岐路に立つ宮廷
朝鮮を襲った疫病の影は、日ごとに濃くなっていた。
王室の権威の象徴である中宮殿。しかし、そこは今、傲慢と無知に包まれた孤立した島のようだった。内命婦のトップである中殿は、疫病の蔓延という危機を前にしても、己の体面と権威ばかりを気にしていた。
一方、就善堂は小さな灯りのようにかすかな光を放っていた。彼女の部屋に病人が少ないという噂は、宮廷の内外に静かに広がり、その声はついに、王室の安寧を誰よりも重んじる大妃の耳にも届いた。
大妃は、中殿の無能で無責任な態度、そして就善堂に向けられた密かな牽制をすべて見抜いていた。深く息を吐き、重い言葉を口にした。
「淑儀チャン氏の部屋は病人が少ないそうなので、その方法を見習い、他の部屋にも広く知らせなさい。」
これは、オクチョンの行動に対する暗黙の支持であり、中殿への無言の警告だった。中殿が果たせない役割を、側室であるオクチョンが担っているという事実を、大妃は誰よりもよく理解していた。この指示により、オクチョンの肩に重圧がのしかかる一方で、彼女の行動を後押しする強固な盾ともなった。
しかし、この均衡も長くは続かなかった。
宮廷全体を締め付ける黒い影は、ついに大妃の部屋にまで忍び寄った。数日前から微熱があった大妃は、ついに床に伏せてしまった。便殿に慌ててサンソン(尚膳)が駆け込んできた。
「殿下!だ、大妃様が…!倒れられたと…!」
知らせを聞くやいなや、粛宗の顔色が変わった。サンソンの制止も聞かず、大妃の部屋へと走っていった。だが、御医や内医院の者たちが、必死に彼を止めにかかる。
「お母様にお会いする。今すぐどかぬか!」
「殿下、どうかお考え直しください。もし殿下の玉体が傷つけば、国全体がさらなる混乱に陥ります!命令をお取り消しください!」
彼らの言葉は至って冷静だった。だが、王室の後継が定まらない今、粛宗に何かあれば、国は破滅する。頭では理解しても、心はついてこない。母のそばにさえ行けない無力感に、粛宗の瞳は絶望と悲しみで染まった。
同じ頃、中宮殿の王妃の部屋では
「何ですって?お母様が?!」
尚宮から話を聞いた中殿は、不快そうな様子とともに、ひどく葛藤する姿を見せた。震える手は、彼女の心の恐怖を物語っていた。
本来ならば、自分が駆けつけるべきだった。それが中殿の道理であり、嫁としての孝行だ。しかし、彼女は恐れに勝てなかった。
「誰も…誰も大妃殿に出入りさせてはなりません。そして内医院に、お母様を極めて丁寧にお世話しなさいと伝えなさい。」
それが、怯えた彼女にできるすべてだった。尚宮の眼差しには、当惑と混乱が浮かんでいた。
(私は…私は後継を繋がなければならない中殿ではないか。私に何かあったら、一族も無事ではいられない…)
彼女は、自分の情けない姿を正当化しようと、必死に心を固くした。中宮殿から一歩も出ず、自分の安否だけを考えた。
大妃が危篤だという知らせは、キム尚宮を通じて就善堂にも伝えられた。
オクチョンの眼差しが深く沈んだ。確かに、冷酷で厳しかった姑だった。だが、自分を宮廷の外へ追い出したとき、そして自分を見るたびににじみ出るかすかな微笑み、最後に粛宗と重なって見えたお茶目な微笑みが、頭から離れなかった。
そこまで思いが及ぶと、もうじっと座っていることはできなかった。
「キム尚宮、準備しなさい。大妃殿へ行くわ。」
「い、いけません、淑儀様!今回の疫病は…非常にひどいと…!」
絶叫に近いキム尚宮の声を聞き、オクチョンは一瞬ためらった。だが、宿種が気にかかった。何日も食事もとらず、苦しんでいる彼の姿が目に浮かんだ。
どうせ自分は死ぬ覚悟でいる。恐れるものはなかった。何よりも、彼の笑顔を失いたくなかった。彼女は、ただ、必死に懇願し、頭を地面から上げられないキム尚宮を、静かに見つめるだけだった。