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第一一三話 孤島の遠吠え、潮騒の詩 その五

 買い出しは、スムーズに進んだ。


 龍也のリストは、市場で、全て、揃えることができた。


 そして、一行は、漁港組合事務所へと、向かった。

 港の責任者に、明日、漁を終えた漁師たちを、集めておいてほしいと、お願いした。


「……カニ討伐と、島の件で」

 港の責任者は、龍也の真剣な、眼差しを見て、深く頷いた。


 龍也の、心の中では、すでに、カニ討伐より、本丸である、グラドゥーンを、ターゲットにした、作戦が、考案されていた。


 そして、夕方。待望の、二人が、帰ってきた。


「ただいま戻りました」

 燕三条へ、武器の修理と、強化に、行った、シンジとレンだ。

 彼らの、顔は、疲れていたが、その瞳は、新たな、力への期待に、満ち溢れていた。


 労っている時間は、なかった。

 しかし、その、ピリピリとした、雰囲気を、二人はすぐに、理解した。


「……役者は、揃ったな」、龍也が、静かに、呟く。


 その夜は、皆で夕飯を、終えると、すぐに、作戦会議を、開いた。

 テーブルの上には、島の地図と、カニの魔物の、情報が、広げられている。


「……作戦は、こうだ……」

 龍也は、静かに口を開き、皆に指示を、出し始めた。


 まず、明日の、カニ討伐。

 船上での、戦い方。カニの特性。そして、漁師たちへの、段取り。


 そして、その後の、島への作戦。

 グラドゥーンの、アジト。ローブの男、リヴァル。そして、炭鉱の中で、進められている、謎の、計画。

 それに伴っての、対抗策。

 全てが、緻密に、計算された、作戦だった。

 その夜、皆は、龍也の指示を、一つ一つ、確認し、各自の役割を、再認識した。


 翌朝。

 一行は、漁港組合事務所へと、向かい、集まってくれた、漁師たちと組合の人たちに、協力要請を、した。

「……危険のない範囲で、結構です……どうか、俺たちに、力を、貸してください」

 龍也の、真摯な言葉に、皆が深く、頷いた。

 こうして、漁師たちからの、了承を得ることに、成功した。


 まず、明日、カニ討伐を、行うため、漁は休止となると。

 そして、明日、この時間、一行は、カニ討伐のため、柏崎の港を出向すると。


 家に帰り、最終の、準備を、行った。

 それぞれの、武器と、防具を、念入りに、手入れする。

 そしてこの、柏崎の街を、守るため、そして、島の人々を、救うため。

 その、決意を胸に、彼らは、最後の夜を、静かに、過ごすのだった。



 翌朝。

 一行は、漁師たちに、見送られ、改造された「ブルークラッシャー号」に、乗り込んだ。

 海は、穏やかだ。船は、心地よい潮風を、受けながら、沖合の岩場へと、向かっていく。


 船上での、戦い。足場は揺れて、やりにくいだろう。

 しかし、シンジも、レンも、日頃から、鍛え上げている。

 彼らは、その揺れを、計算に入れ、難なく体勢を、保っていた。


 目的地である、潮が、引きつつある、岩場と、浅瀬に、到着する。

 漁師が、船を、固定する。

 皆が、それぞれの、持ち場へと、つく。

 龍也は、船首に立ち、指示を出す。シンジとレンは、前衛として、臨戦態勢。じんたは、船縁で、漁網を、構える。ゆうこは、回復役として後方。かすみは、魔法攻撃の準備を、整える。


 その、時だった。

 ザワッ。

 水面が、不自然に、揺れた。

 そして、海の奥から、巨大な爪が、突き出し、ブルークラッシャー号を、挟み込もうと、襲いかかってきた。


「来たぞ!皆、構えろ!」、龍也の、号令が、飛ぶ。


 現れたのは、巨大なカニ。

 その、甲羅は、まるで、鉄のように、硬く、通常攻撃は、ほとんど、通らないだろう。

 巨大な、ハサミは、船ごと、粉砕できるほどの、威力を持つ。


 カニは、高速で、ブルークラッシャー号を、狙い、巨大な爪で、何度も、叩き潰そうと、大振りの、攻撃を、仕掛けてくる。

 船体が、大きく、揺れる。


「シンジ!船体を、守れ!」

 シンジは、迷わず、船縁へと、駆け寄る。ハサミが、船体を、粉砕しようと、振り下ろされる、その、瞬間に、自らの鉄鈎で、受け止めた。

 ガキン!

 凄まじい、金属音が、響き渡る。シンジの、身体が大きく、軋む。

 しかし、彼に、大きなダメージは、ない。


「レン!脚の、関節を、狙え!」

 レンは、破城剣を、構え、カニの、甲羅の、隙間や、脚の、関節を、狙い、斬撃を、叩き込む。しかし、その、硬い甲羅は、レンの、剣を、弾き返す。


「くそっ!硬え!」


「タツヤ!大銛砲、装填、急げ!」

 じんたが、叫ぶ。

 龍也は、船の船首に、設置された、大銛砲へと、駆け寄り、巨大な銛を、装填していく。


「かすみ!目を、狙え!」

「はい!」

 かすみは、杖を、構え、カニの、眼を狙い「アイスアロー」を、放つ。

 氷の矢は、カニの、眼に命中し、カニは、一瞬動きを、止めた。


 その、隙を狙い、龍也が、大銛砲を、発射する。

 ドォォン!

 巨大な銛が、カニの甲羅へと、突き刺さる。貫通力は、あるものの、完全に、貫くことは、できない。


「くそっ!まだ、足りない!」


 カニは、大きな、ダメージを、受けると、そのまま、海へと、潜り始めた。


「潜ったぞ!全員、警戒しろ!」

 シンジの、声が、飛ぶ。


 次に、どこから、現れるか、分からない。

 その、不安が、船の上に、漂う。


「じんた!漁網を、構えろ!再浮上を、封じるぞ!」

 じんたは、巨大な、漁網を構え、海面を、見つめる。


 その時、船の真下から、巨大なハサミが、突き出し、叩き潰そうと、襲いかかってきた。

 船体が、大きく、傾く。


「くそっ!沈むぞ!」

「ゆうこ!ヴォルト!」

 ゆうこは、船底から、突き出す、ハサミへと、雷を放つ。

 バチバチッ!

 雷が、ハサミに、直撃し、カニは、怯む。


 その隙を狙い、じんたが、漁網を、投げつけた。

 巨大な、漁網が、カニの巨体を、包み込み、動きを、一時的に、制限する。


「よし!捕らえたぞ!」

「シンジ!レン!脚の、関節を、集中攻撃だ!」


 シンジとレンが、漁網に、絡め取られた、カニの、脚の関節を狙い、攻撃を集中させる。


「かすみ!アルドゥル!」

 かすみの、炎魔法が、引火し、巨大な、爆炎が、カニを、包み込んだ。


「グオオォォォ!」

 炎に、包まれ、その場で、もがき苦しむ、カニ。


 炎に、焼かれ、弱り切った、カニは、もはや、ほとんど、動けない。

 龍也は、船首に立ち、叫んだ。


「最後だ!甲羅の、裏側を、狙え!シンジ、レン!お前たちが、乗り込め!」

 シンジとレンは、躊躇なく、燃え盛る、カニの、甲羅へと、飛び移った。

 炎を、かわしながら、彼らは、カニの甲羅の、裏側腹部へと、向かう。

 そこは、唯一の、弱点。


「双牙!」

 シンジの、鈎が、カニの、柔らかな、腹部を、深く、切り裂く。

 レンの、破城剣が、その、同じ場所を、渾身の力で、貫く。


 カニは、断末魔の、悲鳴を上げ、その、巨体を海へと、沈めていった。

 巨大な、水しぶきが、上がり、船体を、大きく、揺らす。


 戦いは、終わった。

 一行は、息を、弾ませながら、その、荒い息を、整える。

 しかし、彼らの、顔には確かな、勝利の笑みが、浮かんでいた。


「……やったな……!」

 龍也の、その、言葉に皆が、力強く、頷いた。


 カニを、船体に、しっかりと、括り付け、一行は、港へと、帰還した。

 港には、多くの、漁師たちや、港の関係者が、彼らを、出迎えていた。

 ブルークラッシャー号が、港へと接岸すると、人々は、わあっと、歓声を上げ、盛大な、拍手と喝采を、浴びせた。


 皆で、力を合わせ、巨大なカニを、陸へと引き上げる。

 その、あまりの、大きさに、人々は、驚きの声を、上げる。


「……これが、あの、カニか……!」


「……本当に、食うのか、じんた」

 龍也が、そう、尋ねると、


「食うべ!食うべ!かすみが、焼いたから、このままでも、食えるべや!」と、目を、輝かせている。

「……いや、それは、やめとけ。……絶対、腹、壊す」龍也が、即座に、制止する。

「……ほんなら、タツヤ!つくってけれよ!」

「……分かった、分かった。……やってみるよ」

 龍也は、苦笑いしながら、承諾した。


 彼は、港の、一角に、特設された、厨房へと、向かい、カニを、解体し始めた。

 その、巨大な、ハサミ。厚い甲羅。

 レンに頼み、甲羅に切り込みを、入れてもらう。

 料理人としての、腕を、遺憾なく発揮し、様々なカニ料理を、作り始めた。

 カニ味噌焼き。味噌汁。炊き込みご飯。天ぷら。


「……まあまあ、美味いな」

 龍也が、そう、呟くと、皆に、振る舞った。漁師も、カニ料理を、頬張り、感嘆の声を、上げる。


「ぶち、うまいわい!」「こんな、美味いカニ、食ったこと、ねえべ!」「美味しいです!」

 皆、笑顔で、カニ料理を、堪能している。


 そして、束の間の、安堵と共に、宴が始まった。

 漁師たちや、漁港関係者。そして、組合の、女将さんたちも、加わり、大勢の人々で、賑わう。

 最初は、和やかに、始まった宴も、酒が進むにつれて、徐々に、ヒートアップしていく。


 じんたの、手品。ゆうこの、豪快な、笑い声。かすみの、可愛らしい、魔法の、演出。

 レンは、周りの人々と、笑顔で、語らい、シンジは、静かに、酒を、飲んでいる。


「……タツヤさん!あんたの、カニ料理、最高だな!」

「あんたの、奥さん、気が利くねえ」

 皆が、龍也を、称賛する。


「いや、その、奥さん…」

 龍也は、また、諦めた。

(女の人は、よく、しゃべるな、まったく……)

 柏崎の夜は、彼らの勝利と、そして、新たな絆の、物語と共に、深く静かに、更けていくのだった。

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