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第一一八話 師と王の剣、失われた槍

 柏崎から、結構、歩いた。しかし未だ、燕三条の、街は見えない。

 だんだんと、日が暮れ始め、あたりが、薄暗くなっていく。

 その、不気味な、夕暮れに、じんたと、ゆうこは、戦慄した。


「……何かいるべ……」

 じんたが、震える声で、呟いた。

 その言葉を、裏付けるように、地面が、わずかに、揺れる。


 地面から、大きな、土塊が、盛り上がり、その中から、数体の魔物が、姿を現した。

 その名は「カラキ」。

 朽ちた甲羅を、纏ったかのように、体表が石や、錆びた鉄のように、硬化している。

 四肢は、太く重々しい、ゾンビだ。

 その、鈍重な動きとは、裏腹に、一撃の、破壊力は、計り知れない。


「来るぞ!」警告を発し、鈎を、構える。

 カラキは、その、太い腕を、振り上げ、突進してきた。


 胴体を、振り回す、その攻撃。近接の、複数を、吹き飛ばす、威力だ。

 シンジが、その、攻撃を受け止めるが、カラキの、甲羅は、鉄のように硬い。

 鈎が、弾かれる。通常の、攻撃では、ほとんど、ダメージが、通らない。


「かすみ!海水を、奴に、ぶっかけろ!」

 龍也の、指示が、飛ぶ。

 かすみは、杖を構え「アクアショット」を、放った。

 青い水の弾が、カラキに命中し、その全身を、濡らしていく。

 水に濡れた、カラキの、甲羅がわずかに、鈍い光を、放つ。


「今だ!レン!」

 レンは、その言葉に、迷いなく、前に出る。

 彼の、腰には「破城剣」と「斬龍剣」が、帯びられている。

 破城剣を、大きく後ろへ、振りかぶり、地面を蹴り込んで、一気に、叩きつけた。


裂滅双斬れつめつそうざん!」

 凄まじい、衝撃がカラキの、甲羅に、叩き込まれる。

 その、衝撃で、カラキの硬い、甲羅の、表面に、ヒビが入る。

 そして、間髪入れずに、レンは、鞘から斬龍剣を、抜き放つと、素早くその、ヒビの入った、部位へ横断するように、切り裂いた。

 風を切る、鋭い音が、二本分の、残像を、描く。


 グギャアアア!

 カラキは、断末魔の悲鳴を、上げた。

 その、岩のような、硬い、甲羅が、内側から、崩壊していく。

 そこへ、シンジの、「双牙」が、追撃する。

 そして、ゆうこの「ヴォルト」と、かすみの「アルドゥル」が、トドメとばかりに、集中砲火を、浴びせる。


 カラキは、その場で、大きく揺らし、やがてどさりと、地面に、崩れ落ちた。

 その、堅牢な身体は、もう、動かない。


「……やった……!やったぞ!」

 レンが、斬龍剣を、鞘に納め、破城剣を、握りしめながら、叫んだ。

 その、あまりにも、圧倒的な、新技。

 それは、彼の剣への、新たな、可能性を、切り拓いた、瞬間だった。


 一行は、息を、弾ませながら、互いの無事を、確認する。


「……レン!……完成したな!」

 シンジの、その言葉に、レンは、深く頷いた。


 燕三条の街は、もう目と鼻の先だ。

 じんたとゆうこが、猛ダッシュで門をくぐった。


 ようやく、燕三条の、門をくぐった、一行。

 しかし、到着したのは、すっかり、日が暮れた、夜だった。

 先に、たどり着いていた、ゆうこと、じんたは、門の前で、膝を抱え、半泣き状態になっている。


「……なんで、夜になる前に、着かんかったんじゃ!……わしら、めちゃ、怖かったぞ!」

 ゆうこが、龍也に、詰め寄る。


「そうだべ!あんな、カニゾンビなんて、見たこともねえべ!」

 じんたも、涙目で、訴える。


「……悪かった……ちょっと、出るの遅かったからな」

 龍也は、苦笑いするしかない。


 一行は、前回、シンジとレンが、泊まった、宿へと、向かった。

 宿の主人が、彼らを、温かく、迎えてくれた。


「おや、また、来てくれたんだね、兄さんたち……この街、気に入ってくれたかな」


 まずは、疲れと、汚れを、癒すために、風呂だ。

 熱い湯に、浸かり、身体の、芯まで、染み渡る。


 じんたは、湯船の中で、「カニゾンビ、怖かった……」と、ぶつぶつ、呟いている。

 風呂から上がり、夕飯を、済ませた一行は、そのまま、各自の、部屋へと、戻っていった。

 皆、疲労困憊だ。

 その夜は、ぐっすりと深い、眠りについた。


 深夜。

 宿の、一室から、そっと、抜け出した。

 街外れの、広い、空き地へと、向かう。

 そしてその、月明かりの下で、二つの剣を、抜き放った。破城剣と、斬龍剣。


 レンは、素振りを、始めた、刀身が風を切る、音だけで、周囲の空気が、震える。

 無人でないと、この風圧でさえ、切り裂いてしまうかもしれない。

 非常に、危険な、自主練だ。

 二つの剣を、巧みに使い、舞を、踊っているかのように、しなやかに、しかし、一刀、一刀が、鋭く強い。

「裂滅双斬!」

 彼は、その感覚を、忘れないため、そして、完成した、新技への興奮が、冷めないうちに、何度も、何度も、反復練習を、繰り返す。


 全身から、汗が、滝のように、流れ落ちる。

 ひたすら、戦いを、イメージしながら、剣の舞を、舞い続けた。


 その姿を、そっと、見つめる暖かい、まなざしが、少し離れた、月の照らされた、ベンチに腰掛けている。


「……精が、出るねえ」、そこにいたのは、ゆうこだった。

 レンを見て、そう呟くと、その少し、離れた、物陰を、顎で指した。

「……あそこにも、健気なのが、おるけどな」そこには、かすみが、レンの姿を、見つめている。


「……微笑ましいじゃないか」

「……歩くか……」

 そう言うと、こくりと、頷き、二人は、夜の街を、歩き始めた。


「……なあ、ゆうこ」「……なんじゃ」

「……お前、いい匂いが、するな」

「……な、なにを……ゆうとん……じゃ……朴念仁……」



 朝。

 日課を終え、市場が開くと、同時に龍也は、まず、包丁一式を、リペアに、頼んだ。

 そして、一行は、一点物の、武器や防具が、並ぶ、露店を物色し始めた。

 シンジも、レンも、今の武器に、満足している。

 特に、レンの、斬龍剣は、三上隊長から、託された想いが、込められた、宝物だ。


 龍也は、シーフである、じんたの、新たな武器を、探していた。


「店主。シーフが、使うような、いい、武器は、ないか?」

 龍也が、尋ねると、店主は、にやりと、笑った。


「……いいもの、あるぜ。……ちょっと、待ってな」

 そう言うと、店主は、店の奥から、一つの、短剣を、持ってきた。

 それは、漆黒の、刀身を持つ、短剣。その、刀身には、雪の結晶のような、文様が、刻まれている。


「こいつは『妖刀ようとう雪定ゆきさだ』だ」


 店主は、その、短剣の性能を、説明し始めた。

「……戦闘能力は、三連斬り(最大3回攻撃)……さらに『無音刃』命中した、相手に、沈黙効果を、付与する」

「……どうだ?じんた」

 龍也が、その、短剣を、じんたに、手渡した。

 じんたは、その、漆黒の短剣を、手に取り、その、冷たい感触を、確かめていた。

 彼の瞳には、新たな力への、期待と、そして、かすかな興奮が、宿っている。

 龍也は、そんな、じんたの姿を、微笑ましく、見つめていた。


 一行が、露店街を、一回りした、その時だった。

 一軒の、古びた、武器屋の、店主が、龍也の、手にした、古鉄の軽槍を、じっと、見つめていた。


「……旦那さん、それ、見せてくれ」

 店主は、ヤリを、手に取り、その、年季の、入った、刀身を、丁寧に、撫でる。


「……ほう。……このヤリ、年季は、入ってるが、いいヤリだな。……どうだ、俺に、リペアさせてくれないか?こんな、ヤリ、滅多にないから、磨いてやりたいんだ」

 その、店主の、熱意に、龍也は、心を、動かされた。


「……そこまで、言われるなら。……お願いします」


 昼めしを、食べ、宿に、戻った。

 じんたは、妖刀雪定を、綺麗に、磨いて、うれしそうだ。

 シンジも、自分の、眠鋼の曲牙と、隠刃・跳杭が、店に並んでいたものよりも、遥かに、良い品だと、実感し、念入りに、手入れをしている。


 そして、夕方。

 包丁を受け取りに、露店へ、向かった。

 包丁は受け取った、しかし、あの、ヤリを、頼んだ店が、どこにもない。

 似たような、店構えの、露店が、いくつも、並んでいるが、あの店とは、違う。

 くまなく探したが、やはり、あの店がない。

 横の店に、事情を聞いたら、露店は、日替わりだったり、何日かいたり、誰も、隣の店が、いつまで、居るかは、把握していない、と言われた。


 宿に帰り、龍也は、皆に、そのことを、話した。


「……ヤリが、盗られた……」

 その、言葉に皆が、驚いた。

 あの、古鉄の軽槍は、龍也にとって、最初の相棒。

 そして、多くの戦いを、共に乗り越えてきた、由緒正しい代物だ。


 ゆうこが、慰めてくれるが、その思い入れは、深い。


 夕飯を、食堂で、囲んでいても、龍也は、ほとんど、箸を、つけなかった。

 食欲が、わかない。


「……とりあえず、明日は、すぐ、隣の新潟に、行こう」

 シンジが、静かに、言った。


「……新しい武器も、買えるだろう」

 その、言葉に、龍也は力なく、頷いた。

 失われた相棒。その喪失感は、彼の心に、重く、のしかかっていた。

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