忍び寄る亀裂の音
翠扇堂に漂うときめきとは対照的に、
宮廷の奥深くでは、微かな亀裂の音が響き渡っていた。
張玉貞が新しい住処で安らぎを見つけていく間、
内命婦と朝廷の権力構図には、知られざる波紋が揺れていた。
主上が不在の隙を突き、中殿は静かに大妃殿を訪れた。
遅い午後の陽射しが大妃殿の障子に長く影を落としていたが、
その中の空気は限りなく冷たかった。
中殿の端正な顔には一片の乱れもなかったが、
毅然とした姿勢で座る彼女の内面は、決して穏やかではなかった。
「お母様、ご機嫌いかがでございますか。」
「見ての通りでございます、中殿。」
大妃の声は、いつものように落ち着いていた。
中殿は礼儀を尽くして幾つかの挨拶を交わした後、慎重に本題を切り出した。
「淑儀張氏の冊封式が、お母様のご意向通り、従二品に留まりましたゆえ、
内命婦の混乱は一時的に収まったように見えます。」
彼女の声は少しの乱れもなく端正だったが、
その中には奇妙な皮肉がにじんでいた。
「ですが…宮廷のあちこちでは、いまだに不穏な兆候が漂っております。
朝廷の大臣たちも、今回の件で多くの懸念を表明していると伺いました。」
これは、大妃が正一品嬪の冊封を阻止したものの、
主上の心が依然として張玉貞に向かっているという事実に、
深い不安を必死に隠そうとするかのような態度であった。
中殿はにこりと微笑んだが、その笑みはひどく冷たかった。
張玉貞の存在がもたらすであろう波紋を、それとなく大妃に知らしめようとする意図だった。
大妃は何も言わずに、一口お茶を飲んだ。
彼女の視線は中殿には向かず、窓の外の古木に留まっていた。
静かな沈黙が大妃殿の中に長く続いた。
大妃の心の中では、複雑な思いが交差した。
王室の安寧と一族の未来のために、張玉貞を牽制しなければならないと分かっていながらも、
あの子供の剛健さが、どうにも気になっていた。
また、主上の並々ならぬ寵愛を受けるあの子供に、
軽率に手を出せば、より大きな災いを招きかねないことを知らないわけではなかった。
だが同時に、自身の嫁である中殿が、
この問題で過度に動揺する姿を見せないことを願っていた。
(主上のあの意地は…果たしてどこまで続くのだろうか。
あの子の運命は、もしかすると私にも分からない道を歩むことになるのかもしれない。)
彼女の眼差しに微かな揺らぎがよぎったが、中殿はそれに気づかなかった。
大妃は毅然と口を開いた。
「内命婦の紀綱は、中殿が治めるべき役割でございます。
そして朝廷のことは、主上と大臣たちが議論することでしょうから、
中殿はただ国母としての本分に忠実であればよいのです。
これ以上、この問題に心を悩ませてはなりません。」
大妃の言葉は、中殿の冷たい勢いを少し削いだ。
中殿はこれ以上話すことはないというように、頭を下げた。
大妃は嫁の不安をなだめながらも、
自身の決定と王室の体面を守る線で、明確な一線を引いたのだった。
その日の夕方、
薄暗い闇が漂う時間、
閔維重の私邸には、朝廷の大臣たちが集まっていた。
張玉貞の淑儀冊封を巡る議論は熱を帯び、
その中心には左相閔維重がいた。
彼の顔には、深い憂いとともに、煮え滾る怒りがはっきりと見て取れた。
「淑儀とはいえ、あの女はすでに嬪それ以上の影響力を持っておる。
主上の御心がこれほどまでに傾いておられるゆえ、手遅れになる前に手を打たねばなるまい。」
閔維重の声は低く抑えられていたが、
その中には断固たる決意が込められていた。
そばにいた何人かの大臣たちも、頷きながら同調した。
「左相大監のおっしゃる通りです。
このままにしておけば、内命婦の紀綱が崩れるのはもちろん、
宮廷内に南人派勢力の影が色濃くなるでしょう。」
「主上が張尚宮に注がれる寵愛は、度を超しております。
これは明白に国本の威厳を失墜させる行為です。」
しかし、皆が閔維重の意見に同意するわけではなかった。
一部の大臣たちは沈黙を守るか、微妙に異なる見解を示した。
張玉貞の勢力が予想よりも早く成長しているのを見て、
軽率に動けば、かえって逆風を食らうかもしれないという不安感のためだった。
「左相大監、主上の御心に逆らうことは危険千万なことでございます。
時を待つべきかと存じます。」
一人の大臣が慎重に口火を切った。
閔維重の眉がぴくりと動いたが、彼は辛うじて不快感を隠した。
この場にいる者は皆、西人派勢力の核心であったが、
張玉貞という変数の前で、微かな亀裂が生じ始めていた。
「時を待てば、全てを失うであろう。
主上の寵愛が手に負えないほど大きくなる前に、必ずや手を打たねばならん。」
閔維重の声はさらに低くなり、
彼の眼差しは冷たく輝いた。
「もうこれ以上、ただ見ているだけではいられん。」
重く沈んだ声に、大臣たちはもう何も言うことができなかった。
静寂だけが降り立った私邸の夜。
窓の外に伸びる木の影は、まるで巨大な影が宮廷へ這い上がっていくかのようだった。
もう決して引き返すことのできない、
歴史の一ページが、音もなくめくられていた。