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婚約破棄パーティーをするから企画しておけーーえっ、破棄される側の私が?

作者: 特になし
掲載日:2026/03/04

「ようやく終わった……」


 誰もいない図書館の中、ロベリア・エーレンプライスは吐息をつく。彼女の目の前にあるのは、びっしりと書き込まれたスピーチ原稿の束だった。

 

 ロベリアは王立学園付属図書館を出る。徹夜続きだったせいか、その足取りは大きくふらついている。


 そんな彼女を楽しそうな足取りで生徒たちが追い越していく。彼らの話題は、ほとんどが学期末パーティーについて。学長が毎年企画するパーティーは、趣向を凝らしたイベントが盛り沢山で、生徒たちは今からわくわくを抑えきれていない。


 しかし、そんな会話にロベリアが混ざることはない。ロベリアは今すぐこの原稿を「あの方」に届けなければいけないのだ。遅れたら、また何を言われるか……。


 急いでいたロベリアは、その時ふいに転倒し、原稿の束を廊下にぶちまけてしまう。ああ、ついてない。どっと疲れが押し寄せ、立ち上がれずにいるロベリアだったがーー


「どうぞ、ロベリア嬢」


 彼女に手を差し伸べる人物が一人。


「あ、ありがとうございます。ルドヴィック様」


 彼、ルドヴィックは国王の年の離れた弟だ。非常に優秀と評判で、現在は王立学園の学長も務めている。


 ロベリアを立ち上がらせた後、ルドヴィックは散らばった原稿を丁寧に拾い集める。


「運河完成式典のスピーチ原稿……。またセドリックに仕事を押し付けられたのかい」


「……私はセドリック様の婚約者ですから」


 第二王子セドリックは、侯爵令嬢ロベリアが幼い時に定められた婚約者。そして彼女を疲弊させている張本人である。


 セドリックは病的なまでの目立ちたがり屋だ。人々の注目や歓声を浴びるのが大好きで、華やかで派手なものに目がない。しかし、問題なのは、そのために裏で努力したり働いたりするのは嫌いであることだ。


 だからセドリックは思いついた。面倒な裏方を全てロベリアに押し付け、おいしい部分だけ持っていこう、と。今回のようなスピーチ原稿の作成、書類仕事、行事の手配……。ロベリアの努力の結晶を我が物顔で使って、セドリックは人々の賞賛を浴びている。


 セドリックは、仕事の押し付けの件を伏せるようロベリアに言っている。その結果、ロベリアはいつもどこかにこもっている社交性のない婚約者呼ばわり。真実を知っているのはルドヴィック含めた王室関係者数名だけだ。


 それでもめげてはいけない。セドリック様をお支えするのは婚約者の役目。彼は私を必要としてくれている。そう言い聞かせ、ロベリアはずっと頑張ってきた。


「あなたの献身をセドリックはどう思っているのだか。最近の彼の行動は流石にあなたを愚弄しているようにも思えるが」


 数か月前、学園にマイン・ルノダ子爵令嬢が編入してきた。その美貌で一瞬で時の人となった彼女に近づいたのがセドリック。マインもまた王子に言い寄られて舞い上がった。以来、二人はそのスキャンダル性と熱愛っぷりで学園の注目を集めている。


「それでも……セドリック様は私を必要としてくださっていますから」


 ロベリアは最後頭を下げると、ルドヴィックの元を去った。



 学園の校舎にはセドリックのための休憩室がある。セドリックは授業をさぼり、そこで気ままに過ごすのが日課なので、きっと今もいることだろう。


 ロベリアが扉を開けた瞬間――


「僕が愛しているのはマイン、お前だけだ。僕には釣り合わないロベリアとは、婚約を破棄しようと……」


 ロベリアは原稿をバサバサッと床に落とした。はっとこちらを振り向くのはセドリック、そして寄り添うよう座っていたマインだ。


「立ち聞きか、趣味が悪い」


 はあ、とため息をついた後、

「今ので分かっただろう、ロベリア。お前との婚約は破棄する」

と、セドリックは開き直ったように言い放つ。


「マインと違って、お前は華がなくてつまらない。一目見た時から、マインは僕と同じだと分かった。いつも輝いて、人々の注目を集めてしまう、僕たちは二人ともそんな星のもとに生まれた存在なんだ」


「ええ、そうね、セドリック様」


 セドリック、そしてマインは物語の主人公じみた表情を浮かべ、互いに手を取り合った。


「そういうわけで、大々的にお前に婚約破棄を言い渡そうと思う。舞台は……学期末パーティーがいいな。最大規模で人が集まる。婚約破棄という一大イベントにふさわしい」


 流行りの恋愛物語にでも影響されたのだろう。セドリックは馬鹿げた企画を恥ずかしげもなく口にする。


 婚約破棄の瞬間は、物語の一場面のように派手にスポットライトをあてさせ、バックミュージックは必須。破棄した後は、マインとの恋の軌跡を劇にして披露。最後、二人は衣装を替えて、永遠の愛を誓ってゴンドラで退場……。学期末パーティーを乗っ取る気満々である。


「そういうことだ。ロベリア、婚約破棄の準備を整えておけ。くれぐれも王子とその真実の愛の相手にふさわしい素晴らしい企画にしろよ」


「……え?」


 ただでさえ驚き、傷つき、打ちひしがれていたというのに。さらに放たれた信じられない台詞に、ロベリアは凍りつく。


「私に……婚約破棄を企画しろと?」


 婚約破棄をされる側の自分に、二人が注目を集めるためのおぜん立てをしろ、と?


「お前は僕の雑用係じゃないか。使ってやるだけ感謝しろ」

と、セドリック。


「私たちに嫉妬して、わざと失敗させようなんてしないでくださいよ? 元婚約者さん」

と、マイン。


 馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。怒りたかったし、怒るのが正解なはずだ。しかし、ロベリアの胸にあったのは虚無感だけだった。


 ずっとセドリックのために働いてきた。たとえ周囲に頑張りが知られずとも、セドリックは自分の頑張りを評価してくれている。そう思っていたのに……。自分は都合のいい雑用係、それ以外の何物でもなかったのだ。


「……かしこまりました」


 そしてロベリアの婚約者としての最後の役目、自分の婚約破棄イベントの企画が始まった。



「パーティーで婚約破棄、ねえ。いかにもセドリックが考えそうなことだ」


 ルドヴィックは笑っているが、その目は凍てついている。


 ロベリアは学長室でルドヴィックと対面していた。学期末パーティーの企画者は学長である彼。婚約破棄をそこで行うとなれば、彼にまず話を通さなければならないのだ。


「しかも、それをほかでもないあなたに頼むとは。私では理解できない感覚だ。理由である真実の愛というものもね。はは、私は自分を理解力がある方だと思っていたのに」


 乾いた笑い声をあげるルドヴィック。物腰柔らかな人物である彼が、裏で怖いと囁かれているのには、こういった要因がある。


 ちなみにだが、彼を一番怖がっているのは甥であるセドリックだったりもする。婚約破棄企画をロベリアに丸投げにしたのは、ルドヴィックに直接睨まれるのを避けたい、という情けない計算もあるのだ。


「そうは言っても、王子殿下の決定なら、我々は従わなければならないだろう。だけど、私としても学期末パーティーは労をさいて企画していてね。乗っ取られていい気持ちはしない。だからね、」


 ルドヴィックはとびきりきれいな笑みを浮かべる。


「ぶち壊してしまえばいいんじゃないかな。企画なんて放っておけば、婚約破棄はグダグダになる。そうすればあなたも少しは気が晴れるだろう」


 そう。それがきっと一番の復讐方法なんだろう。だけどーー


「それは……できません」


 セドリックに言われたことを、今までずっと完璧にこなしてきた。結果としていいように使われてきたわけだけど……。それを今回だけ投げだしたら、まるでふてくされているように思われる。そんなのは嫌だった。


「ここまでこけにされてもセドリックに尽くすんだね。あなたのことも私は理解できないな」


 ルドヴィックはため息をつくと、静かに席をたった。


「パーティーのことはあなたに任せよう。ただ、一切の手助けをすることはできない」


 馬鹿なことをしているのは分かっている。何をむきになっているんだろう。婚約破棄パーティーを一生懸命整えても、自分の頑張りは誰にも評価されないと分かっているのに。


 でも……やるしかない。絶対に婚約破棄パーティーは成功させる。それは、わずかに残ったロベリアのプライドだったのかもしれない。



 それからは、ロベリアの人生の中で最も忙しい日々になった。


 パーティーまでは一か月と少し。セドリックとマインの理想は、ロマンス劇の一場面のように盛大な演出を、とのことなので、下準備が大量に必要だ。楽団、照明担当者、衣装の仕立屋、花屋……。様々な方面に連絡を取って協力を仰ぐ。


 ロベリアが忙しく働いている間にも、セドリックとマインは自分たちの熱愛を他人に見せつけることに精を出していた。パーティーで婚約破棄をすると匂わせることで、二人の話題は完全に学園、いや貴族社会全体を席巻した。


 もちろん二人の話はロベリアの耳にも入ってきた。が、忙しさのおかげで、途中からはまるで気にならなくなったので、多忙にもメリットというものはあるらしい。


 ロベリアは企画に熱中した。セドリックに絶対に文句を言わせるものか。その完成度を達成するため、今までの自分のノウハウ全てを詰め込んだ。その結果、セドリックの馬鹿げた思い付きでしかなかった婚約破棄は、輪郭のはっきりした一大イベントとして、今まさに開催を迎えようとしていた。


 しかし、ロベリアの身体の方は限界だったらしい。パーティーまで残り一日。これから関係者全員に最終確認をしてーーと図書館を出たところで、ロベリアは昏倒した。



 ロベリアが医務室で目を覚ますと、窓から夕日が差し込んでいる頃だった。ずっと眠ってしまっていたのだ。


 常駐の先生に睡眠が不足しすぎとお小言を言われていると、

「あなたは頑張りすぎだよ、ロベリア嬢」

と、ルドヴィックがため息をつきながらやってきた。


「でも、そのせいでパーティーの準備が……」


 間に合わなかった。ロベリアは唇をかむ。


「安心していい。あなたの仕事は私がやっておいた。この通りで問題ないかな」


 ルドヴィックはそう言って、取り決めをまとめた紙をロベリアに見せてきた。内容はーー完璧。ロベリアの思い描いていた通りに手筈が整っている。


「どうして……?」


 ルドヴィックには企画の内容は分からないはず。それがどうしてこうも完全に自分の意図を読み取っているのだろう?


「あなたのことはこっそり見ていたからね。手伝わないと言ってしまった手前、表立って動くことはできなかったけれど、上手くいくよう手回しくらいはしていたし。今日やらなければいけないことも、何となく察知くらいはできるよ」


 当然のことのように言うが、相変わらず仕事のできすぎる人である。ロベリアは安心と同時に舌を巻く。しかし、それ以上にーー


「怒っていらっしゃらないのですか? 婚約破棄を計画して、パーティーをぶち壊す私のことを」


 ルドヴィックは婚約破棄パーティーに反対だったはず。それを今こうして協力してくれ、おまけにこっそり手伝ってくれていたなんて。もしかして怒っていなかったのだろうか。


「怒ってるよ」


 ルドヴィックは言う。


「それどころか、私はずっと前から腹を立て続けているんだ。ロベリア嬢、あなたほど能のある人材が、セドリックなどにいいように使われていることにね。それなのに、あなたは怒らないどころかむしろセドリックに夢中みたいだし」


 ルドヴィックは目を伏せる。


 しかし、

「私が働くのはセドリック様に認められたいからではありません。そう気付きました」

と、ロベリアは首を横に振った。


「たとえば、私の書いたもので涙を流してくれたり、私の考えた催しを楽しいと言ってくれたり。たとえ自分にスポットライトが当たることがなくても、私はそれが嬉しかった。だから、婚約破棄パーティーも、セドリック様のためでなく、集まってくれた皆さんを楽しませたいという思いが大きいのです。たとえ自分が悪者にされても。笑い者にされても。皆さんが素敵な時間を過ごしてくれるなら、私は十分満足できますから」


 もちろん最初はせめてもの矜持のためだった。しかし、働いている中で気付いたのだ。自分がずっと何のために働いていたのか。


 ルドヴィックは目を丸くした後、

「あなたは大人なんだね。どうやら私だけが自分の狭量さを醜くさらしてしまったようだ」

と、自嘲の笑みを浮かべる。


「いいえ、私、とても嬉しかったです。ルドヴィック様が私のために怒ってくださったこと。それ以上に、私を見ていてくださったことが」


 ロベリアの言葉に、ルドヴィックは眼を細くして笑う。目が笑っていないで有名な彼のこんな表情、周囲が見つけたなら大ニュースになっていたことだろう。


「明日は最高の企画にしよう」


「はい」


 自分は婚約破棄される。そう分かっているのに、明日が来るのがまるで怖くない。それどころか楽しみでさえある。不思議、とロベリアはルドヴィックを見つめていた。



 婚約破棄の当日。ロベリアは関係者に最終確認をした上で、各々配置についてもらう。備品も既に搬入済み。会場には参加者たちが次々到着している真っ最中だ。


 セドリック様が遅い。直前に伝えたいこともあるのに……。気をもむロベリアの前に、ようやくセドリックがやってきた。


「婚約破棄? ああ、やっぱりやめることにした」


 到着早々、セドリックは面倒そうに頭をかいた。


「マインとかいう女、顔は良かったけど、中身がだめだ。美人は三日で飽きると言うけどその通りだな」


 マインと一緒ならもっと自分が目立てる。そう思ってアタックしたセドリックだったが、長く付き合ってくると、そこに大した愛情もないことに気付き始める。婚約破棄を匂わせて得た興奮も、一か月もたてば完全に冷めてしまっていた。


 セドリックとマインはあっけなく破局した。熱々だった関係は、今ではむしろ険悪。学園では呆れの声が飛び交っているが、忙しいロベリアがそれを知ることはなかった。


「お前もラッキーだったな。僕に婚約破棄されずに済んで。そういうわけで、今回は予定通りの学期末パーティーを……」


「無理です」


「は?」


 セドリックは眉根をひそめる。


「婚約破棄を中止することはできません。こちらが今日のパーティーの予定です。ここでセドリック様は婚約破棄をお願いします」


 事務的な説明を続けるロベリアに、セドリックは一つの結論を出した。


「僕に捨てられかけたから意地を張っているんだな。そう頑固になるな、見苦しい」


「いえ、意地を張っているわけではなくて、本当に不可能なんです」


「だから、それはどういう……」


 その時――


「分からないなら私から説明しようか」


「叔父上!?」


 背後からやってきたルドヴィックに、セドリックは文字通り飛び上がった。ルドヴィックは関係者たちを引き連れており、その迫力にセドリックは震え上がる。


「今日のため、スポットライトに負けない衣装を特別に仕上げました!」

「お二人のために、愛の交響曲を書き下ろしました!」

「舞台を彩る花は、わざわざ遠い外国か届けさせています!」


 関係者たちはセドリックの周りを取り囲み、自分たちの力作を宣伝し始めた。


「え? え? 何だ? お前たち、何を言っている……?」


 間抜けな声を上げて戸惑うセドリック。


「我が国最高峰の職人たちが、君のためにずっと準備してきたんだよ。莫大な費用もかかったし、急な催しに間に合わせるためにかなり無理をさせてしまった。それでもみんな、素晴らしいパーティーのために協力してくれたんだ。本当によくやってくれたね」


 ルドヴィックの労いの言葉に、職人たちはうんうんと頷く。


「これくらい大掛かりなパーティーともなれば、宣伝効果も大きい。彼らへの報酬には宣伝分も入っているんだ。しっかり頼むよ、セドリック」


「そ、そんなことを言われても困ります! 婚約破棄はやめ……」


 ごねようとしたセドリックは、

「え、まさかやめるなんて言わないよね」

と、次の瞬間放たれたルドヴィックの絶対零度の台詞に、ひゅっと息をのんで押し黙る。


「婚約破棄を待っているのは彼らだけじゃない。パーティーの参加者、特に国内外の要人たちは前代未聞のこのイベントを非常に楽しみにしていてね。もちろん最初は当初の企画がなくなったことへの不満もあったよ。けれど、王子が真実の愛を貫く覚悟の表明と説明したら、それならば、と納得してくれたんだ。


 それを中止したとなれば、王家の信用はどうなることか。王子殿下が分からないはずがないよね。それともまさか、こんなに大勢を巻き込むという自覚もなく、軽い気持ちで婚約破棄パーティーがしたいなんて言ったのかい?」


 出た、とロベリアは思う。笑顔でめった刺しにしていくルドヴィックのこのモード。この時のルドヴィックは世界で一番怖いと言われている。


「私自身、自分が一年かけて作った企画を潰すくらい楽しみにしているんだ。素晴らしい婚約破棄パーティーをね。真実の愛とやら、ぜひ私に教えておくれ、セドリック」


 ルドヴィックは最後、満面の笑みでセドリックをぐっさり刺した。致命傷である。


「は、はい……」


 セドリックは半泣きで頷くしかなかった。


 いつものロベリアなら、セドリックに寄り添ったのかもしれないが、今の彼女はもう仕事人モードだ。目標はパーティーの成功。セドリックの個人的感傷に構っている暇はない。


「台本は直前にもう一度読んでおいてください。花吹雪が舞う演出や、七色の光が当たる演出の際には、タイミングをしっかり確認すること。合図は……」


 ロベリアの説明を受けながら、セドリックは壊れた人形のように頷き続けていた。



 そしてパーティーが始まった。


「……ロベリア、き、君との婚約は破棄する」


 ふらふらで宣言するセドリック。しかし、それを素晴らしい音楽が盛り上げ、大広間はロマンス劇の講演会場と化す。


「その婚約破棄、受け入れます。私も真実の愛に感動しました。お二人の幸せを心から祈らせていただきます」


 その後、二人の愛の軌跡が巨大なパネルに描かれた絵画と共に語られ始める。バックコーラスと楽団は継続。セドリックが指定した通り、極めて甘いストーリーに仕上げられている。


 さて、セドリックとマインはそれを見てどう感じていたか。はっきり言おう、地獄である。


 二人はとっくに破局を迎えている。その状況で、愛に狂って様子がおかしかった頃の黒歴史をノリノリで大公開されているのだ。これほどまでの公開処刑は他にない。


 さて、ストーリーの後は余興のクイズが始まった。


「さあ、セドリック様の告白の台詞は次のうちどれでしょうか!」

と、司会者が声を張る。


「①さあ、おいで僕のプリンセス。一緒に永遠の愛の国に旅立とう②この世界という舞台で、主役の僕の隣でスポットライトを浴びるつもりはないか③魔法をかけてやる。次に目を開けた瞬間、お前は僕のとりこになってるのさ。さあ、どれだ!?」


 観衆は盛り上がるふりをして大爆笑した。と言っても、クイズが始める前から彼らはニヤニヤ笑いを止められていない。破局した二人が公衆の面前でロマンス物語の真似事をするなんて、こんなに滑稽で愉快なことはないのだから。


 最後、衣装直しで純白の衣装に着替え、二人は永遠の愛を誓った。瞬間、天井から花びらが降り注ぎ、七色の光が舞台を埋め尽くす。交響曲はクライマックスで高らかに鳴り響き、それに負けじとコーラス団も美声を響かせる。本当にーー素晴らしい演出だ。


 割れんばかりの拍手と歓声の中、二人はゴンドラ(True Loveとの表記あり)で退場していった。二人は葬式のような表情をしているが、スポットライトのまばゆさが、そのかげりを完全に飛ばしている。


 かくしてセドリックとマインは、このパーティーで願い通り注目を浴びることができたわけだ。ただし、笑い者としてだが。


 良かった。パーティーは大成功だ。パーティーの合間もせわしなく働いていたロベリアは、集まった人々の笑顔に胸をなでおろしていた。しかしその時ーー


「さあ、次はいよいよ最後の催しです!」


 司会者の台詞にロベリアは目を見開く。こんな企画は知らない。主役の二人はもういないのに、いったい何が始まったんだろう。


「この楽しいパーティーを企画してくれたロベリア嬢! 壇上にどうぞ!」


 戸惑うロベリアに、いくつものスポットライトがあてられる。ますますわけがわからない。しかし、自然とロベリアの前は人垣が割れていき、彼女をステージの上へと導いていく。


 舞台の上にロベリアは今立っていた。会場中の視線が自分に集まる。初めてだ。自分はずっとここに立つことはないと思っていた。


「お疲れ様、ロベリア嬢」


 その時、舞台袖から花束を持って現れたのはーー


「ルドヴィック様……。やっぱりあなたの仕業ですか」


「おや、ばれてしまったかな」


 いたずらっぽい笑みを浮かべるルドヴィック。いったいいつから仕込んでいたんだろう。まったく、この方は私より何枚も上手だ。ロベリアは感嘆のため息をつく。


「……いいんでしょうか。私がここに立っていても」


「もちろん。みんなあなたに感謝を伝えたいんだ」


 そう言うと、

「ロベリア嬢に本日最大の拍手を!」

と、ルドヴィックは会場に声を張る。


 瞬間、会場を揺らすほどの巨大な拍手が沸き起こる。


「素晴らしいパーティーをありがとう」


 ルドヴィックから花束を渡され、思わず涙がこぼれそうになってしまう。みんな、私を見てくれていたんだ。ロベリアは花束を眺めるふりをして目頭を押さえる。


「私もとっても楽しかった。これからもこうやって誰かを笑顔にできる、そんな手助けができたらと思います」


 鼻をすすった後、ロベリアはそう言った。


「それなら今度、私の婚約パーティーを企画してくれないかな」


「もちろん……って、ええっ! ルドヴィック様、婚約されるのですか!? お相手は!?」


 寝耳に水の情報に、ロベリアは啞然とした。


「かなわぬ思いと諦めていたのだけれどね。やはり惹かれてしまうのを抑えられなくて。ありがたいことに、最近運も向いてきたみたいで。彼女の心を射止めるべく絶賛奮闘中だよ」


 彼にそんなに思う女性がいたとは……。まったく話題が出ないので、そういった感情がない人物なのかと思っていた。


「応援しております。縁談がまとまったらお声がけくださいませ。忘れられない素敵なパーティーを企画してみせます!」


 こぶしを握るロベリアに、

「あなたは本当に手強いね」

と、ルドヴィックは小さく肩をすくめる。


「え?」


「いいや、何でもない。企画、楽しみにしているよ」


 ルドヴィックは微笑んだ。


最後まで読んでくださりありがとうございました! 果てしなくどうでもいいかもしれませんが、パーティーで行なわれていたクイズの答えは②です。

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― 新着の感想 ―
「ねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」 ってウザ絡みする架空の小さな生き物が見えそうな婚約破棄ですね。
良い話風に纏まってるけど、王弟さん学長任されてるくらいだから少なく見積もっても20代中盤~後半くらい(下手すれば30代)で、それが学生のロベリア相手に…って思うとちょっとなぁ
まさかパーティー前に破局していたとはw これは良いざまあwww そしてパーティーの最期に王弟が主人公に告白しなかったのが、大人の余裕と配慮があって良かったです。
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