだな。みんないなくなっちまったのか?」

「そうみたいだべな」

 二人は、特に警戒することもなく、順調に道を進んでいった。

 そして、もうそろそろ新宿の門が見えてくる、というあたりまで来た、その時だった。


 前方の森の中から、一体のゴブリンが、凄まじい勢いでこちらに向かって「飛ばされて」きたのだ。

 ゴブリンは、龍也たちの足元で数回バウンドすると、そのままピクリとも動かなくなり、絶命した。


 何事かと、二人が森の奥を警戒する。

 すると、木々の間から、聞き覚えのある、姦しい声が聞こえてきた。


「あらヤダ!こんなところに、まだいたの!しつこい男は嫌われるわよ!」

 ガサガサと茂みをかき分けて姿を現したのは、ローズ、リリィ、バイオレットの、あの屈強なるオネエ様たちだった。

 どうやら、『所沢』での滞在を終え、『新宿』へ帰る途中だったらしい。


「あ……」

 龍也とじんたは、顔を見合わせた。そして、全てを納得した。

 道中の敵が、異常に少なかった理由。それは、この三台の人間ラッセル車が、少し先を歩き、行く手を阻む魔物たちを、根こそぎ薙ぎ払ってくれていたからなのだ。

 間接的に、しかし、絶大な恩恵を受けていたことに、二人はようやく気づいた。


「あら、タツヤんに、じんたんじゃないの。奇遇ねえ」

「お、お久しぶりです……」

 こうして、図らずも再び合流した一行は、五人揃って、夢の都『新宿』の門を、共にくぐるのだった。

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