傾く陽、交錯する心
陽が宮廷の塀の向こうにゆっくりと傾いていた。
便殿の中には低い灯火だけが灯っていた。
風の一筋すら染み込まぬ静寂の中で、
粛宗は机に座り、重厚な紙切れ一枚を見つめていた。
閔素衣、いや、もう中殿と呼ぶべき者が
彼に送った短い書信。
「張尚宮を応香閣にお迎えくださいませ。
就善堂の整備が終わり次第、後宮の牒紙をお渡しいたしましょう。
全ての段取りに滞りなきよう、礼曹に殿下のお志をお伝えいたします。」
紙片一つに込められた言葉は整えられていたが、
その中に込められた意図は明確であった。
最初からこれを巡って始まった取引であった。
粛宗は紙を見下ろすと、
ゆっくりと、笑いなのか溜息なのか分からぬ声を漏らした。
冷たい微笑が口元に掠めた。
しかしすぐに眼差しは深い闇を湛え、
徐々に赤く染まる夕焼けの彼方へと流れていった。
(ようやく。)
喉元を伝ってこみ上げる名一つに、
胸の奥で静かに煮えたぎっていた感情が揺らめいた。
入宮。
再び彼女を、宮へ迎え入れる日。
目を閉じた。
この夜は長い夜になるだろう。
彼女に再び向き合うことを思うと、
心臓が動揺するように高鳴った。
重い責任と、凄まじい愛の間で、
彼は結局愛を選んだ。
一体彼女の存在が何なのだ、
これほどまでに自分を狂わせるのか、まるで理解できなかった。
(…今夜は、
眠れそうにないな。)
障子の向こう、薄暗くなった空が
徐々に黒く燃え上がった。
◆◆◆
同時刻。
窓の外には細い三日月が懸かっていた。
風はなく、
秋を感じさせる夜の空気と虫の音が
部屋の中をそっと叩いていた。
カタン。
戸の音がした。
キム尚宮が慎重に戸を開けた。
「ママ、只今書信が届きました。」
急いで入ってきた彼女の手に
赤い糸で封印された小さな巻物が握られていた。
キム尚宮が口を開いた。
「明日直ちに入宮せよとの御令でございます。
後日、後宮の牒紙を下し、就善堂へお移しになるとのことです。」
言葉の終わりが少し震えた。
しかし彼女は平静を失わないよう努めた。
私もその言葉を聞いたまま、
しばらくの間、何も発することができなかった。
入宮。
あれほど望みながらも、
あれほど避けたくてたまらなかった言葉。
もう逃げ場はなかった。
粛宗の顔が浮かんだ。
あの夜、枕元で囁いた低い声。
「宮に戻り、私の傍にいろと言ったではないか。これ以上何を申す必要がある。」
そうだ、
あの笑み、
あの眼差し一つに、
私は全てを受け入れると決めたのだ…。
「キム尚宮。」
「はい、ママ。」
そっと私を見つめる彼女の姿に
ゆっくりと言葉を続けた。
「今の私の姿はどのようなものか。」
彼女は頭を下げた。
「これ以上なく端正で、お美しゅうございます、ママ。」
口角がわずかに上がった。
やはりキム尚宮らしい。細やかで、静かな人。
私の不安を読み取ったのだろう…老練な人だ。
近くに寄ってきて私の前に書信を置くと、
すぐ傍に座り、慎重に尋ねた。
「ママ…大丈夫でいらっしゃいますか。」
心配が滲む声。
窓を眺めた。
障子の向こうから吹き込む風が
宮から押し寄せてくるようだった。
愛が始まった場所、
しかし血生臭さが漂う場所。
長く息を吸い込んだ。
「大丈夫でなければならないわね…。」
言葉の終わりが窓の外の風に従って流れた。
月光の下、あの人の微笑みを思い浮かべながら、
考えた。
やってみよう…あの運命…愛…行けるところまで最後まで行ってみよう。
二人の心は言葉もなく、真夜中の沈黙の中で重く触れ合っていた。