表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第二章 破局の始まり、そして深まる心
86/129

君を想う




交泰殿キョテジョンを出る私の足取りは、この上なく軽やかだった。

明るい昼の陽射しの中、くすぐるように吹く風に、

スカートの裾がひらひらと揺れる。

背中に突き刺さっていた中殿チュンジョンの視線も、

従二品・淑儀スグィという品階の重みも、

今のこの瞬間だけは、何一つとして私を圧し潰すことはできなかった。

ただ、殿下の御心と、彼が与えてくれた新しい住処、

翠扇堂チュイソンダン」へのときめきだけが、心を満たしていた。


あの夜、彼が私にくれた殿閣と、指で輝く白玉の指輪、

そして何よりも大切な殿下の心まで…

全てが私を包み込んでくれるようだった。


翠扇堂へ向かう道すがら、

尚宮サングンや女官たちが慌ただしく私を迎えた。

普段は感情をあまり表に出さないように努めているキム尚宮は、

鶏の涙のように大粒の涙をポタポタと流し、

チョン女官とソ女官は、感激のあまり互いを抱き合っていた。


「ママ様!ママ様が…ついに…後宮にお上がりになられました…!」


キム尚宮はわんわんと泣きながら、私の手を握り、離そうとしない。

体面を保つべきだという普段の振る舞いとは異なり、

鼻水まで啜っている姿に、私は小さくため息をつき、彼女の背中を軽く叩いた。


「キム尚宮、もう泣くのはおよしなさい。私、まだ生きておりますのよ。」


「何と大それたことをおっしゃいますか!ママ様は、これから花道だけを歩んでいかれるのです!

誰がママ様を非難できましょうか!殿下がこのように熱心でいらっしゃるのに!」


チョン女官とソ女官もキム尚宮の隣にぴったりと寄り添い、涙を拭った。


「そうでございます、ママ様!どれほど感激したことか、

教旨の内容を聞いた瞬間、涙が前を遮り何も見えませんでした!」


「淑儀ママ様!これからはママ様の厳粛なご命令だけを承ります!」


大げさなようでいて、真心がたっぷりこもった彼女たちの反応に、

結局、笑いがこみ上げてしまった。


(私がどうなるか知ったら…あなたたちはどんな反応をするかしら。)


たとえ、先が見えている未来が待ち受けていたとしても、

少しは大丈夫な気がした。

不安定な運命の中でも、彼女たちがくれる温かい絆は、私にとって大きな慰めになった。


「さあ、もうやめて、翠扇堂へ入ってみましょうか?

ここが私の新しい住まいだというのに、待ちきれないわ。」


私の言葉に、キム尚宮はいつ泣いていたのかというほど素早く涙を拭い、先頭に立った。


「ママ様、さあお越しくださいませ!翠扇堂は昼も夜もママ様をお待ちしておりました!」


キム尚宮の大袈裟な様子に、チョン女官とソ女官もキャッキャッと笑いながら後に続いた。

彼女たちの笑い声が、翠扇堂へ向かう道を一段と明るく、軽快なものにした。


ごくわずかに悲しい風が、ひらりと私の頬を撫でて通り過ぎたが、

今日だけは知らないふりをすることにした。


その頃、便殿。


粛宗は上膳サンソンから、交泰殿での出来事を報告させていた。

張玉貞が後宮に冊封される過程、

そして、その最中の中殿の様子がどうだったかまで。

上膳は、恐る恐る彼の顔色を窺いながら、慎重に報告を続けた。


「淑儀ママ様のお顔には、一片の陰りも見られませんでした。

むしろ以前よりも、さらに堂々とされたご様子で…。」


彼は上膳の言葉が終わる前に、静かに微笑んだ。

淡々としているように見えたが、

その深い眼差しに宿る満足感は隠せなかった。


(やはり、そなたは私が最もでる花だ。)


嬪の地位を強く主張したが、

大妃の強力な反対と朝廷の世論は、無視できない壁だった。

しかし、淑儀の品階を得たのだから、

これで彼女は名実ともに王の女となり、

内命婦の一翼を担う存在となった。

もう誰も、むやみに彼女に手出しはできないはずだった。


彼は上膳に下がるよう命じ、席を立った。

すぐに向かった先は、翠扇堂ではなく、宮廷のひっそりとした庭園だった。

遠くから翠扇堂へと明るく続く道と、その道の先で

明るく輝く彼女の姿を、微笑ましく見つめるつもりだった。


遅い午後の柔らかな陽射しの下、

翠扇堂の庭先で、張玉貞が女官たちと満面の笑みでいるのが見えた。

キム尚宮の大げさな泣き声にも、不満一つ言わずに

明るく笑う姿は、

真に、どの女人よりも美しかった。

彼女たちの笑い声が、風に乗って微かに聞こえてくるようだった。


粛宗の口元に、自然と笑みが浮かんだ。


(ああ、このままでもいい。まだ始まりにすぎないのだから。)


品階が何であれ関係なく、

彼女が自分のそばにいるという事実が重要だった。

やがて朝鮮でただ一人、頂点に立つ女となるのだから。


彼は満足そうな微笑みを浮かべたまま、静かに足を引き返した。

翠扇堂の灯りが、遅い午後の陽射しの下で温かく輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ