交泰殿の嵐、応香閣の安息
中宮殿の奥深くの部屋、
細い灯火の下、月光さえも息を潜めていた。
軒を越えた風は静かに宮廷の塀をなぞって通り過ぎ、
暗い気に遮られて止まったかのように、
息遣いさえ消えた静寂が部屋の中を包んだ。
「中殿ママ様、閔維重大監がお目通りを願っております。」
破られた静寂の上で、
静かに茶を飲んでいた中殿の手がぴたりと止まった。
そして何かを直感したかのように、しばらく考えた後、彼女の唇が開いた。
「通しなさい。」
戸がガラッと開いた。
黒い道袍の裾を風のように翻して閔維重が入ってきた。
その眼差しは荒々しく揺らめき、後からついてきた部下が慎重に戸を閉めた。
その戸の向こう、静かな部屋の中には中殿 閔素衣が一人座っていた。
「なぜ張尚宮を宮へ迎え入れることをお許しになったのですか、ママ!」
不意に爆発した彼の声は、抑えられた怒りで震えていた。
雷のような叱責に中殿の肩がわずかに揺れたが、頭は上げなかった。
彼女は静かに座ったまま、杯に茶を注いでいるだけであった。
閔維重はさらに近くへ歩み寄った。
柔らかだった気配が、床を押すように重くなった。
「ママ様はご存知でいらっしゃったのですか?主上が…
あの張尚宮を、再び宮へ迎え入れようとしている事実を。」
中殿は何も言わず茶碗を手に取った。
指先の小さな震えがガラスの器を鳴らし、
その響きが夜の空気を断ち切るように鋭く漂った。
しばし沈黙が流れた。
茶碗を唇にあてた中殿は、ゆっくりと視線を上げ、閔維重を見つめた。
その眼差しには、何かを押し込めたような重みと自尊が宿っていた。
疲労と苦労の中でも彼女は品位を失わなかった。
その瞬間、
閔維重の目が細く震えた。
疑惑が心の中に芽生えた。
「まさか…殿下と取引をなされたのですか?」
言葉の終わりが風のように震えて散った。
部屋の灯火がかすかに揺らめき、中殿の瞳がわずかに揺れた。
しかしその震えの後ろには、冷たく硬い決意があった。
彼女は静かに杯を置き、やがて穏やかに口を開いた。
「チャン氏が宮に入ったとて、中宮殿は揺らぎません。」
閔維重は一瞬言葉を失ったように中殿を見つめた。
彼女の顔には動揺一つなく、むしろ硬い自尊心が見て取れた。
中殿は静かに頷いた。その眼差しには、冷静な明瞭さが宿っていた。
「殿下が何を望まれようと、私は朝鮮の中殿であり、陛下の女です。
大監がその真実を最もよくご存知だと信じます。」
彼女の言葉は鋭い刃物のようで、閔維重の胸に突き刺さるかのようだった。
「ですが、小臣に一言の相談もなくそのような決定を下されたことは…
ママ様を支えてきた者として、失望が大きうございます。」
中殿は落ち着いて視線を伏せたが、やがて再び閔維重を見つめた。
その眼差しには諦めではなく、確固たる信念が宿っていた。
「チャン氏はただの一介の尚宮に過ぎません。
畏れ多くも私の座を窺うようなことはないでしょうし、
たとえ窺おうとしたとしても、許しはしません。」
しばし言葉を止めた彼女は、灯火の下で細い手を広げ、茶碗をそっと撫でた。
「殿下は朝鮮を顧みねばならず、
私は宮の法度と秩序を守らねばなりません。
どうせこの決定は、誰かがなすべきことでした。
私の手で、決して越えられぬ線を先に引いただけのことです。」
彼女の声には淡々とした決意が染み込んでいた。
自身の心を見透かすような言葉でありながら、聞く者を圧倒する重みがあった。
閔維重は怒りと切なさの間で揺れるように視線を落としたが、やがて中殿を睨みつけた。
「そうだとしても、チャン氏によって朝廷は揺れるでしょう。
殿下のご寵愛が引き続きあの女に行くならば、中宮は揺るがないと信じられますか?」
彼女はその言葉を最後まで聞かなかった。きっぱりと話を遮るように口を開いた。
「大監、中殿の座は一介の寵愛で得られるものではないことを
よくご存知ではありませんか。」
これ以上言葉は不要だという眼差しであった。
「男の寵愛を侮ってはなりませぬ。
今後はさらに言葉の一言、行動の一つ、指先を動かすこと一つに至るまで
よくお察しにならねばなりません。ママ様。」
閔維重は長い息を吐き、深く頭を下げた。
諦め交じりの息遣いだが、その中には依然として対抗策を胸に秘めた重い決意が感じられた。
彼が戸を出る頃、灯火の下で冷ややかに揺れる眼差しをちらりと投げかけると、部下に向かって低い声で言った。
「対抗策を探せ。チャン氏をこの宮廷の中に置いてはならぬ。主上の寵愛を笠に着て朝廷を揺るがすだろう。」
彼の影は長い廊下を過ぎ、闇の中へと消えていった。
夜はさらに深まっていた。
その頃、宮廷の反対側。
応香閣の部屋の中は静かだった。
暗い障子の向こうには、小さな灯火だけが微かな光を放ち揺れていた。
遠い空には雲が満ち、星の光は跡を消したが、
その闇さえもこの部屋の暖かさを覆うことはできなかった。
玉貞は静かに目を開けた。
目覚めたばかりの息遣いの中、天井を見上げながら、
その隣に感じる温かさに彼の懐に潜り込んだ。
夜明け前まで執拗に彼女を追い詰めた粛宗も、
気絶するように眠り込んでしまった彼女を、
名残惜しそうに離せないでいた彼もまた、
深い眠りに落ちていた。
端正な息遣いが感じられ、
粛宗の指先が彼女の手を静かに握っていた。
眠った彼の顔は穏やかだった。
王という重みも、朝廷での戦いも、顧みなければならない民心も全て下ろし、
彼女のそばに寄りかかりぐっすりと眠り込んでいた。
彼の衣の裾が乱れて彼女の手の甲を覆っており、
その温かい感触が夜の現実を呼び覚ました。
彼女は息を殺して微笑んだ。
胸の奥底から広がる奇妙な感情は、
恐怖とときめき、諦めと安堵が一つに絡み合ったものだった。
彼女の胸の一方には依然として、結末を知っている悲しい予感がうずくまっていたが、
この瞬間だけは、それを取り出さないことにした。
彼女は彼の手をもう少し強く握った。
この夜が終われば、再び全てが始まるだろうが、
今はただ一つの心で彼のそばに留まっていたかった。
外では風が静かに軒をなぞって通り過ぎた。
その間に梅の葉が一つ、静かに風に乗って窓の隙間をかすめ、部屋の中に落ちた。
夜は深かった。
そして二人はその静かな深淵の中で、お互いの息遣いに身を任せていた。