折れぬ刃
晩秋の陽が、早くも西の空に傾いていた。
深く差し込んだ障子の光には、
赤い夕焼けの代わりに、ぼんやりとした影だけが映っていた。
少しずつ押し寄せる闇の中で、左相閔維重の私邸は
閃光のように明るく灯りをともしていた。
普段ならば全ての家族が眠りにつく準備をしている静かな時間、
大監の愛の部屋は、不穏な緊張感に満ちていた。
彼は焦燥に駆られ、部屋の中を行ったり来たりしていた。
赤い絹の座布団の上にきちんと置かれていた何冊かの本は、
すでに散乱し、床に転がっていた。
しわの寄った手が何度も腰元を掴んでは離すことを繰り返した。
明け方早く、夜が明ける前に急いで訪ねてきた中宮殿の尚宮が伝えた言葉のためだった。
「…張尚宮を嬪に冊封なさるという殿下のご命令がございました。」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が奈落へ真っ逆さまに落ちるようだった。
(賤しい出自のくせに、よくも正一品の嬪などと。)
王室の法度と紀綱を根こそぎ揺るがすことだった。
閔氏一族の名誉と西人派勢力の基盤を、
根こそぎ脅かす破格の寵愛であった。
怒りが血を逆流させたが、
すぐに冷静な理性が彼を抑えつけた。
今は感情に流される時ではない。
どうにかして阻止しなければならない。
どんな手を使ってでも、その下賤な女を再び宮廷の外へ追い出さなければならない。
静かな夜、彼の頭の中は複雑な策略で満ちていた。
その時だった。
門の外から慎重な気配が聞こえたかと思うと、
影のように彼の部下が頭を下げて入ってきた。
玉のような汗がびっしりと浮かんだ部下の顔は、緊迫した知らせを推測させた。
「大監、ご指示の件、調べてまいりました。」
閔維重は慌てて手を振り、尋ねた。
彼の声はいつもの威厳を失い、微かに震えていた。
「それで、どうなったのだ! 大妃ママ様はお許しになったと申したか!」
部下はひどく萎縮した顔で頭を下げた。
小さな声が、部屋の中の緊張感をさらに増幅させた。
「それが……
殿下が大妃ママ様のご許可を得られたとのことでございます。
大妃ママ様はたいそう強硬でいらっしゃったので嬪の座は阻止なさいましたが……」
閔維重の眉がぴくりと動いた。
固く結ばれた唇の間から、深く息を吸い込んだ。
「嬪の座は? では、何に決まったというのだ!」
部下はぎゅっと目を閉じた。
「従二品、淑儀に冊封なさるそうでございます。」
(まさか…。)
その言葉に、閔維重の顔から血の気が失せた。
まるで世の中の全ての音が、一瞬にして止まってしまったようだった。
「止めねばならん…止めねばならん!あの妖しい女が後宮の座まで上がれば、
中殿ママ様の座が危うくなるというではないか!」
理性を失ったかのように身震いし、声を荒げる閔維重を見て、
使用人が少しひるみながら言葉を続けた。
「大監…冊封式が…明日とのことです。」
「明日」という言葉に、頭をハンマーで殴られたかのような虚脱感が押し寄せた。
何かを阻止する暇もなく、すでに全てが決定されてしまった現実。
彼の目は、ぼんやりと虚空を見つめた。
南人派の勢力を牽制するためにあらゆる精神を注ぎ込んでいた状況だったので、
中殿を信じてしばらく放っておいたところ、
最も厄介な問題が、刃のように自らの喉元を狙っていたのだった。
遠くから聞こえてくる蝉の声さえ、遠い彼方に感じられるようだった。
彼の肩が微かに揺れた。
「明日……?明日だと……?」
彼の声が震えた。
その虚脱感は、やがて凄まじい怒りに変わった。
「主上…これほどまでに急ぐ理由は何なのだ…。」
体がぶるぶると震え、痩せこけた唇が小刻みに動いた。
(よくもまあ、下賤な者が王の寵愛を笠に着て、ついに宮廷の高い地位に座ろうとするとは。)
「中殿ママ様は何をなさっていたのだ!」
怒鳴り声を上げる彼の前で、部下は
ただ頭を下げて狼狽えるばかりだった。
「このまま黙って見ているわけにはいかない。
どうにかして再び宮廷の外へ追い出してやる。」
低く抑えられた彼の声には、冷たい殺気さえ染み込んでいた。
真夜中、冷え切った空気が愛の部屋を包んだ。
閔維重の眼差しは冷ややかに燃え盛っていた。
すでに決定された運命の鎖の中で、何もかもが折れない刃のように、
絶えず彼女へ向かって動き続けていた。