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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第二章 破局の始まり、そして深まる心
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夜の帳




夜の空気が薄い肌を伝って入り込んだ。

戸は閉ざされていたが、

オンドル*の奥から冷やかな風がゆっくりと広がる。

いつの間にか秋の気配が感じられる季節へと移り変わっていた。

風に揺れる灯火の光が一つ、

ゆらゆらと舞い踊り、

その朧げな光の向こうで、

私の心もまた揺れていた。


今日、

中殿チュンジョン冊封チェッポン式が執り行われ──

今この刻限、初夜が執り行われている。


分かっている。

(おそらく殿下は中殿に触れはすまい…。)


安堵あんどしながらも、こんなで良いのかと思うほどに

心がしずまった。

朝鮮の未来を思えば、中殿が次の後継ぎを産むのは

当然のことであった。

それにもかかわらず、口の中に広がるほろ苦い感覚は

どうすることもできなかった。


(そういえば…仁顕王后イニョンワンフには子がなかったのではなかったか?)


歴史の全てを知っていながらも、その道のりはあまりにも長く、

ひょっとしてこのまま流れず変わるのではないかという

懸念に、無意識のうちに体に力が入った。


ふぅ…頭が複雑だわ…。


息を吸い込み、長く吐き出した。

分かっていた。

こうなるだろうと。

誰が中殿に選ばれようと、

彼の心が私にあっても、

胸からこのような苦いものがこみ上げるだろうということを。

だが──

思考というもの、

感情というものには、

理性を追い越して先に辿り着いてしまう時がある。


粛宗スクチョン

私が愛した人。

そして張玉貞チャン・オクチョンが愛した人。


そう。これは私が選んだ道。

中宮チュングンが満たされてこそ国が安定するだろうし、

彼が守るべき場所もまたそこなのだろうから。

もちろん歴史通りならば数知れぬ政争に巻き込まれるであろうが…

詳細な感情や事件までは歴史には記されていなかったから…。


そう頷きながらも、

なぜこれほど胸が痛むのか。

思考が胸に降りてくる途中で喉元に詰まってしまったのかもしれない。


(…このままでは本当に中殿に心が移ってしまうのではないかしら?)


その考えに、またもや胸が詰まった。

布団を引き上げた。

両目をぎゅっと閉じ、

心の中で言った。


張玉貞、そなたは何者か。


稀代の悪女、その名で歴史に残る女なのか、

それとも──

ただ一人の男の女として生きたいと願う、

私的な愛を抱いた女なのか。

大妃テビも、朝廷も、ミン氏一族も──

皆、それぞれの立場を守るというのに…。

そなたは愛に突き進んだのか、

それとも権力に突き進んだのか。

あるいは私とは違う心であったのか。

今の私はただ…

彼の傍にいたい。

宮を揺るがす妖婦ではなく、

ただ──

その人の隣を守る者として。


◆◆◆


徒に考えが深まり、心が沈んだ。

あの日の、背を向けて去っていった彼の後ろ姿を思い出す。

振り返ることなく語りかけたその姿。

そして甘い時間を過ごしたあの朝まで。

ゆっくりと障子を見た。

あの人も今、

私のことを考えているのだろうか?

あるいは

彼女の手を握り、

私の名をしばし忘れているのだろうか。

窓の外には月が浮かんでいた。

雲に半分隠れた丸い月。

少し寂しげな姿であった。


私は静かに呟いた。


「張玉貞…そなたはどうしたいのだ。」


…心から。

本当にどうしたいのだ、私よ…。


無意味に荒れ狂う感情の波に押し流されていたその時、

戸の外から気配がした。


「ママ、キム尚宮サングンにございます。」


ん?こんな夜更けに?


突然の気配に、物思いに沈んでいた重い体を起こした。


「お召し上がりくださいませ。」


明るい顔で入ってきたキム尚宮の手には

こんもりと美しい果物と茶菓タガの膳が載っていた。

続いてチョン内人ナインとソ内人の足音も慎重に続いた。

急いで布団を直して被った。

目元が少し濡れているのを悟られたくなかった。

三人とも何も言わずに部屋に入ってきては、

誰よりも温かい手つきで私を気遣ってくれた。


「ママ、冷気が身にしみ、体が沈みがちな夜にございます。」


キム尚宮が慎重に膳を置きながら言った。


「冷たい気が巡る時こそ、温かさをより深くお抱きにならねばなりません。」


そして注がれた温かい茶まで…。


ああ…キム尚宮、また心をじん、とさせるわね…。

無理に口角を引き上げた。


「大丈夫よ、キム尚宮…。殿下が私だけを抱きしめていられるようなお立場の方ではないのだから…。」


苦笑いを浮かべる私を見て、チョン内人が不平を漏らした。


「まったく、ママが『私が中殿の座をいただきましょう!』と仰せになっていたら、殿下もこのようなご決断はなさらなかったでしょうに!」


(現実的なウンヨン…そなたらしいな。)


その言葉の後にキム尚宮が「シーッ」と静かに促す音と共に、後の言葉が途切れる様子に笑いがこみ上げた。


「咎めるでない、キム尚宮。ウンヨンの言う通り、全て私が招いたことなのだから。」


私の言葉に軽く頭を下げるキム尚宮。しかし、チクリとチョン内人を睨むその目は

やはり母が私に小言を言う時の目と同じであった。


「キム尚宮を見ていると、母が恋しいわね。」


私の寂しげな溜息に、三人とも「はっ」と息を呑んだ。


(ああ…私の気を晴らそうと来てくれたようなのに、もっと沈んだ話をしてしまっているわ、私ったら…。)


どこか気まずい静寂が漂う中、


「わたくしはまだ…ママ様をお子様にするような年齢ではございませんゆえ。」


あまりにも真剣なキム尚宮の言葉に、思わず吹き出してしまった。

深刻なキム尚宮の真剣な反応に、ウンヨンもナリもぷっと笑いを漏らした。


(そうよ、沈んでいられない。運命なんて、受け入れると決めたではないか。

殿下の心が離れても、私は最後までその心を護ると言ったではないか。

なのにこの程度で何を…。)


笑いが収まっていく私の顔色をうかがいながら、チョン内人が口を開いた。


「それでもママは殿下の初恋でいらっしゃいます。」


「やだもう〜、それが何になるの、ウンヨン。私は妾同然なのに。」


私の言葉に、熱心に果物の皮を剥いていたナリが手を止め、言った。


「公式には本妻でも、心には勝てません。殿下の眼差しをご覧になりましたでしょう?

ママをご覧になるたび、目に蜜が滴り落ちるようでしたと申しますか?」


ナリの言葉に、またもや笑いがこみ上げた。


(蜜が滴り落ちるなどという言葉を朝鮮時代で聞くとは…。)


だが不思議なことに、

その言葉に心が少し落ち着き、安堵感が広がった。

私の髪を静かに梳かしていたキム尚宮も口を開いた。


「殿下がいかなるお立場であろうと、ママをお忘れになることはございますまい。

そもそも、一度根付いた心は容易に動かせぬものでございます。

お二方は一つ所に心を埋められませんでしたか。」


頷いた。


(そうよ、あの人の心が私に向いていることを

忘れなければ良いのだ。

これは…しばし吹き抜ける風のようなものだ。

通り過ぎれば、残るのは結局、根なのだから。)


夜は深まり、部屋の中は静かになった。

私邸の灯りは長い間消えなかった。

時折、風に乗って広がる女たちの笑い声が

夜明けまで続いていた。


*オンドル:韓国の伝統的な床暖房。熱源に近い上座側を「アレンモク(ア랫목)」と呼び、通常温かい場所を指す。ここでは冷気が漂うという対比表現。

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