第一〇二話 秘湯の嘆き、野沢菜の温もり編 外伝
----------------------- 回想 シーン ------------------------
【古寺での拝受】
「……なんですと?……仏の力を、借りるとは、どうやって、なさるおつもりで?」
住職の、その問いに、龍也は、にやりと、笑った。
「……そんな、難しいことでは、ありません。……ただ、少し、仏様の、お力を、お借りして……」
持参していた、一枚の、和紙を、住職に、手渡した。
それは、あらかじめ、書いておいた、「護符」の、形をした、紙だった。
住職は、その紙を、訝しげに、見つめたが、龍也の、真剣な、眼差しを見て、やがて深く、頷いた。
「……承知いたしました……これは、この寺に、代々伝わる『護符への念入れ』の儀式……仏の慈悲を、宿らせましょう」
住職は、古びた、木製の机に、護符を広げると、静かに経を唱え始めた。
その、声は、低いが、力強く、どこまでも、心地よく、響く。
そして、彼は、墨壺から、墨を取り出すと、筆を走らせた。
その、墨には、かすかに、香木の、甘い香りが、漂う。
それは、「香木の灰」と「清水」を、混ぜた、特別な墨だった。
経が、唱えられ、墨が護符に、染み込むたびに、護符は、淡く発光していく。
儀式が、終わると、住職は、護符を、龍也に、手渡した。
「……この護符には、仏の加護が、宿っております。……ですが、これだけでは、まだ十分では、ございません」
住職は、そう言うと、小さな木の箱を、取り出した。
中には、真っ白な、塩が、入っている。
「……これは、普通の塩では、ございません……海で、満月の夜に、汲んだ、海水から、作られた、清めの塩……そしてそこへ、仏像を彫った、古き、木の削り屑を、細かく、砕いて、混ぜてあります」
住職は、その塩を、護符に、軽くふりかけ、再び経を、唱え始めた。
その、声と共に、寺のどこからともなく、ゴーン、ゴーン、ゴーン、と、三度、重々しく、鐘の音が、響き渡る。
三度、鐘が鳴り響き、三度、経が唱えられると、護符と、塩は、淡い光に、包まれ、同調した。
「……これで、結界化の、儀式は、完了いたしました……これからは、その護符と、塩を、一緒に、持つことで、結界のような、力を、発揮するでしょう」
龍也は、深々と、頭を下げ、その、護符と塩を、懐に大事にしまった。
これは、仏の力。そして、この寺に、宿る、人々の、祈り。
----------- 回想 終わり--------------
そして、戦場の場で……。
龍也は、疲労困憊の、仲間たちに、今回の、護符と塩の、効果について、詳しく、説明した。
「……あれは、あの古寺に、伝わる、特殊な、護符の念と、塩だったんだ。……住職に、頼んで、作ってもらった」
「……つまり、お寺の念と、仏像を彫った木の霊性。そして、清めの塩の浄化作用が、三位一体になって、龍の波動すら防ぐ、『即席結界アイテム』になった、ってわけか」
シンジが、静かに、まとめ上げる。
「そうじゃ!まさに、『龍波封塩』じゃな!」
ゆうこが、嬉しそうに、威張る。
「単体で、護符を、額に、当てれば、小ダメージの軽減。じゃが、塩と、併用すれば、あの、精神攻撃にも、完全耐性が、追加される、らしいわい!」
ゆうこが、補足する。
「……そんで、この塩を、地面に撒くと、一時的に、波動を、遮断する、領域を、作り出すことも、できるんだとよ」
龍也が、付け加える。
「それで、あの瞬間、あらかじめ、塩振っておいた護符を、手にもってかざしたのさ」
「じんたには、前もって、その塩を渡して、洞窟の奥にある、源泉の出てる所に、撒いてもらうように、言っておいたんだ。危険ではあるけどな。」
「ああ、おっかねかったど、ゴモラのすぐよこさ、通るからな」
「そして、それが終わったら、俺と合流して、護符を、ゴモラに張り付けてもらった」
「何で、そのこと、俺に、言わないんだ」
シンジが、珍しく怒って、言った。
「すまんな、話の展開上、しゃべれなかったんだ、作者に止められてな」
「と、いうわけで、じんたが、源泉に塩入れて、魔物が生まれなくなり、護符のおかげで、討伐出来た訳だ」
「レン、かすみは落ち着いたか?」「……まだ泣いてます…」「新しい髪飾り買ってやれ」
「はい、そうします」「三上さん、後で、一杯いきます?」「いいのう、呑もうかの」
「うちも飲むけぇ!いっぱい飲むんじゃけぇ!」「おらだって、いぐど!」
こうして、野沢温泉は、魔物から、解放された。