日の傾き、心の影
日差しがゆっくりと布団の上に流れた。
肌を伝った温もりが、布団の中に残っていた。
ゆっくりと留まる彼の手先、
少し前まで私を抱きしめていた、その方の体温が
未だ布団の中に静かに息づいているのが感じられる。
姿勢を少し変えようとすると、
再び初夜の痛みの如く
腰のあたりがまた、ずきずきと疼いた。
(…腰よ、本当に…。)
彼の尋常ならざる激しい体力に、
ついてゆくのは容易ではなかった。
顔を慎重に巡らせる。
深く眠る彼の姿が、再び胸を揺さぶった。
目を閉じたまま、
長く伸びた睫毛の下で
ゆったりと息をしていた。
安らかに見える、とでも言うべきか。
口数の少ない彼が、ただひたすら哀惜に思えた。
このまま時が止まれば良いのに、
そうなるはずがないことなど
分かりすぎるほど知っていた。
むくれた顔で眺めていると、顔を背けようとした矢先、
「きゃっ…!」
突如背後から抱きしめてくる彼の動きに、はっと驚いた。
「あ、あの…殿下、お目覚めでございましたか。」
返事の代わりに私の髪をくしゃくしゃにするだけで終える彼であった。
首筋に埋もれる彼の唇は、あまりにも魅惑的で。
「殿下…」
恥ずかしさのあまり布団で顔を覆った。
「これほど痩せていては…私の体力についてこられるか。」
声に笑みが含まれていた。
起き上がろうと躊躇う彼の動きが感じられた。
躊躇する彼の手をぎゅっと握ると、すぐに微笑んで身を起こした。
私は頭だけをひょいと出し、
彼の後ろ姿を眺めた。
日差しの下、きちんと帯を締める手つき。
輝くその姿は、まるでCGを施したかのように非現実的であった。
(あの姿…少々、ずるいのではないか。)
私の視線を感じたのか、こちらに近づいて唇にちゅっと口づけをし、にこりと微笑んだ。
「そなたのための殿閣を設けている。」
その言葉に、目が丸くなった。
「そこならば、毎日このような姿が見られよう。」
しばし躊躇したかと思うと、
戯れるような顔で耳元に囁いた。
「眠る気は捨てた方が良いだろうな。」
…え?
何と仰せですか、殿下?
「殿下、そのお言葉は…あまりにも…」
手で頬を覆った。
口角が自然に上がるのを必死に抑えた。
(いや、なぜこのような言葉に心が騒ぐのか、私としたことが…。
これならもっと恋を経験しておくべきだったのに、
まるきり免疫がないものだから…。)
私の反応に豪快な笑みを浮かべる彼の姿は、
異質なほどに美しかった。
(あのように笑うのをほとんど見たことがなかったのに…
それほどに親しくなったのであろうか…。)
身支度を整えていた彼が、戸口に立った。
私も慌てて身なりを整え、後を追った。
どれほど歩いたであろうか、
彼は顔を向けずに言った。
「もうすぐ中殿の嘉礼が始まる。」
朝鮮王室の嘉礼。
王妃が定まれば、礼曹が主導して儀式を準備し、
三簡択の後、宮中に迎え入れられ
正式に内命婦の首長として封じられる、その全ての段取り。
礼服は金箔を施した青色の唐衣。
頭にはチョクトゥリと龍簪。
その隣に立つのは…間違いなく、
仁顕王后であったな…。
振り返らないかと思われた彼が、ゆっくりと私の方へ近づいてきた。
視線を交わしたその瞳の奥から彼の心が感じられるようで、胸が締め付けられた。
そして、ゆっくりと近づき、私を深く抱きしめた。
蝶が花に舞い降りるように、いつの間にか自然に落ちてきた彼の唇は、
ただ温かく感じられた。
「すぐに迎えに来よう。」
それは単なる私の気のせいか、彼の声が詰まったように聞こえ、
再び彼を見上げようとしたが、
急ぎ振り返った彼の顔を確認することは叶わなかった。
そうして、
彼の道袍の裾が庭を過ぎ、
影が柱を伝って流れていった。
遠ざかる後ろ姿を
私は長い間、見つめていた。
彼が視界から完全に消え去った後、
静かに唇を開いた。
「張玉貞…そなたはどうしたいのか。」
(たしかに…私が決められることなど、何があるだろうか。
ただ、愛すること以外に…。)
振り返る私の後ろから
宮の向こうで銅鑼の音が聞こえるようだった。
遠くから次第に近づいてくる
荘厳で重々しい響き。
そうして朝鮮の王妃、中殿の冊封式の日が近づいた。
その日の陽は、ことのほかゆっくりと傾いていった。