第一一七話 匠の心、若き戦士の悩み
------おしらせ INFORMATION -------
ここに来て、また、気付いてしまいました。
達也が現代の世界から、この中間空間に来たのですが。
他の方たちも、同じじゃないのか、という、疑問を抱いてしまい。
それを、認めてしまうと、今、向かっている、じんたの実家は、三〇円払って、帰ればいいじゃない か。
に、なってしまうし、哲の下りは、現代から来た設定になってるが、レンの両親はこっちに居た。
など、もう、収拾が付かなく、なってしまったので、この、魔法の言葉を使わせて頂きます。
この物語はフィクションです。登場する、人、魔物、状況設定は、全て空想です。
--------- 続けます ----------
お祭り騒ぎも終わり、港の静けさが戻った、暗くなりだした頃。
龍也は、バルコニーで、夜風にあたりながら、港を、見下ろしていた。
その隣で、シンジが、黙々と、鈎の手入れを、している。
修理したばかりだが、常に、手入れを怠らないのが、彼らしい。
「……シンジ……燕三条は、どうだった?」龍也が、尋ねる。
「ああ。……実に、いい職人が、何人もいたな」シンジの、声は、いつになく、穏やかだった。
「……それに、一丁物の、武器が、並んでて、安くはなかったが、いいのが、一杯あったな」
龍也は、その、言葉に、少し、残念そうな顔をした。
「そうか。……俺も、包丁、研ぎたかったな」
「……なら、行かないか?」シンジが、不意に、言った。
「……俺も、もう少し、あそこには、居たかったんだ。……ゆっくり、見たいしな」
「……それに、少し、先に、かなり、大きな街が、あると言っていたな」
シンジの、好奇のある言葉に、龍也は、驚いた。
「ああ。知っている。……地図を、穴が開くほど、見てるからな。『新潟』だ。規模は、浦和並かもしれん」
「燕三条は、宿は、あるのか?」龍也が、立て続けに聞いた。
「ああ。修理を、頼む人が、たくさん来るらしく、宿も、食べ物屋も、結構あったな」
龍也は、しばらく、考え込んだ。
「……そうか。……折角だし、そこ、寄って、新潟、行くか」
その夜、宿に戻り、龍也は、皆に燕三条への、進路変更を、話した。
もちろん、誰も、反対する者は、いない。
「やったー!」「おら、行きてえ!」「新しい武器、見たいです!」
皆、歓声を上げる。
「……よし……では明日、事務所に行って、この家を、返さなくてはな……それから、出発だ」
龍也の、言葉に、皆が、力強く、頷いた。
柏崎の、夜空には、満月が、輝いている。
翌朝。
一行は、まず、漁港組合事務所へと、向かった。
そこで、港の責任者に、今日、これから、出発する旨を、伝えた。
「……今回の、島の件では、大変、お世話になりました……本当に、ありがとうございました」
龍也が、深々と頭を、下げる。
「いやいや、何を、言うんだい……あんたたちのおかげで、この港も、島も、平和になったんだ……感謝するのは、こっちの方だよ」
港の責任者は、そう言うと、にこやかに、笑った。
そして、家の解約の、手続きをしようとすると、彼は、意外なことを、口にした。
「……あの家か……誰も、使ってねえから、あんたたちに、あげるよ」
「……え?」龍也は、思わず、聞き返した。
「いいんだ、いいんだ……あんたたちなら、きっと、有効活用してくれるだろう……また、この柏崎に、来た際の、拠点として、使ってくれ」
その、言葉に、心から感動した。
こうして、一行は、柏崎に来た際の、自分たちの、家を、手に入れたのだ。
それは、この街の人々からの、温かい、贈り物だった。
事務所を、後にし、一行は、港へと向かった。
港では、漁師の皆や、女将さんたちが、彼らを見送りに、集まってくれていた。
「……達者でな!」「また、いつでも、帰ってこいよ!」
皆、口々に、温かい、言葉を、かけてくれる。
龍也は、深々と、頭を下げ、その温かい、人々に別れを、告げた。
「……ありがとうございます!……必ず、また、帰ってきます!」
こうして、一行は、多くの人々に、見送られながら、一路、刃物の街、燕三条へと、向かって、出発した。
柏崎を後にし、一行は、燕三条へと、向かっていた。
道は、なだらかで、横には、見渡す限りの、日本海が、広がっている。
風が、心地よく、天気も良く、長閑な風景だった。
しかし、その、穏やかな道中で、先ほどから、難しい顔をして、悩んでいる者が、一人いた。
「……どうしたの?レン。悩み事?」かすみが、心配そうに、尋ねる。
「あ、いや。……なんでもないですよ、かすみさん」
レンは、そう、誤魔化すが、彼の顔は、ずっと、難しいままだ。
「なんだべ、腹でも、いてえだか?」じんたが、呑気に、尋ねる。
「なんじゃ、かすみの、ことか?」
ゆうこが、からかうように、言うと、かすみが、頬を赤くして、「……もう!」と、怒る。
その、賑やかな、やり取りの中、不意に、上空から、奇妙な影が、一行へと、襲いかかってきた。
それは、「カゲトリ」。
黒い鳥の、翼に影が、まとわりつき、体は、霧のように、揺れる。幽霊の、飛行型だ。
カゲトリは、高速で、一行へと、突撃し、影の斬撃で、ダメージを、与えてくる。
レンが、躍起になって、剣を、振るう。
しかし、カゲトリは、その身体を、影化させ、彼の攻撃を、ひらり、と、かわしていく。
レンは、何度も、何度も、剣を、振るうが、その攻撃は、空を切り、まるで、イメージ通りに、動けないかのように、空回りしている。
「……くそっ!」
その焦りが、彼の表情に、見て取れる。
その、レンの苦戦を、見るに見かねて、シンジが、動いた。
シンジは、カゲトリの、背後へと、回り込み「幻影双牙」を、放つ。
幻影が、カゲトリを、幻惑させ、その影化の、能力を、一時的に、解除させる。
その隙に、シンジの、鈎が、カゲトリを、一撃で、仕留めた。
戦いは、あっけなく、終わった。
しかし、レンは、納得していない、といった表情だ。
「……なんじゃ、煮え切らん、戦い方じゃったな」ゆうこが、ぼそっと、呟く。
「……あんな、戦い方だと、死ぬぞ、レン」シンジが、冷静に、レンに、忠告する。
「……分かってます。……ただ、何かが、掴めそうで、いまいち、何かが、出来なくて……」
レンは、悔しそうに、俯いた。
それからも、魔物が出るたびに、レンは、今までにない、戦い方を、試していた。
彼の、心の中には、何か、新たな力の、覚醒への、ヒントが、隠されているのだろう。
(……なにか、ヒントでも、掴めればな)
一方、じんたと、ゆうこは、島での、激闘の話で、道中、盛り上がっていた。
「だども、あすこで、おらさ、スティールして、魔力、奪ったから、勝てたべ!」
じんたが、得意げに、胸を張る。
「なに、言うとんじゃ!わしが、あそこで、フルグル、かましたったから、やっつけれたんじゃろうが!」
ゆうこが、それに、食って掛かる。
「そんで、その後の、グラドゥーンは、すげえかったべな!」
「ああ、あの、巨体で、剣二本は、ずるいじゃろうが!」
「そうだべ!あんなんが、二本も、あったら、怖すぎだべな!」
二人は、興奮気味に、あの、圧倒的な、強敵との、戦いを、振り返る。
そんな話で、盛り上がっている、その時だった。
「……剣二本…………剣、二本……!……そうか…………それだ!」
レンの、顔色がハッと、変わった。彼の瞳に、強い光が、宿る。
天啓を得たように、叫んだ。
「じんたさん!ゆうこさん!ありがとうございます!」
急に、晴れ渡った顔をして、深々と、礼を言う、レンに、じんたとゆうこは、「?」と、首を、傾げるばかりだった。
レンは、鼻歌でも、歌い出しそうなほど、上機嫌だった。
彼の中で、何かが繋がり、新たな、剣の道が、見えたのだろう。
そんな、レンの姿を、微笑ましく、見つめていた。
燕三条への、道はまだ、続く。