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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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雨夜に、心がほどける


夜だった。

障子の外から、かすかな雨音が聞こえていた。


布団を首元まで引き上げたまま、息をひそめる。


一つだけ灯された蝋燭が、揺れる心のように静かに揺らめいていた。


煮えたぎる湯のように、落ち着かない心に、

不安と、名前のつかない感情が一気に押し寄せてくる。


ここ数日、宮中では噂が絶えなかった。


「殿下が、チャン尚宮を中宮にと望んでいるらしい」

「ミン家が猛反対しているそうだ」

「大妃様が直接お動きになるとか……」


——その話に、どこか胸がざわめいた。


いっそ仁顕王后が冊立されて、

私は静かに忘れられて、毒を仰いで元の世界へ戻る。


そんな完璧な筋書きだけが、支えだったのに。


……現実は、いつも予定通りにいかない。


その理想的な結末を心で繰り返し唱えていたとき、

まどろみの中、ふと誰かの指が腕に触れた。


「チャン尚宮」


囁くような、慎ましい声だった。


目を開けると、ひとりの尚宮が顔を覗かせていた。


「誰かがいらしてます。すぐに外へ——」


……こんな夜中に?


戸惑いながらうなずき、身体を起こす。

布団を握る指先が、微かに震えていた。


上着を羽織り、扉を開けると、

冷たい夜気が肌を撫でていった。


雨が降っていた。


そしてその前に——


堂々たる佇まいの尚膳が、立っていた。


私は思わず頭を下げる。


「チャン尚宮、殿下がお呼びだ。ついて来られよ」


……え?

また……ですか。

はぁ……。


静かに頭を垂れ、足音を忍ばせてその後を追った。


庭には薄く霧がかかり、

灯りさえ灯されていない闇の中、


ただ淡い月明かりだけが地をなぞっていた。


そして、その庭の中央に——


粛宗が立っていた。


黒い道袍が、風に揺れていた。


「オクジョン」


その声は低く、

そこに宿る感情は——あまりに、明瞭だった。


息が止まりそうだった。


「この時分に……何故ここに、殿下……」


私の問いに、彼は静かに歩み寄ってきた。


手を伸ばせば届きそうな距離まで。


「そなたに会いたくて、来た」


……呼吸困難。


これは心臓に悪い。


なんでこの顔で……この台詞を……この時間に……。


私は本能的に一歩後退すると、

彼は動きを止め、じっと私を見つめた。


長い睫毛の向こうに、月がかかるように光っていた。


「そなたは私を忘れたと言うが——」


その手が、そっと私の髪先に触れた。


「……目は、まだ覚えているようだな」


これ、毒じゃなくて

完全に恋に落ちるルートじゃないか。


息が詰まる。


私は知っている。


自分の妙な振る舞い——

言葉づかいや、落ち着きのない行動——


それがどうやら“愛らしい”と取られていることも。


そしてこの人は——

すべて、見ていて、聞いているのだろう。


粛宗は、静かに私の手を引いた。


その体温が、月光の下ではっきりと伝わってきた。


「そなたが私を突き放し、目を背け、距離を取っても——

私は、そなたの中に残る“私”を見る」


心臓が……うるさいほど鳴っていた。


「私はもう、記憶の“彼女”よりも、

今のそなたを、求めてしまった」


彼は私の指を、そっと包み込んだ。


「そなたが誰であろうと、

今ここにいる“そなた”なら——また、恋をする」


胸の鼓動が、止まったようだった。


何かが崩れていくように、感情が溢れ出す。


その目が語っていた。


“彼女”ではなく、“今”の私を見ていると。


その真心が、熱を帯びて押し寄せてくる。


頭の中が真っ白になった。


そのとき——


彼のあたたかな手が、私の顎をそっと持ち上げた。


柔らかな唇の温もりが、私の額に触れた。


軽やかでいて、確かな温もり。


冷えた夜気の中で、

私たちを包んだのは、


ただ、互いの吐息と、

心の音だけだった。


「だから……私を、恐れなくていい、オクジョン」


私は静かに、目を閉じた。


この人のせいで——


毒ではなく、

恋に落ちてしまいそうだった。


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