表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/124

第一〇九話 新章 孤島の遠吠え、潮騒の詩 その壱

 翌朝。

 龍也は、いつものように、日課を、終え、軽く身体を、伸ばしていた。

 シンジとレンも、ランニングを、終え、帰って来た。

 いつもの、穏やかな、朝の風景のはずだった。


 三人は、部屋に戻り、汗も流さずに、相談し始めた。


 それは遡る事、三〇分前、龍也が起きて、日課をしに、外に出た時だった。

 近くの港で、何か、騒がしい声が、聞こえてきた。

「……なんだ?」

 龍也が、港の方を見ると、漁師たちが、集まり、口々に、何かを、叫んでいる。

 シンジとレンも、出てきたので、その声に、近づき、聞いていた。


 漁師たちが、港の関係者に、大声で、話している。


「……沖合で、漁を、していたらよぉ!……突如、空が、真っ黒に、曇っちまって!」

「……そんで、一瞬、台風みてえに、風が、渦を、巻きやがって、沖合の、あの、島を、一つ、取り囲んじまったんだ!」

「……やがて、風も、雲も、なくなったがよぉ!……明らかに、あの、島で、何かが、起こってやがるんだ!」

 その、話を聞いた、龍也の顔が、険しくなる。

 シンジも、レンも、同じ表情を、していた。

 漁師たちの、話は、明らかに、自分たちに、関わっている、と、彼らは、直感した。


「……どう思う?」、龍也が、小声でシンジに、尋ねる。

「……間違いなく、魔物だろう。……しかも、俺たちが、ここに来て、すぐにだ」

 シンジの、声も、低い。

「……そうですね。……おそらく、僕たち、狙いでしょう」

 レンが、破城剣の柄を、強く握る。


「……島の人たちが、心配だな」、龍也が、呟く。

「ああ。……あまり、時間は、なさそうだな」、シンジが、頷く。

「……だが、何も、情報がないままは、無謀でしょう」、レンが、冷静に、付け加える。


「……何、朝っぱらから、こそこそと、話とんじゃ!」

 その時、背後から、声がした。

 ゆうこだった。じんたも、かすみも、もう、起きてきていた。


 龍也は、観念したように、皆に状況を、話し始めた。

 無人島に、現れた謎の、魔物。

 それは、ゼノスの新たな、手先なのか。

 それとも、この海を、支配する、新たな脅威なのか。


 柏崎の、朝は、新たな謎と、そして、巨大な陰謀の、気配に、包まれていた。


「……まずは、情報だ」

 龍也の、その言葉に、皆が、頷いた。

 目の前の、未知の脅威に、何の、情報も、持たずに、突っ込むのは、あまりにも、無謀だ。


「……二手に、分かれよう」

 龍也が、指示を、出す。


「……シンジ、レン、かすみ。お前たちは、港の、漁師たちから、話を聞いてくれ。……実際に、あの現象を、目撃したんだ。具体的な、魔物の、特徴や、現象の、詳細が、得られるかもしれない」

「承知」「分かりました」「はい」

 三人は、漁師たちが、集まっている、方へと、足早に、向かった。


「……俺と、ゆうこ、じんた。この三人で、漁港の、関係者から、話を聞こう。……島に、何人くらい、いるのか。……島の、地形は、どうなっているのか。……地図が、あれば、もらっておきたい」

「そうじゃな」「わかったべ!」

 龍也が、そう言うと、残りの三人は、漁港の、事務所へと、向かった。


 龍也の、脳裏には、野沢の一件が、蘇る。

 謎のローブの男。そして、闇の王ゼノスの、影。

 この、島の事件も、また、その、巨大な、陰謀の、一端なのか。

 その、確かな、予感に、龍也の、心は、ざわめいた。


【漁師班】

 港で、漁を終えたばかりの、漁師たちに、話を聞いていた。

「……あんたたち、あの、島のことで、何か、知っていることは、ないか」

 シンジの、問いに、漁師たちは、顔色を、悪くしながら、語り始めた。


「……あれは、ついさっきのことだ。いつもは、穏やかな、空がよぉ……突如、あの島を、覆い隠すように、真っ黒な雲が、渦を巻いて、現れたんだ」

「……そんでよぉ、凄まじい、勢いで、風が島を、取り巻きやがってな。……一瞬、台風みてえな、猛烈な、暴風が、吹き荒れたんだ!」

「……やがて、風も、雲も、なくなったがよぉ…………明らかに、あの島は、なんか、異様な、空気に、なった気が、するんだ……」

 一人の、漁師が、震える声で、付け加えた。

「……雲が出た時、雷も、鳴ってた気がするぜ……あれは、ただ事じゃねえ」


 漁師たちの、証言から、魔物が、空を操り、嵐のような、現象を、引き起こしたことが、示唆された。


【漁港関係者班】


 漁港の、事務所へ、向かい、港の関係者から、話を聞いた。

「……あの、沖合の島、ですか?……あれは、佐渡ですよ。昔から、炭鉱で、栄えた、島です」

 港の責任者が、答える。

「……島には、現在、分かっているだけで、五十人ほどの、住民が、住んでいます。……観光客も、合わせれば、もっと、いるでしょうな」

 そして、龍也の、問いに、港の責任者は、一枚の、簡易的な、地図を、差し出した。

「……この、地図が、お役に立つかどうか」


 地図を見ると、佐渡は、決して、広くはない。

 しかし、ここから、島へ行くにも、そして、島から、帰るにも、船でなくては、無理だ。


「……万が一、海上で、魔物に、襲われたら、終わりじゃな」

 ゆうこが、呟く。


「……ただ、一つだけ、おかしなことが、あります」

 港の責任者が、声を、潜めた。

「……海の中には、魔物はいないんです。……どうやら、海には、ある、特殊な、成分が、含まれていて、魔物を、弱らせる、らしいんです。……だから、魔物は、近寄らない、と、言われています」


【情報の共有と龍也の分析】


 両班が、宿に戻り、集めてきた、情報を、共有する。

 龍也は、それらを、一つ一つ、頭の中で、整理していく。


 まず、佐渡。その島が今回の、事件の舞台だ。

 島には、多くの住民が、取り残されている。

 そして、魔物が、空を操り、嵐のような、現象を、引き起こした。雷も鳴っていた。

(……空を操る、魔物……そして、雷……これは、ヤマタノゴモラの、側近とタイプか……)

 龍也の、脳裏に、新たな強敵の、イメージが、浮かび上がる。


 しかし、最大の、収穫は海に、関する、情報だった。

 海の中には、魔物がいない。海に、ある特殊な成分が、魔物を、弱らせる。

(……これだ!)


 龍也は、地図を広げ、佐渡の周辺の、海域を指差した。


「……つまり、海の中は、安全地帯だ。……もし、魔物が、襲ってきても、海に飛び込めば、安全を、確保できる、というわけか」

「いや、それでは、駄目だ、海に入って大丈夫なのは、海の中の部分だけになる。上から、攻撃されれば、出てる部分はどうしようもない、つまり、魔物は、海の成分に触れなければ、関係ないってことさ」

 シンジが、冷静に、分析して言った。


「なるほど、危うく死ぬところだったかもな、ありがとう、シンジ」

 その通りだ。海の成分が、魔物を弱らせる、というのなら、完全に、海の中に、潜らなければ、意味がない。

「……じゃあ、どうすんだ?タツヤ」

 じんたが、不安そうに、問いかける。

「……まさか、泳いで、島まで、行くわけにも、いかんじゃろうし」

 ゆうこも、心配そうな、顔をしている。

 龍也は、地図を、見つめた。

(……海の成分が、魔物を弱らせる。……そして、海中には、魔物は、いない……)

 彼の、脳裏に、一つの、新たな、アイデアが、閃いた。


「……だが、海の成分が、魔物を弱らせる、というのなら、……その、海の力を、利用できないか?」

 地図を、見つめたまま、呟いた。

「……どういう、こっただ、タツヤ」

 じんたが、尋ねる。


「……もし、俺たちが、海に直接、触れることで、魔物への、耐性を、得られるとしたら……」

 龍也の、その言葉に、ゆうこが、ハッとしたように、顔を上げた。

「……なるほどのう!……あの、源泉の草が、源泉の成分を、栄養素にしとるように、わしらの、身体が、海の成分を、吸収すれば……」

「……ああ。……魔物への耐性が、得られるかもしれない」


 しかし、問題は、海に触れることだけではない。

「……船で、海を渡る、必要がある。……そして、その船が、魔物に、襲われたら、どうする」

 シンジが、冷静に現実を、突きつける。

「……もし、海に、飛び込んでも、船が、壊されれば、戻る術が、なくなる」

 レンも、真剣な顔だ。


 その時、龍也の、脳裏に、また一つの、アイデアが、閃いた。

「……漁師だ……この港には、漁師がいる。……彼らなら、海のことを、知り尽くしている。そして、船も持ってる」

「……まさか、タツヤ。漁師に、頼むっちゅうんか?」ゆうこが、驚く。

「ああ。……交渉してみる価値はある……それに、海中の魔物がいない、というなら、漁師たちも、あの島に、近づくこと自体は、恐れていないはずだ」


 翌朝。

 一行は、漁港へと、向かった。

 龍也は、昨日、話を聞いた、ベテランの、漁師に、声をかけた。


「……実は、お願いが、あるんですが……」

 龍也が、佐渡の状況と、自分たちが、魔物を討伐しに行く、という、事情を説明した。


 漁師は、龍也の、話を聞くと、最初は、渋っていた。


「……魔物相手に、船を、出すなんて、とんでもねえ……それにあの、嵐のような、現象を見たら、怖くて、行けねえよ」

 しかし、龍也は、諦めなかった。


「……俺たちは、必ず、あの魔物を、倒します……そしてこの、柏崎の海を、平和にします……どうか、俺たちに力を、貸してください」


 その、龍也の、真摯な眼差しと、リーダーとしての、覚悟に、漁師は、心を動かされた。


「……分かった。……協力しよう。……ただし、一つだけ、条件がある」

 漁師は、そう言うと、沖合を、指差した。


「……あの、沖合の岩場に、最近棲み着いた、巨大な、カニの魔物が、いるんだ……そいつが、網を破ったり、船を壊したりして、困っとる……あれを、退治してくれたら、あんたたちを、島まで送ってやる」


 新たな試練。

 しかし、それは、彼らにとって、佐渡への道しるべ。

 龍也は、深々と頭を、下げた。


「……ありがとうございます!……必ず、退治して、みせます!」


 こうして、一行は、佐渡へと、向かうための船を、手に入れる条件として、カニの魔物の討伐を、請け負うことになった。

 柏崎の、海が、彼らを新たな、戦いへと誘っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ