第一〇五話 秘湯の復興とじんたの想い ~ 番外編 ~
翌朝。
一行は、それぞれ、風呂セットと、着替えを、リュックに詰め、いざ、野沢温泉へと、出発した。
野沢温泉に、到着すると、そこには、まだ、復興の途上にある、光景が広がっていた。
しかし、水上の時と同じく、人々はすでに、前を向いていた。
そして、龍也たちの、姿を見つけると、わあっと、歓声を上げ、駆け寄ってきた。
「英雄たちだ!」
「ようこそ、野沢温泉へ!」
すぐに、街の人々から、状況の説明を受ける。
源泉の、汚染は治ったが、温泉施設が、まだ完全に、復旧していないらしい。
一行は、休む間もなく、その、復興作業へと、加わっていった。
龍也:
水上温泉で、炊き出しの経験を、積んだ龍也は、この野沢温泉でも、再び厨房の、指揮を執った。
街の料理人たちと、協力し大量の、食事を作り出す。
「ここは、湯治場だから、身体に優しい、野菜中心の、メニューがいいな」
地元の食材を、巧みに使い、温かい蕎麦や、山菜の天ぷらなどを、振る舞う。
その、滋味深い、料理の数々は、疲れた人々の、心と身体を、芯から癒した。
シンジとレン:
二人は黙々と、力仕事を、こなしていく。壊れた建物の、解体。新しい木材の、運搬。
その、鍛え上げられた、肉体は、どんな、重労働も、軽々とこなした。
シンジは、鈎を、巧みに使い、瓦礫を撤去し、レンは、破城剣を、まるで木こりの、斧のように、使い、木材を加工していく。
その、連携は、言葉を、必要とせず、まるで、二人の、衛兵が、息を合わせるように、流麗だった。
じんた:
シーフとしての、器用さを活かし、細かな修復作業や、配線作業を手伝った。
破損した、給湯設備の、配管の修理。温泉水の、供給ルートの確保。
その、手先の器用さは、大工の棟梁たちを、感心させた。
「じんたさん、あんた、本当に、何でも、できるんだな!」
ゆうこ:
医者として、復興作業中に、怪我をした、人々の手当に、奔走した。
「大丈夫かいな!ちゃんと、消毒せんと、化膿するじゃろうが!」
彼女の、「ヒーリング・タッチ」は、多くの人々の、傷を癒し、その豪快な、広島弁は、人々の不安な、心を励ました。
かすみ:
魔法使いとして、その力を、遺憾なく、発揮した。
付与魔法で、重い資材を、少しだけ、浮かせて、運搬を、手伝ったり。
「わあ!魔法って、すごい!」
その、可愛らしい、魔法の力は、子供たちからも、大人気で、彼女の周りには、笑顔が、溢れていた。
皆の、活躍により、野沢温泉の、復興作業は、驚くほど、速いペースで、進んでいった。
主要な、温泉施設は、ほぼ復旧し再び、観光地としての時が来た。
「……よし!皆、ご苦労だったな!……さあ温泉入ろう!」
龍也の、その一言に、皆、歓声を上げた。
男湯は、熱い湯気に、満ちていた。
龍也、じんた、シンジ、レンの、四人が、ゆっくりと、湯に、浸かる。
疲労困憊の、身体に、じんわりと、湯が、染み渡っていく。
「……はあ……生き返るな……」龍也が、大きく、息を吐く。
「……やっぱ、温泉、最高だべな!」じんたが、湯の中で手足を、伸ばす。
シンジは、黙々と、湯船の縁に、肘を置き、静かに瞑想している。
レンは、その、温かい湯に、過去の全てを、洗い流すかのように、深く浸かっていた。
彼らの、背中には、数々の戦いの、傷跡が残っている。
しかし、その湯の、温かさが、彼らの心と、身体を芯から、癒していく。
男湯には、ゆったりとした、時間が、流れていた。
女湯は、湯気と、女性たちの、柔らかな笑い声に、満ちていた。
二人が、広々とした、湯船に、浸かっている。
「……はあ……なんじゃ、この、気持ちよさは……」
ゆうこが、湯の、感触を、確かめるように、呟く。
「……私も、こんなに、ゆっくり、温泉に、入ったのは、初めてです……」
かすみも、うっとりと、目を閉じ、その、極上の湯に、身を任せていた。
「……なあ、かすみ」ゆうこが、そっと、かすみに、声をかけた。
「…………あの、レンは、どうなんじゃ?最近、呼び捨てにしとる様じゃが」
ゆうこが、少し、悪戯っぽい、笑顔で、尋ねる。
かすみの、顔が、カッと、赤くなる。
「……え、あの……レン……ですか?」
「そうじゃ。……あんた、レンのこと、好きなんじゃろうが」
ゆうこが、からかうように、肘で、かすみの、脇腹を、軽くつつく。
「……も、もう!ゆうこさんったら!」
かすみは、恥ずかしそうに、顔を、隠した。
「……ふふ。……まあ、無理もないわいな。レンも、ええ男じゃけえ」
ゆうこは、そう言って、湯船に、浸かる、レンの、背中を、思い浮かべた。
(……レンは、昔のシンジに、似とるのう……真面目で、不器用で……でも、根は優しい……あの、シンジが、なつみちゃんに、夢中になったように、かすみちゃんも、レンに、夢中じゃった、ということか……)
彼女は、そんな、二人の、純粋な、恋心を、微笑ましく、見守っていた。
「……ゆうこさんは、……どうなんですか?……龍也さんの、こと……」
今度は、かすみが、意を決したように、問いかけた。
その、言葉に、ゆうこの、頬が、ほんのりと、赤く、染まる。
「……なんじゃ、藪から棒に……わしはただ、あの朴念仁の、健康を、見とるだけじゃわい」
そう、強がるが、その、声は、少しだけ、震えている。
(……あの朴念仁は、ほんま、鈍感じゃけえ…………でも、それが、また、ええんじゃけどな……)
ゆうこは、湯の温かさに、身を委ねながら、心の中で、そう呟いた。
女湯には、温かい湯けむりと、女性たちの、秘めたる想いが、静かに漂っていた。
恋バナに、花が、咲く。
温泉の、温かさが、彼女たちの、心と身体を、芯から、癒していく。
それは、明日への、活力を、養う、大切な時間だった。
温泉から上がり、一行は、宿に帰り、食堂で、夕食を、済ませた。
復興作業の、疲れと、温泉の、温かさで、皆、心地よい、眠気に、誘われている。
その夜は、誰もが、安らかな、眠りについた。
承知いたしました。外伝「じんた編」として、彼が仲間たちのために装備を作成し、贈るシーンを執筆します。
外伝 じんた編 秘めたる献身 ~ おらが作った最高の宝物 ~
野沢温泉、復興終え、飯山の宿へと、戻る道中。
じんたは、どこか、そわそわとしていた。
宿に置いてあるキャリアカーの、奥底には、これまで、旅の道中や、戦闘で、こっそりと、集めてきた、ガラクタにも見える、様々な品々が、詰め込まれている。
大蛇の鱗、光る羽根ペン、金色の豚の貯金箱、麻の紐……。
それらを、見ていると、じんたの、心の中に、一つの、強い想いが、込み上げてくる。
(……おら、皆に、何か、してやりてえべ……)
龍也、シンジ、ゆうこ、かすみ、そしてレン。
皆、それぞれが、命を懸けて、戦っている。
そして、いつも、気弱な、自分を、守ってくれる。
じんたは、宿に帰ってから、夜な夜な、その品々を、広げた。
(……シーフの、技で、作れるもん、ないべかな……)
彼は、師匠哲から、教わった、細工の技術や、合成の知識を、頭の中で反芻する。
そして、その手で、一つ、一つ、丁寧に、作業を始めた。
翌朝。
じんたは、少しだけ、緊張した顔で、皆を、リビングに、集めた。
「……あの、おらがな、皆に、作った、ものが、あるべ」
そう言って、彼が、取り出したのは、三つの、品物だった。
まず、ゆうこに、手渡されたのは、薄い灰色の、金属の盾。
「これは『焔守の智盾』だべ!大蛇の鱗と、光る羽根ペンと、麻の紐で、作ったど!」
驚くゆうこに、じんたは、その効果を、説明する。
「炎属性の魔法や、波動を、大幅に、軽減するんだ!そして、光る羽根ペンを、組み込んだから、ゆうこが、呪文を唱えても、波動で、乱されにくくなる!軽くて、片手で、扱えるべ!」
「智の灯火は炎に負けず、紐で結ばれた誓いは決して揺らがない、だべ!」
「……じんた……!」
ゆうこは、そのあまりの、心遣いに、目を、潤ませていた。
次に、龍也に、手渡されたのは、同じく薄い、金属の盾。
「これは『破猪の護盾』だべ!これも、大蛇の鱗と、金色の豚の貯金箱と、麻の紐で、作ったんだ!」
「……貯金箱?」
龍也が、首を傾げる。
「ああ!貯金箱の『重み』が、不思議な、安定感を、与えるんだ!波動による、衝撃を、和らげて、吹き飛びにくくする効果が、あるべ!大蛇の鱗で、炎ダメージも、ある程度、軽減するんだ!」
「重みある戦利品は、命を繋ぐ楯となる。無骨な盾は、守るべき背中を揺るがせない、だべ!」
「……じんた……!」
龍也は、その、盾を手に取り、その、温かさに、目を閉じた。
そして、最後に、かすみに、手渡されたのは、小さな、ブローチだった。
「これは『龍封の光羽ブローチ(りゅうふうのこうう)』だべ!大蛇の鱗の削片と、光る羽根ペンで、作ったど!」
「……わあ……!綺麗です!」
かすみが、その、ブローチの、美しさに、目を、輝かせている。
「身につければ、龍の波動による、魔力干渉を、軽減するべ!詠唱速度も、微妙に、上がるんだ!鱗の欠片が、魔除けのように、作用して、炎の威力も、少し、下げるんだ!」
「光羽の輝きが心を守り、蛇鱗の欠片が龍の力を封じる。魔の波動に揺らぐことなかれ、だべ!」
「……じんたさん……!」
かすみが、涙ぐみながら、じんたに、抱きついた。
じんたは、皆の、その喜びの、顔を見て、照れながら、言った。
「……へへっ。……皆が、戦っとる間、おらは、これしか、できねえから……」
龍也は、その、じんたの、頭を優しく、撫でた。
「……これ以上の、手助けはないよ。……ありがとうな、じんた」
その、彼の言葉に、じんたは、顔を真っ赤にして、俯いた。
こうして、じんたは、シーフとしての技と、仲間への、深い愛情を、込めて、パーティに、新たな、力を、もたらした。
それは、決して、派手な、攻撃魔法ではない。
しかし、この仲間たちの、絆を、より一層、強くする、何よりも、尊い贈り物だった。