夜の謀略
秋の香りが濃くなる中、
深い静寂の中、草の虫の音だけが聞こえる夜であった。
部屋には香がほのかに焚かれ、
その傍らで灯火の光が静かに瞬いていた。
殿下のお召しを受けて便殿へ向かう道。
便殿の前庭には夜霧が薄く立ち込めていた。
賑やかだった中殿の冊封式以後、宮全体が静まり返っていたが、
その静けさは平穏というよりは──
異様なほど統制された緊張感であった。
内官の慎重な案内に、
乱れた道袍の裾を落ち着いて整えた。
便殿の灯火は冷やかであった。
まさに、必要な分だけが燃やされているようなこの空間は、
その主の気質をそのままに宿していた。
彼は机の前に座っていた。
「小臣、張希載、殿下にお目通りいたします。」
最初はしばし顔を上げ、軽く頷いた。
「座れ。」
簡潔で端正な音声。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
静かに席に着いた。
彼が手にしていた筆を置いた。
空っぽの紙の上には
墨の一点すらもつけられていなかった。
「そなたが玉貞の元へ頻繁に出入りしていると聞いた。」
最初の話題は張尚宮であった。
短く微笑んで見せた。
その言葉が──単なる安否の問いではないだろうから。
「私邸に一人でいらっしゃる張尚宮ママ様が退屈なさるかと存じ、
小臣、時折ご機嫌を伺うております。」
彼が眉を微かに上げた。
「私邸…そうか、私の私邸にいるのだな。」
言葉の終わりがゆっくりと沈んだ。
その中には意味が込められていた。
宮の外に長く留めておくわけにはいかないという意志。
そこでようやく、彼がこの夜私を呼んだ理由を察した。
「もしや…小臣が存じ上げぬ…お志がおありでございますか…。」
粛宗は答えなかった。
ただ視線をそらし、灯火の向こうを遠く見つめた。
「就善閣を手入れさせた。」
その一言を短く投げただけであった。
(すぐに迎え入れるという意味か。)
頭を下げていながらも、
言葉の綾を一つ一つ解きほぐしていた。
そして──
中殿についての言及は一言もなかった。
慎重に口を開いた。
「では、中殿ママ様は…この事実をご存じでいらっしゃいますか。」
彼は再び、沈黙した。
長く、硬質な沈黙。
「既に事前に話し合われたことだ。」
私は音もなく笑った。
中宮の座は与えたが、心は与えなかった。
愛さぬ女を中宮に据えた。
(結局、中殿の座を巡って取引をしたのだな…
私の妹の安否を人質に…。)
以前、すれ違いざまに見た閔素衣の姿を思い出す。
(高潔で自尊心高い両班の御令嬢…
さぞかし自尊心が傷ついたことだろう。)
笑いを飲み込んだ。
妹の待遇が改善されるのは兄として嬉しいことでもあったが、
やはり主上の心が中殿にないことを
確認できたのは、より大きな収穫であった。
彼の次の言葉は、少し意外であった。
「そなたに訓練大将の職を与えよう。」
予想外の変異に思考回路が一時停止した。
これは…。
「…殿下…臣が敢えて何を…。」
「朕が任せたいのは、単に剣ではない。
張大監、そなたの目と耳が宮の外まで届くことを望む。」
その言葉に、私は静かに手を合わせた。
南人の大臣たちと接触するにあたって、何の地位もない
身分で、ただ寵愛を受けている張尚宮の兄というだけでは
足りない場があまりにも多かった。
(おそらくそういうことを計算して動かれているのだろうな…まったく…
どこまで計画していらっしゃるのやら…。)
「臣、もったき極まりなき幸せにございます。」
彼の意図を正確に理解した。
そして喜んでその役割を担おうと、
頭を下げたが、
なぜか滲み出る違和感に
口元にゆっくりと、少し歪んだ笑みを浮かべた。
「殿下は張尚宮ママ様をお迎えになることで、
宮廷に小さな亀裂を入れようとなさっているように見えますが…。」
その言葉に、
王の眉間が瞬時にぴくりと動くのを感じた。
そして視線をゆっくりと上げ、初めて私を真正面から見据えた。
細長い目元、抑制された表情、
しかしその中に宿る奇妙な満足感。
「そなたは確かに、口を慎む者ではないな。」
確かであった。
口調から感じられるわずかな安堵感。
彼を見て短く微笑んだ。
「ですが…時には言葉より行動の方がより慎重であるべきではないでしょうか。」
粛宗は笑わなかった。
ただ、首を非常にゆっくりと、
非常に重々しく頷いた。
席を立った。
そして戸の前で一度、振り返った。
「小臣、殿下のお志を奉じ、さらに精進いたします。」
粛宗は何も答えなかった。
その姿を見つめてから、
礼を整え、戸を出た。
外の空気が違っていた。
夜はさらに深まり、
月光はいつにも増して冷たかった。
王は剣を抜かなかったが──
戦場には既に剣の気配が満ちていた。
そして私は、
その剣が向けられる方向を眺めながら、にやにやと笑っていた。
おそらく密かに楽しんでいるのかもしれない。
(…そうだ、全くどうかしているわね。私という人間は。)